第67話
文字数 1,963文字
「院長先生!
もう出てきていいんですか?」
中尾師長の声を聞きつけた病棟スタッフや、近くにいた患者さんが、エレベーターを降りてきた政光 さんの周りに集まってきます。
久しぶりに見る政光さんは顔色も良く、少しふっくらしたようにも見えます。
私はほっと胸を撫で下ろしました。
「皆には心配かけたね。
もうすっかり元気だよーー。
さっ、今日は久しぶりの回診があるからね!
患者の皆さんは病室に戻って待っててくれるかな?
長いこと休んだんで、仕事したくてうずうずしてるんだーー」
そう言うと、政光さんは白衣の袖を捲り上げる仕草をしました。
患者さんたちは、院長先生、あまり飛ばしすぎないでねーーなどと笑いながら各々の病室に戻っていきます。
城山病院にいつもの日常が戻ってきました。
「さあ! まあちゃん、ぼちぼち始めようか」
「はい!
すぐ準備してくるので、そこの談話室の椅子に座って待ってて下さい」
中尾師長はそう言うと早足でナースステーションに入っていきます。
政光さんは談話室の窓から外を眺めています。
「なつさん。
きっと今もそこにいてくれてるんだろうね。
あの時、一瞬迷ってしまったからなのか、それとも芽留 先生の必死の治療のおかげなのかーー。
正直どうしてまだこっちの世界にいるのか、僕にもよくわからない。
けど、あの時なつさんに会ったことだけは、はっきり覚えているんだーー」
あの時、悠花ちゃんが偶然忘れ物を取りに病院に戻ってきた芽留 先生を見つけなければ、きっと政光さんはソウルとなり、私と次の世界に旅立っていたんだと思います。
でも、人の生き死にとはそういうことなのだと思います。
様々な偶然が重なって、政光さんは今生かされているんだと思います。
『政光さん、私はいつまでも待っていーー』
『わっ!!』
『ばーー!!』
「キャーーーー!!」
あの声は日向 さん!?
驚いて振り返ると日向さんがナースステーションの入り口で尻もちをついています。
『こらーー!!』
私が駆け寄ろうとすると悠花ちゃんと爽太くんがキャッキャッと笑いながら廊下を走り抜けて行きます。
菜那ちゃんがいなくなってしばらく落ち込んでいた悠花ちゃんでしたが、最近どこからか連れてきた少し年下の爽太くんと仲良しになり、病院内を駆け回っています。
元気なのは良いのですが最近少しイタズラがすぎるようです。
悠花ちゃんは『キャーー、なつさんに怒られるのやだーー、爽太早く早くーー』などと言いながら廊下を走って行きましたが、途中で古和 先生を見つけると、二人で古和先生の肩に飛びついたり足にまとわりついたりしています!
途端に、古和先生の顔色が青白くなっていきますーー。
『悠花ちゃん! 爽太くん!
やめなさい!!』
二人はピタッと動きを止めましたが、なんと私に向かってアッカンベーをしたかと思うと廊下の奥へと走っていくではないですか!?
全くーー! 最近二人は少し調子に乗りすぎているようです!
後でじっくりとお灸を据えなければーー。
「ーーーー時を覚えているかい?
あの時君が忘れ物をしたもんだから、僕が駅前の映画館で1時間半も待ちぼうけをーー」
政光さん、まだ話してたんですねーー。
ごめんなさい、私は私でまだここでやることが沢山あるみたいなんです。
こう見えて私も結構忙しいんですよーー。
「ーーそれでね、その時僕が月を見ながら思ってたのはーー」
政光さんの一人話は置いておくとして、転んだ日向さんに駆け寄って手を差し伸べているあのイケメンは一体誰なのです!?
「大丈夫ですか?」
「ーーったーーい。
えっ、あっ、はい!
す、すいません。
大丈夫ですーー」
日向さんはイケメンさんの手を借りて起き上がりながら、あら、わかりやすく心拍数が上がったようですよーー。
「あのーー、今日入院された松村さんの病室を教えてもらっていいですか?」
「あーー、あのーー」
「あっ、申し遅れました。
今週からリハビリ室に入職しました作業療法士の小野田太星です。
よろしくお願いします!」
「あっ、富永 日向です。
こちらこそよろしくお願いしますーー。
あのーー、松村さんは610ですーー」
「ありがとうございます!」
「何?
あのイケメン誰?」
「東主任ーーじゃなくて古和主任」
「新しく入られたOTさんみたいです」
「へーー。
うちのリハ室って白河さんといい、見た目レベル高い人多いわよねーー。
まあ、ライバル多いと思うけど富永さんも頑張れ!」
えーー、そんなんじゃないですよーーなどと振り向いた日向さんの目に入ってきたのは610号室に向かう小野くんを目で追う沢山のスタッフの姿でした。
日向さん、ファイト!! です。
「悪いーー、ちょっとだけ休ませてーー」
そこへ飛び込んできたのは顔を青くした古和先生です。
あーー今日もいつもに増して城山病院は賑やかです!!
もう出てきていいんですか?」
中尾師長の声を聞きつけた病棟スタッフや、近くにいた患者さんが、エレベーターを降りてきた
久しぶりに見る政光さんは顔色も良く、少しふっくらしたようにも見えます。
私はほっと胸を撫で下ろしました。
「皆には心配かけたね。
もうすっかり元気だよーー。
さっ、今日は久しぶりの回診があるからね!
患者の皆さんは病室に戻って待っててくれるかな?
長いこと休んだんで、仕事したくてうずうずしてるんだーー」
そう言うと、政光さんは白衣の袖を捲り上げる仕草をしました。
患者さんたちは、院長先生、あまり飛ばしすぎないでねーーなどと笑いながら各々の病室に戻っていきます。
城山病院にいつもの日常が戻ってきました。
「さあ! まあちゃん、ぼちぼち始めようか」
「はい!
すぐ準備してくるので、そこの談話室の椅子に座って待ってて下さい」
中尾師長はそう言うと早足でナースステーションに入っていきます。
政光さんは談話室の窓から外を眺めています。
「なつさん。
きっと今もそこにいてくれてるんだろうね。
あの時、一瞬迷ってしまったからなのか、それとも
正直どうしてまだこっちの世界にいるのか、僕にもよくわからない。
けど、あの時なつさんに会ったことだけは、はっきり覚えているんだーー」
あの時、悠花ちゃんが偶然忘れ物を取りに病院に戻ってきた
でも、人の生き死にとはそういうことなのだと思います。
様々な偶然が重なって、政光さんは今生かされているんだと思います。
『政光さん、私はいつまでも待っていーー』
『わっ!!』
『ばーー!!』
「キャーーーー!!」
あの声は
驚いて振り返ると日向さんがナースステーションの入り口で尻もちをついています。
『こらーー!!』
私が駆け寄ろうとすると悠花ちゃんと爽太くんがキャッキャッと笑いながら廊下を走り抜けて行きます。
菜那ちゃんがいなくなってしばらく落ち込んでいた悠花ちゃんでしたが、最近どこからか連れてきた少し年下の爽太くんと仲良しになり、病院内を駆け回っています。
元気なのは良いのですが最近少しイタズラがすぎるようです。
悠花ちゃんは『キャーー、なつさんに怒られるのやだーー、爽太早く早くーー』などと言いながら廊下を走って行きましたが、途中で
途端に、古和先生の顔色が青白くなっていきますーー。
『悠花ちゃん! 爽太くん!
やめなさい!!』
二人はピタッと動きを止めましたが、なんと私に向かってアッカンベーをしたかと思うと廊下の奥へと走っていくではないですか!?
全くーー! 最近二人は少し調子に乗りすぎているようです!
後でじっくりとお灸を据えなければーー。
「ーーーー時を覚えているかい?
あの時君が忘れ物をしたもんだから、僕が駅前の映画館で1時間半も待ちぼうけをーー」
政光さん、まだ話してたんですねーー。
ごめんなさい、私は私でまだここでやることが沢山あるみたいなんです。
こう見えて私も結構忙しいんですよーー。
「ーーそれでね、その時僕が月を見ながら思ってたのはーー」
政光さんの一人話は置いておくとして、転んだ日向さんに駆け寄って手を差し伸べているあのイケメンは一体誰なのです!?
「大丈夫ですか?」
「ーーったーーい。
えっ、あっ、はい!
す、すいません。
大丈夫ですーー」
日向さんはイケメンさんの手を借りて起き上がりながら、あら、わかりやすく心拍数が上がったようですよーー。
「あのーー、今日入院された松村さんの病室を教えてもらっていいですか?」
「あーー、あのーー」
「あっ、申し遅れました。
今週からリハビリ室に入職しました作業療法士の小野田太星です。
よろしくお願いします!」
「あっ、
こちらこそよろしくお願いしますーー。
あのーー、松村さんは610ですーー」
「ありがとうございます!」
「何?
あのイケメン誰?」
「東主任ーーじゃなくて古和主任」
「新しく入られたOTさんみたいです」
「へーー。
うちのリハ室って白河さんといい、見た目レベル高い人多いわよねーー。
まあ、ライバル多いと思うけど富永さんも頑張れ!」
えーー、そんなんじゃないですよーーなどと振り向いた日向さんの目に入ってきたのは610号室に向かう小野くんを目で追う沢山のスタッフの姿でした。
日向さん、ファイト!! です。
「悪いーー、ちょっとだけ休ませてーー」
そこへ飛び込んできたのは顔を青くした古和先生です。
あーー今日もいつもに増して城山病院は賑やかです!!