第23話
文字数 1,148文字
「三久路 君、キヨさんにカンファレンス結果報告してきてくれる?
退院は少し延びることになりましたけど、しっかりリハビリ続けてお家に帰りましょうねって。
最近意識が混濁する時間も多いし、もしかしたら寝てるかもしれないけどーー」
「わかりました」
日向 さんに返事をすると三久路君はすぐにキヨさんの病室がある615号室に向かいました。
が、途中、談話室で車椅子に乗った高齢の男性がお茶を入れたコップをひっくり返してしまったのを見ると、慌てて駆け寄りました。綺麗に後片付けを済ませて男性を病室まで送り届けたあと、615号室に入ったミクロ君の叫び声が聞こえたのはそれからすぐのことでした。
「誰かーー! 来てください!!
キヨさんがーー!!」
『おばあさん、兵隊さんのこと怖くないの?
あの時はあんなにびっくりしてたのにーー』
翔太君が不思議そうにキヨさんに聞きます。
『はい、大丈夫ですよ。
最初見た時は驚いたけど、この兵隊さん、私のお父さんの友達なんですって』
キヨさんの病室で、ロッカーの上に座っている時は無表情だった兵隊さんでしたが、今は穏やかな顔をしています。
『父に戦場で命を救われた方で、死に際に家族のことを頼むと言われたそうです。
その時に必ず、必ず約束を果たすと父と約束をし、誓ったそうです。
その後、この方も生きて帰ることは叶わなかったそうですが、それでも父との約束を果たそうと私を迎えに来てくれたんです』
『そうだったんですか』
兵隊さんは相変わらず何も話しませんが、右手を差し出してキヨさんの進む道へ誘導します。
『おばあさん、兵隊さんと一緒に行くの?』
『ええ、もうそろそろ行かないといけないみたいですね』
そう言うと、キヨさんは兵隊さんと一緒に歩き出そうとしました。が、ふと立ち止まり
『すいません、最後にもう少しだけ』
そう言うと、ベッドに横たわって動かないキヨさんの手を握り、茫然としている百合子さんの側に行くと、百合子さんをギュッと抱きしめました。
『百合ちゃん、今まで本当にありがとう。
宗男が早くに亡くなって、それから再婚することだって出来たのに、それからも本当の親子みたいに、こんな私のこと慕ってくれて。本当の親子みたいにいっぱい喧嘩もしたけど、百合ちゃんと過ごした楽しい日々は私の宝物です』
そう言うとキヨさんは『お待たせしました』と言いながら兵隊さんと二人どんどんと廊下を歩いてやがて見えなくなりました。
『お母さん、お母さんーー。
置いていかないでーー。
寂しい、寂しいよーー』
百合子さんがキヨさんの手を握って泣いている姿を見て、翔太君が百合子さんの背中をさすります。
『おばちゃん、大丈夫、大丈夫だよーー、
泣かないでーー』
私も翔太君と一緒にただ百合子さんの背中をさすることしか出来ませんでした。
退院は少し延びることになりましたけど、しっかりリハビリ続けてお家に帰りましょうねって。
最近意識が混濁する時間も多いし、もしかしたら寝てるかもしれないけどーー」
「わかりました」
が、途中、談話室で車椅子に乗った高齢の男性がお茶を入れたコップをひっくり返してしまったのを見ると、慌てて駆け寄りました。綺麗に後片付けを済ませて男性を病室まで送り届けたあと、615号室に入ったミクロ君の叫び声が聞こえたのはそれからすぐのことでした。
「誰かーー! 来てください!!
キヨさんがーー!!」
『おばあさん、兵隊さんのこと怖くないの?
あの時はあんなにびっくりしてたのにーー』
翔太君が不思議そうにキヨさんに聞きます。
『はい、大丈夫ですよ。
最初見た時は驚いたけど、この兵隊さん、私のお父さんの友達なんですって』
キヨさんの病室で、ロッカーの上に座っている時は無表情だった兵隊さんでしたが、今は穏やかな顔をしています。
『父に戦場で命を救われた方で、死に際に家族のことを頼むと言われたそうです。
その時に必ず、必ず約束を果たすと父と約束をし、誓ったそうです。
その後、この方も生きて帰ることは叶わなかったそうですが、それでも父との約束を果たそうと私を迎えに来てくれたんです』
『そうだったんですか』
兵隊さんは相変わらず何も話しませんが、右手を差し出してキヨさんの進む道へ誘導します。
『おばあさん、兵隊さんと一緒に行くの?』
『ええ、もうそろそろ行かないといけないみたいですね』
そう言うと、キヨさんは兵隊さんと一緒に歩き出そうとしました。が、ふと立ち止まり
『すいません、最後にもう少しだけ』
そう言うと、ベッドに横たわって動かないキヨさんの手を握り、茫然としている百合子さんの側に行くと、百合子さんをギュッと抱きしめました。
『百合ちゃん、今まで本当にありがとう。
宗男が早くに亡くなって、それから再婚することだって出来たのに、それからも本当の親子みたいに、こんな私のこと慕ってくれて。本当の親子みたいにいっぱい喧嘩もしたけど、百合ちゃんと過ごした楽しい日々は私の宝物です』
そう言うとキヨさんは『お待たせしました』と言いながら兵隊さんと二人どんどんと廊下を歩いてやがて見えなくなりました。
『お母さん、お母さんーー。
置いていかないでーー。
寂しい、寂しいよーー』
百合子さんがキヨさんの手を握って泣いている姿を見て、翔太君が百合子さんの背中をさすります。
『おばちゃん、大丈夫、大丈夫だよーー、
泣かないでーー』
私も翔太君と一緒にただ百合子さんの背中をさすることしか出来ませんでした。