第25話
文字数 1,315文字
しばらくすると、救急隊がストレッチャーを押しながら病棟に上がってきました。
「608号室です。よろしくお願いします」
日向 さんが声をかけながら救急隊員の先頭に立って誘導します。
「あっ、院長」
次にエレベーターから降りてきたのは、なんと城山院長です。
「悪い、遅くなって。救急隊の人は?」
「今到着したところで、佐々木さんの病室に向かってもらったところです」
「そうかーー」
「ハッ、ハッ、ハッーー、院長!
何かあったんですか?」
バタバタと階段を駆け上がる音が響いて、エレベーター横の階段につながる扉が開いたかと思うと、姿を現したのは息を切らせた古和 先生でした。
そこへストレッチャーに乗せられた美津子さんが救急隊員や日向さん、里奈さんたちに囲まれて運ばれてきました。
古和先生はストレッチャーに乗せられた美津子さんを見るとパッと目をそらせました。
「それでは今から佐々木美津子さんを瀧川病院まで転院搬送させていただきます。
同乗する医師は1階で待機されてますか?」
「いえ、ここにいる古和医師が同乗します」
城山院長のこの言葉に、その場にいた師長以外の病院スタッフは全員驚きました。
ストレッチャーに乗った美津子さんも側にいる里奈さんもとても驚いています。
「院長! 俺、いや私今外来途中ですよ! それにそのーー佐々木さんの主治医は能見 じゃないですか?
なぜ私がーー」
「これは院長命令だよ、古和先生。
うちの病院もゆくゆくは緩和ケア病棟を準備していかなきゃいけないと思ってるんだ。
今回この機会に、うちの病院を代表して、古和先生には瀧川病院の緩和ケア病棟の特徴をよく見てきて欲しいんだ。
今日はそのまま直帰していいからーー」
「は? ですから今外来診察の途中ーー」
「私が代診するよ。
まだまだ古和先生にも負けない仕事は出来るつもりだけどね」
「あのーー、どなたでもいいので、そろそろ誰が同乗するのか決めてもらいたいんですけど」
成り行きを見守っていた救急隊員が見かねて言いました。
「すいません、お時間取らせてーー。
ほら! 古和先生、早く行って!
これは院長命令だよ」
最後は東主任が古和先生のお尻をバン! と叩くと、先生はとうとう諦めて救急隊員と美津子さんが乗ったストレッチャーと一緒にエレベーターに乗り込みました。
『なつさん!
僕あのおばあさんと一緒に行く!』
『えっ! 翔太君!?』
『ミツコさん、僕のこと見えてるんだ。
この病院に来てから、僕にいっぱい絵本読んでくれたりお話してくれたりするんだ。
僕、ミツコさんと一緒にいたい。
それに、このおじさんたち、救急車に乗ってる人でしょ?
もしかして今から救急車に乗るんじゃないの?』
『あっ、そうだよ。
そう言えば翔太君、救急車乗りたいって言ってたものね』
『うん。僕行くよ!
なつさん、日向さん、ありがとう!
バイバイ!』
そう言うと翔太君は閉まりかけたエレベーターに飛び乗るととても嬉しそうな笑顔でこちらに向かって大きく手を振りました。
ポツンと残された私はなんとも言えない喪失感に少しの間押しつぶさそうになりました。
でも、翔太君が決めたことですーー。
いつの時代も別れは突然ですね。
「608号室です。よろしくお願いします」
「あっ、院長」
次にエレベーターから降りてきたのは、なんと城山院長です。
「悪い、遅くなって。救急隊の人は?」
「今到着したところで、佐々木さんの病室に向かってもらったところです」
「そうかーー」
「ハッ、ハッ、ハッーー、院長!
何かあったんですか?」
バタバタと階段を駆け上がる音が響いて、エレベーター横の階段につながる扉が開いたかと思うと、姿を現したのは息を切らせた
そこへストレッチャーに乗せられた美津子さんが救急隊員や日向さん、里奈さんたちに囲まれて運ばれてきました。
古和先生はストレッチャーに乗せられた美津子さんを見るとパッと目をそらせました。
「それでは今から佐々木美津子さんを瀧川病院まで転院搬送させていただきます。
同乗する医師は1階で待機されてますか?」
「いえ、ここにいる古和医師が同乗します」
城山院長のこの言葉に、その場にいた師長以外の病院スタッフは全員驚きました。
ストレッチャーに乗った美津子さんも側にいる里奈さんもとても驚いています。
「院長! 俺、いや私今外来途中ですよ! それにそのーー佐々木さんの主治医は
なぜ私がーー」
「これは院長命令だよ、古和先生。
うちの病院もゆくゆくは緩和ケア病棟を準備していかなきゃいけないと思ってるんだ。
今回この機会に、うちの病院を代表して、古和先生には瀧川病院の緩和ケア病棟の特徴をよく見てきて欲しいんだ。
今日はそのまま直帰していいからーー」
「は? ですから今外来診察の途中ーー」
「私が代診するよ。
まだまだ古和先生にも負けない仕事は出来るつもりだけどね」
「あのーー、どなたでもいいので、そろそろ誰が同乗するのか決めてもらいたいんですけど」
成り行きを見守っていた救急隊員が見かねて言いました。
「すいません、お時間取らせてーー。
ほら! 古和先生、早く行って!
これは院長命令だよ」
最後は東主任が古和先生のお尻をバン! と叩くと、先生はとうとう諦めて救急隊員と美津子さんが乗ったストレッチャーと一緒にエレベーターに乗り込みました。
『なつさん!
僕あのおばあさんと一緒に行く!』
『えっ! 翔太君!?』
『ミツコさん、僕のこと見えてるんだ。
この病院に来てから、僕にいっぱい絵本読んでくれたりお話してくれたりするんだ。
僕、ミツコさんと一緒にいたい。
それに、このおじさんたち、救急車に乗ってる人でしょ?
もしかして今から救急車に乗るんじゃないの?』
『あっ、そうだよ。
そう言えば翔太君、救急車乗りたいって言ってたものね』
『うん。僕行くよ!
なつさん、日向さん、ありがとう!
バイバイ!』
そう言うと翔太君は閉まりかけたエレベーターに飛び乗るととても嬉しそうな笑顔でこちらに向かって大きく手を振りました。
ポツンと残された私はなんとも言えない喪失感に少しの間押しつぶさそうになりました。
でも、翔太君が決めたことですーー。
いつの時代も別れは突然ですね。