第50話
文字数 1,358文字
「桜川 さん、病室まで案内してさしあげて。
電話の相手、栄養士の吉川さんでしょ?
私代わるからーー」
東主任に頭を下げると、裕子 さんはお兄さんと一緒にお父様の病室に向かいます。
何か話すのかと思えば、二人は前後に並んで歩くだけで全く会話をしません。
ただ歩いているだけなのに、二人の間には、確かにとても気まずい空気が流れているのがわかります。
602号の病室の前まで来ると、裕子さんはピタッと止まりました。
「奥の左のカーテン」
それだけ言うと、裕子さんはヒラリと身を翻 して、歩いてきた廊下を戻っていきます。
「ーー裕ちゃんーー」
お兄さんが先ほどよりは少し大きな声で裕子さんを呼び止めると、ピタッと止まった裕子さんの背中に絞り出すように声を投げました。
「裕ちゃん、ごめん。
お兄ちゃんーー、迷惑ばっかりかけてごめん……」
裕子さんは一瞬立ち止まりましたが、何も言わずにどんどんお兄さんから離れていきます。
エレベーターホールの壁の端から並んで見える六つの目は上から東主任と、日向 さん、一番下はーー、多分怖がり先生かな。
裕子さんとお兄さんのことが気になって観察しているのでしょう。
怖がり先生は東主任の側にいたいだけだと思いますが。
「あれ? 桜川さん病室入らないで本当に案内しただけじゃない!?」
「ホントですねーー。
お父さんと三人で話すればいいのにーー」
「あ、立ち止まった、と思ったらやっぱり戻ってくるーー」
「え!?
古和 先生!
いつからいるんですか!?」
「何してんの?」
「いいからーー。
古和先生は仕事に戻ってください!」
東主任にお尻を叩かれて怖がり先生は渋々ナースステーションに戻って行きました。
「桜川さん、お兄さんと久しぶりに顔合わせたんじゃない?
二人ともいきなり昔のようには話せないでしょう。
しばらく様子見ましょう。
富永 さん、また何かあったら報告して」
「わかりました」
二人の会話が終わった頃、ちょうど裕子さんがナースステーション前に戻ってきました。
「どうしたんですか?
二人で」
「桜川さん、少しお父様の病室でお兄さんと三人でお話ししてくればいいのに。
急ぎの仕事あるなら私やっとくからーー」
「東主任、ありがとうございます。
でも、栄養士の吉川さんとの電話も途中ですし、大丈夫です」
そう言うと、裕子さんは、まだ話続けようとする東主任を遮 ってペコリと頭を下げると、ナースステーションに足早に戻っていきます。
困った顔の日向さんと東主任は、そんな裕子さんの後ろ姿を眺めることしか出来ませんでした。
それからすぐのことです。
大事件が起こりました。
『なつさん!!
大変です!!
今すぐ日向さんを屋上まで連れてきてください!
急いで!!』
廊下の向こうから津川さんが私の姿を見つけるなり大きな声で叫びました。
『どうしたの!?』
『青年が、屋上のフェンスをーー』
どうしましょう!!
青年ってまさか先程の裕子さんのお兄様!?
今すぐ日向さんを探さないとーー。
でも日向さんは私たちソウルの姿は見えても声は聞こえないーー。
あーーどうやって説明しーー。
その時です。
ちょうど私と廊下の向こうにいる津川さんの間を歩いていた芽留 副院長が急に走り出しエレベーター横の扉を開けると、階段を駆け上がる音がしました。
まさかーーーー。
芽留副院長ーー。
電話の相手、栄養士の吉川さんでしょ?
私代わるからーー」
東主任に頭を下げると、
何か話すのかと思えば、二人は前後に並んで歩くだけで全く会話をしません。
ただ歩いているだけなのに、二人の間には、確かにとても気まずい空気が流れているのがわかります。
602号の病室の前まで来ると、裕子さんはピタッと止まりました。
「奥の左のカーテン」
それだけ言うと、裕子さんはヒラリと身を
「ーー裕ちゃんーー」
お兄さんが先ほどよりは少し大きな声で裕子さんを呼び止めると、ピタッと止まった裕子さんの背中に絞り出すように声を投げました。
「裕ちゃん、ごめん。
お兄ちゃんーー、迷惑ばっかりかけてごめん……」
裕子さんは一瞬立ち止まりましたが、何も言わずにどんどんお兄さんから離れていきます。
エレベーターホールの壁の端から並んで見える六つの目は上から東主任と、
裕子さんとお兄さんのことが気になって観察しているのでしょう。
怖がり先生は東主任の側にいたいだけだと思いますが。
「あれ? 桜川さん病室入らないで本当に案内しただけじゃない!?」
「ホントですねーー。
お父さんと三人で話すればいいのにーー」
「あ、立ち止まった、と思ったらやっぱり戻ってくるーー」
「え!?
いつからいるんですか!?」
「何してんの?」
「いいからーー。
古和先生は仕事に戻ってください!」
東主任にお尻を叩かれて怖がり先生は渋々ナースステーションに戻って行きました。
「桜川さん、お兄さんと久しぶりに顔合わせたんじゃない?
二人ともいきなり昔のようには話せないでしょう。
しばらく様子見ましょう。
「わかりました」
二人の会話が終わった頃、ちょうど裕子さんがナースステーション前に戻ってきました。
「どうしたんですか?
二人で」
「桜川さん、少しお父様の病室でお兄さんと三人でお話ししてくればいいのに。
急ぎの仕事あるなら私やっとくからーー」
「東主任、ありがとうございます。
でも、栄養士の吉川さんとの電話も途中ですし、大丈夫です」
そう言うと、裕子さんは、まだ話続けようとする東主任を
困った顔の日向さんと東主任は、そんな裕子さんの後ろ姿を眺めることしか出来ませんでした。
それからすぐのことです。
大事件が起こりました。
『なつさん!!
大変です!!
今すぐ日向さんを屋上まで連れてきてください!
急いで!!』
廊下の向こうから津川さんが私の姿を見つけるなり大きな声で叫びました。
『どうしたの!?』
『青年が、屋上のフェンスをーー』
どうしましょう!!
青年ってまさか先程の裕子さんのお兄様!?
今すぐ日向さんを探さないとーー。
でも日向さんは私たちソウルの姿は見えても声は聞こえないーー。
あーーどうやって説明しーー。
その時です。
ちょうど私と廊下の向こうにいる津川さんの間を歩いていた
まさかーーーー。
芽留副院長ーー。