第45話
文字数 2,340文字
「はーーーーーー」
「フーーーーーー」
「ほーーーーーー」
三人が再び休憩室に戻れたのは次の日のもうすぐお昼になろうかという時間帯でした。
「久々にマンモスウルトラスーパーハードな夜だったわよね」
衣良 さんが栄養ドリンクをグイッと飲み干して言いました。
「はい。
衣良さんがリーダーじゃなきゃ本当に終わってました」
日向 さんの顔にも疲労が隠せません。
「僕もホントにそう思います。
いつも衣良さんのことせっかち過ぎるだなんて言ってすいませんでした」
「何ですって!?
ミクロ!
陰で私のことそんな風に言ってるの!?」
衣良さんが笑いながら三久路 君の大きな体をバシバシ叩きました。
わーー、すいません、でも僕の周りには衣良さんほどのせっかちマスターはいないんですーー、まだ言う!? あはははーーーー。
三人の笑い声が休憩室に響きます。
「あっ、そうだ!
大事な伝言忘れてた!」
衣良さんは急に真面目な顔になると、日向さんに向かって言いました。
「602の桜川 さんのお父さんなんだけど、着替えやなんか家から持ってきてほしい物があるらしくて、桜川さんに頼んでくれないかーーって。
私、携帯にでも直接お電話したらいかがですか? って言ったんだけど、かけても出ないらしくて。
わかりましたーーって言ったものの、今日、桜川さんオフだよね。
富永 さん、悪いんだけど彼女に連絡してあげてくれない?」
「わかりました。
昨日の夜バタバタで、私まだご挨拶に行けてないので、帰りに病室寄って帰ろうと思ってたんです
お二人先に帰ってくださいね」
そう言うと、日向さんはお疲れ様でしたーーと衣良さんと三久路君を見送ると、602号室に向かいました。
「桜川さん、失礼します」
日向さんは602号室に入ると、四人部屋の奥のカーテンを開けました。
「あっ、看護師さん。
いつも裕子がお世話になってます」
横になっていた裕子さんのお父様が体を起こしながら言いました。
裕子さんはお父様似ですね。丸いお顔の輪郭や目元なんかがそっくりです。
少しやつれて見えるのは病気のせいだけでしょうか。
「あっ、そのままで大丈夫ですよ。
桜川さん、お腹の痛みはどうですか?」
「お陰様で、だいぶ楽になりました。
芽留 先生の話では、このまま痛みがおさまれば2、3週間で退院出来ると言うことなので、安心はしておるのですがーー」
「はい。
私も芽留副院長からそのように聞いています。
桜川さん、私、裕子さんと同期でとても親しくさせていただいてる富永 日向と言います」
「ーーそうですか。
裕子にこんな可愛い同期の方がーー。
裕子はそのーー、ちゃんと働けてるんでしょうか?
小さい時から泣き虫で、光輝 の後ろにくっついてばかりで、一人でなにも出来ないような子だったんですよ。
あっ光輝っていうのは裕子の三つ歳の離れた兄なんですが」
「えっ!?
ユッコに兄妹がいるんですか!?
ーーーー。
一人っ子だって聞いてたのでーー」
「裕子が一人っ子だとーー。
ーーそうですかーー。
ーー裕子がそんなことを言うようになったのは私のせいですねーー」
そう言うと、裕子さんのお父様は少し寂しそうに笑いました。
「中尾師長、少しいいですか?」
「富永さん! まだいたの!?
もうお昼じゃない!
早く帰りなさい。それでなくても昨夜は忙しかったって聞いてるのにーー。
疲れたでしょう?」
「あの、ユッコのお父さんのことでちょっとお話ししたいことがあって」
「わかった。
とんちゃーーん、ちょっといい?」
中尾師長はカウンターでノートパソコンを使っていた東主任を呼ぶと、三人で面談室に入りました。
「すいません。
お二人ともお忙しいのに」
「何言ってるの。
それで、桜川さんのお父さんは、なんておっしゃってたの?」
日向さんは困った顔をして話しだしました。
裕子さんに三つ歳の離れたお兄様がおられるということは、親友の日向さんも今日初めて知りました。
小さい頃にお母さまを事故で亡くし、その後は父親である和夫さんの母、裕子さんにとってのおばあさまが同居し、家事などをこなしながら桜川家を支えてくれていたそうです。
日向さんもおばあさまの話はよく聞いており、おばあちゃんのことは大好きだったし感謝しかない、などと裕子さんからよく話を聞いていました。
桜川家は母親が亡くなってから家族関係があまり上手くいっていなかったそうです。
それでも何とか一家をまとめてくれていたおばあさまが、裕子さんが高校生の時に亡くなったことで、家族の不和が決定的になってしまいました。
裕子さんは看護学校入学を機に家を出、それ以降桜川家には父親と兄の光輝さんが二人で住むことになりました。
裕子さんは家を出てからは、お母さまやおばあさまの法事で帰る以外は、全くご実家に戻ることもなかったそうです。
今回和夫さんが本当にお願いしたかったのは裕子さんの兄、光輝さんのことでした。
光輝さんは3年程前に当時働いていた会社を辞め、それ以来自分の部屋に引きこもっているそうです。
しばらくは静かに見守ろうとしていた和夫さんでしたが、いつまでたっても就職活動するでもない光輝さんに対して何かと強い口調で問い詰めるようになってしまったそうです。
そのうち部屋から出てこようとさえしなくなった光輝さんの部屋に、1年程前に無理矢理入った頃から二人の関係性はより悪化し、今では全く顔を合わせることも無くなってしまいました。
それでも光輝さんの体のことは心配で、和夫さんは昨年早期退職に応募し、光輝さんのために家事をし、食事もできるだけ手作りして部屋の前に届けるようにしているそうです。
そんな中、今回の入院となってしまい、今頼れるのは裕子さんしかいないと、涙を浮かべながら日向さんに事情を話してくれたのでした。
「フーーーーーー」
「ほーーーーーー」
三人が再び休憩室に戻れたのは次の日のもうすぐお昼になろうかという時間帯でした。
「久々にマンモスウルトラスーパーハードな夜だったわよね」
「はい。
衣良さんがリーダーじゃなきゃ本当に終わってました」
「僕もホントにそう思います。
いつも衣良さんのことせっかち過ぎるだなんて言ってすいませんでした」
「何ですって!?
ミクロ!
陰で私のことそんな風に言ってるの!?」
衣良さんが笑いながら
わーー、すいません、でも僕の周りには衣良さんほどのせっかちマスターはいないんですーー、まだ言う!? あはははーーーー。
三人の笑い声が休憩室に響きます。
「あっ、そうだ!
大事な伝言忘れてた!」
衣良さんは急に真面目な顔になると、日向さんに向かって言いました。
「602の
私、携帯にでも直接お電話したらいかがですか? って言ったんだけど、かけても出ないらしくて。
わかりましたーーって言ったものの、今日、桜川さんオフだよね。
「わかりました。
昨日の夜バタバタで、私まだご挨拶に行けてないので、帰りに病室寄って帰ろうと思ってたんです
お二人先に帰ってくださいね」
そう言うと、日向さんはお疲れ様でしたーーと衣良さんと三久路君を見送ると、602号室に向かいました。
「桜川さん、失礼します」
日向さんは602号室に入ると、四人部屋の奥のカーテンを開けました。
「あっ、看護師さん。
いつも裕子がお世話になってます」
横になっていた裕子さんのお父様が体を起こしながら言いました。
裕子さんはお父様似ですね。丸いお顔の輪郭や目元なんかがそっくりです。
少しやつれて見えるのは病気のせいだけでしょうか。
「あっ、そのままで大丈夫ですよ。
桜川さん、お腹の痛みはどうですか?」
「お陰様で、だいぶ楽になりました。
「はい。
私も芽留副院長からそのように聞いています。
桜川さん、私、裕子さんと同期でとても親しくさせていただいてる
「ーーそうですか。
裕子にこんな可愛い同期の方がーー。
裕子はそのーー、ちゃんと働けてるんでしょうか?
小さい時から泣き虫で、
あっ光輝っていうのは裕子の三つ歳の離れた兄なんですが」
「えっ!?
ユッコに兄妹がいるんですか!?
ーーーー。
一人っ子だって聞いてたのでーー」
「裕子が一人っ子だとーー。
ーーそうですかーー。
ーー裕子がそんなことを言うようになったのは私のせいですねーー」
そう言うと、裕子さんのお父様は少し寂しそうに笑いました。
「中尾師長、少しいいですか?」
「富永さん! まだいたの!?
もうお昼じゃない!
早く帰りなさい。それでなくても昨夜は忙しかったって聞いてるのにーー。
疲れたでしょう?」
「あの、ユッコのお父さんのことでちょっとお話ししたいことがあって」
「わかった。
とんちゃーーん、ちょっといい?」
中尾師長はカウンターでノートパソコンを使っていた東主任を呼ぶと、三人で面談室に入りました。
「すいません。
お二人ともお忙しいのに」
「何言ってるの。
それで、桜川さんのお父さんは、なんておっしゃってたの?」
日向さんは困った顔をして話しだしました。
裕子さんに三つ歳の離れたお兄様がおられるということは、親友の日向さんも今日初めて知りました。
小さい頃にお母さまを事故で亡くし、その後は父親である和夫さんの母、裕子さんにとってのおばあさまが同居し、家事などをこなしながら桜川家を支えてくれていたそうです。
日向さんもおばあさまの話はよく聞いており、おばあちゃんのことは大好きだったし感謝しかない、などと裕子さんからよく話を聞いていました。
桜川家は母親が亡くなってから家族関係があまり上手くいっていなかったそうです。
それでも何とか一家をまとめてくれていたおばあさまが、裕子さんが高校生の時に亡くなったことで、家族の不和が決定的になってしまいました。
裕子さんは看護学校入学を機に家を出、それ以降桜川家には父親と兄の光輝さんが二人で住むことになりました。
裕子さんは家を出てからは、お母さまやおばあさまの法事で帰る以外は、全くご実家に戻ることもなかったそうです。
今回和夫さんが本当にお願いしたかったのは裕子さんの兄、光輝さんのことでした。
光輝さんは3年程前に当時働いていた会社を辞め、それ以来自分の部屋に引きこもっているそうです。
しばらくは静かに見守ろうとしていた和夫さんでしたが、いつまでたっても就職活動するでもない光輝さんに対して何かと強い口調で問い詰めるようになってしまったそうです。
そのうち部屋から出てこようとさえしなくなった光輝さんの部屋に、1年程前に無理矢理入った頃から二人の関係性はより悪化し、今では全く顔を合わせることも無くなってしまいました。
それでも光輝さんの体のことは心配で、和夫さんは昨年早期退職に応募し、光輝さんのために家事をし、食事もできるだけ手作りして部屋の前に届けるようにしているそうです。
そんな中、今回の入院となってしまい、今頼れるのは裕子さんしかいないと、涙を浮かべながら日向さんに事情を話してくれたのでした。