第9話
文字数 2,378文字
後で詳しく聞いた話では、おばさんの大きなお尻が当たった衝撃で偶然、ブレスレットがゴミ箱に落ちてしまったそうです。
そしてそれがゴミとして大きなカートに回収されたらしいのですが、私たちの特殊能力(と言っても大したことは出来ないのですが、ティッシュ1枚くらいの軽い物やカーテンくらいなら軽い風を起こして動かすことくらいは出来るのです)と、機転を使って、山口君は何とかブレスレットがゴミとして捨てられてしまうところからここまで持ってきたそうです。
ですが、私達はブレスレットのような物を持ち上げて移動したりすることは出来ません。
誰かに見つけてもらうしかないのです。
その時、コンコンとノックがして小さな女の子とその母親らしい女の人が入ってきました。
「じいじーー」
「おーー、芽依ちゃん、来てくれたのか」
そう言うと松川さんは形相を崩しながら芽依ちゃんを古和 先生の前まで連れて来ました。
「先生、うちの可愛い孫です」
「こんにちは。芽依ちゃん」
「こんにちは。芽依ちゃんもうすぐ4歳になるの」
「そう、きちんと挨拶出来てえらいね」
「いつも父がお世話になっております」
「何だ、京子、お前もいたのか」
「呆れた。芽依が一人でこんなとこまで来られるわけないでしょう? 全くもう」
「ちょうど良かった。娘さんにも一緒に検査結果について聞いてもらいましょう」
そう言うと、古和先生は松川さん、京子さんをソファーに座らせて松川さんの検査結果について話始めました。
すると、芽依ちゃんは私と山口君の側まで来ると、こんにちは、とぺこりと頭を下げて挨拶をしてくれました。なんて可愛いんでしょう。
どうしてかはわかりませんが、小さな子どもの中には、私たちの姿が見えたり、声が聞こえたりする子が多いようです。
成長するにつれて段々と、私たちの存在を感じなくなっていく子がほとんどのようですが。
芽依ちゃんにも私と山口君の姿が見えているようなので、この可愛い女の子と少しお話ししてみたくなりました。
『こんにちは、芽依ちゃん。おじいちゃんのこと好き?』
「うん、芽依、じいじい大ーー好き。
じいじいはねえ、芽依が欲しいって言ったらママに内緒で何でも買ってくれるの。
でもね、時々ママに見つかってすごく怒られるんだよ」
『うふふふ、そうなんだ。芽依ちゃん何が好きなの?』
「うーーんとね、食べ物はイチゴとケーキ。じいじいの近くにあるケーキ屋さんのイチゴのケーキすごく美味しいの」
『そうなの、いいなあ』
「じゃあ、今度芽依がじいじいに頼んで、おばちゃんの分もケーキ買ってもらってあげる。
お兄ちゃんも分も買ってもらうよ。
何ケーキがいい?」
そう言うと芽依ちゃんは微笑みながら私と芽依ちゃんの会話を聞いていた山口君を見上げました。
『ありがとう、芽依ちゃん。
でもおばちゃんもこのお兄ちゃんもケーキ食べられないの』
「えー、どうして?
虫歯いっぱいなの?」
『そうじゃないんだけどーー』
芽依ちゃんに何て言おうか考えていると山口君が芽依ちゃんに言いました。
『芽依ちゃん、お兄ちゃんケーキいらないから一つお願い聞いてくれる?
お兄ちゃんにあれ取ってくれないかな』
山口君はそう言うと屈んでソファーの下のブレスレットを指さしました。
山口君を真似してしゃがんでブレスレットを見つけた芽衣ちゃんは、いいよー、と言いながらすぐに腹這いにり、ソファーの下に小さな体を潜り込ませました。
「ちょっと、芽依! 何してるの!?」
芽依ちゃんの様子に気がついた京子さんが慌てて芽依ちゃんを立たせます。
「もう、じいじいに会うからっておしゃれしてきたのに、お洋服汚れちゃうでしょ」
京子さんは、もう芽依ったらこのお洋服じゃなきゃ嫌だって出かける前に駄々こねてたのに外出るとおてんばでどこでも寝っ転がったりするんだからーーなどとぶつぶつ言いながら芽依ちゃんの着ている服を手でパタパタと払いました。
その時、芽依ちゃんの小さな手が何かを握りしめていることに気がつきました。
「芽依、何持ってるの?」
芽依ちゃんは京子さんの問いには答えず、山口君の側までくると、ブレスレットを差し出しました。
「はい、お兄ちゃん」
山口君はにっこり笑っています。
「芽依、そのブレスレットどうしたの? どこにあったの?」
「お兄ちゃんにこの石の輪っか取ってって、芽依お願いされたの。
だから芽依取ってあげたんだよ」
『芽依ちゃん、ありがとう。
その輪っかお母さんに渡してくれる?
落とし物だって言って』
芽依ちゃんはしばらく不思議そうに山口君を見ていましたが、わかったと言うふうに頷くと京子さんにブレスレットを差し出しました。
「ママー、この石の輪っか、落とし物なんだって」
「あーー、ソファーの下に落ちてたのね。
それにしても芽依ったら誰もいないのにまるで誰かいるような話し方するのやめなさい。古和先生に笑われーー」
古和先生の方を振り向いた京子さんは、驚いて言葉を呑み込みました。
騒動を見守っていた古和先生の顔が真っ青だったからです。
古和先生の方がよっぽど病人のようです。
「先生、大丈夫ですか?」京子さんが心配そうに尋ねます。
「あーー先生、気にしないでください。
うちの芽依は、時々こうして空想上の誰かと話す癖があるんですよ。
小さい子にはよくあることです。
京子も小さい頃はよくやってました。」
松川さんの言葉にえーー、そうだっけ? 全然覚えてないーーそう言いながら松川さんと京子さんは談笑しています。
そうこうしているうちに古和先生の顔色が青から白くなっていきますーー。
「ちょっと気分がーー。すいません、失礼します。話の続きはまた今度」
そう言うと呆気に取られた二人を前に古和先生は逃げるように病室を出て行きました。
全く、いざと言う時に頼りにならない人、それがこわがり先生です。
そしてそれがゴミとして大きなカートに回収されたらしいのですが、私たちの特殊能力(と言っても大したことは出来ないのですが、ティッシュ1枚くらいの軽い物やカーテンくらいなら軽い風を起こして動かすことくらいは出来るのです)と、機転を使って、山口君は何とかブレスレットがゴミとして捨てられてしまうところからここまで持ってきたそうです。
ですが、私達はブレスレットのような物を持ち上げて移動したりすることは出来ません。
誰かに見つけてもらうしかないのです。
その時、コンコンとノックがして小さな女の子とその母親らしい女の人が入ってきました。
「じいじーー」
「おーー、芽依ちゃん、来てくれたのか」
そう言うと松川さんは形相を崩しながら芽依ちゃんを
「先生、うちの可愛い孫です」
「こんにちは。芽依ちゃん」
「こんにちは。芽依ちゃんもうすぐ4歳になるの」
「そう、きちんと挨拶出来てえらいね」
「いつも父がお世話になっております」
「何だ、京子、お前もいたのか」
「呆れた。芽依が一人でこんなとこまで来られるわけないでしょう? 全くもう」
「ちょうど良かった。娘さんにも一緒に検査結果について聞いてもらいましょう」
そう言うと、古和先生は松川さん、京子さんをソファーに座らせて松川さんの検査結果について話始めました。
すると、芽依ちゃんは私と山口君の側まで来ると、こんにちは、とぺこりと頭を下げて挨拶をしてくれました。なんて可愛いんでしょう。
どうしてかはわかりませんが、小さな子どもの中には、私たちの姿が見えたり、声が聞こえたりする子が多いようです。
成長するにつれて段々と、私たちの存在を感じなくなっていく子がほとんどのようですが。
芽依ちゃんにも私と山口君の姿が見えているようなので、この可愛い女の子と少しお話ししてみたくなりました。
『こんにちは、芽依ちゃん。おじいちゃんのこと好き?』
「うん、芽依、じいじい大ーー好き。
じいじいはねえ、芽依が欲しいって言ったらママに内緒で何でも買ってくれるの。
でもね、時々ママに見つかってすごく怒られるんだよ」
『うふふふ、そうなんだ。芽依ちゃん何が好きなの?』
「うーーんとね、食べ物はイチゴとケーキ。じいじいの近くにあるケーキ屋さんのイチゴのケーキすごく美味しいの」
『そうなの、いいなあ』
「じゃあ、今度芽依がじいじいに頼んで、おばちゃんの分もケーキ買ってもらってあげる。
お兄ちゃんも分も買ってもらうよ。
何ケーキがいい?」
そう言うと芽依ちゃんは微笑みながら私と芽依ちゃんの会話を聞いていた山口君を見上げました。
『ありがとう、芽依ちゃん。
でもおばちゃんもこのお兄ちゃんもケーキ食べられないの』
「えー、どうして?
虫歯いっぱいなの?」
『そうじゃないんだけどーー』
芽依ちゃんに何て言おうか考えていると山口君が芽依ちゃんに言いました。
『芽依ちゃん、お兄ちゃんケーキいらないから一つお願い聞いてくれる?
お兄ちゃんにあれ取ってくれないかな』
山口君はそう言うと屈んでソファーの下のブレスレットを指さしました。
山口君を真似してしゃがんでブレスレットを見つけた芽衣ちゃんは、いいよー、と言いながらすぐに腹這いにり、ソファーの下に小さな体を潜り込ませました。
「ちょっと、芽依! 何してるの!?」
芽依ちゃんの様子に気がついた京子さんが慌てて芽依ちゃんを立たせます。
「もう、じいじいに会うからっておしゃれしてきたのに、お洋服汚れちゃうでしょ」
京子さんは、もう芽依ったらこのお洋服じゃなきゃ嫌だって出かける前に駄々こねてたのに外出るとおてんばでどこでも寝っ転がったりするんだからーーなどとぶつぶつ言いながら芽依ちゃんの着ている服を手でパタパタと払いました。
その時、芽依ちゃんの小さな手が何かを握りしめていることに気がつきました。
「芽依、何持ってるの?」
芽依ちゃんは京子さんの問いには答えず、山口君の側までくると、ブレスレットを差し出しました。
「はい、お兄ちゃん」
山口君はにっこり笑っています。
「芽依、そのブレスレットどうしたの? どこにあったの?」
「お兄ちゃんにこの石の輪っか取ってって、芽依お願いされたの。
だから芽依取ってあげたんだよ」
『芽依ちゃん、ありがとう。
その輪っかお母さんに渡してくれる?
落とし物だって言って』
芽依ちゃんはしばらく不思議そうに山口君を見ていましたが、わかったと言うふうに頷くと京子さんにブレスレットを差し出しました。
「ママー、この石の輪っか、落とし物なんだって」
「あーー、ソファーの下に落ちてたのね。
それにしても芽依ったら誰もいないのにまるで誰かいるような話し方するのやめなさい。古和先生に笑われーー」
古和先生の方を振り向いた京子さんは、驚いて言葉を呑み込みました。
騒動を見守っていた古和先生の顔が真っ青だったからです。
古和先生の方がよっぽど病人のようです。
「先生、大丈夫ですか?」京子さんが心配そうに尋ねます。
「あーー先生、気にしないでください。
うちの芽依は、時々こうして空想上の誰かと話す癖があるんですよ。
小さい子にはよくあることです。
京子も小さい頃はよくやってました。」
松川さんの言葉にえーー、そうだっけ? 全然覚えてないーーそう言いながら松川さんと京子さんは談笑しています。
そうこうしているうちに古和先生の顔色が青から白くなっていきますーー。
「ちょっと気分がーー。すいません、失礼します。話の続きはまた今度」
そう言うと呆気に取られた二人を前に古和先生は逃げるように病室を出て行きました。
全く、いざと言う時に頼りにならない人、それがこわがり先生です。