第27話
文字数 2,064文字
「芽留 です。よろしくお願いします」
「芽留先生には副院長として着任してしてもらいましたが、現役医師としてこれからも診察、治療に関わってもらいますので、皆さん、どんどんこき使ってやってください」
城山院長の穏やかな声がナースステーションに響きます。
本日赴任された副院長を朝礼時に紹介しているようですね。
芽留先生は身長がとても高くおそらく190cm近くあるのではないでしょうか。年齢は50代半ばといったところでしょうか。
体は細くというかガリガリで、印象としては小学校の理科室に置いてあった骨格模型、要はガイコツっぽいです。
なんていうとちょっと失礼ですね。
ごめんなさい、芽留先生。
顔は面長というよりは、縦長で、どこに行けばそんな大きなレンズが売っているんだろうと不思議に思うようなメガネをかけています。
私の伝え方のせいで、なんだか芽留先生の印象が悪くなっていませんか?
でもあらっ、よく見ると、大きなメガネの下の鼻筋はしっかりとしていて、大きな口は口角がキリっと上がっていて素敵です。
今もスタッフに向かってニッコリ微笑む姿は白衣を黒いマントに変えて、真っ赤なリンゴを持たせれば、ホラ、白雪姫に毒林檎を食べさせたあの人ソックリです。
あらあら、いつの間にかまた芽留先生の印象がーー。
芽留先生の「よろしくお願いします」の挨拶で朝礼も終わり、スタッフが各々バタバタと動き始めました。
「まあちゃん、そっち済んだらちょっとお願い」
ざわざわしたナースステーションで、城山院長が中尾師長を手招きします。
事務仕事を主に行うクラークと呼ばれるスタッフと、病棟患者の名前が書かれたボードを見ながら話し込んでいた中尾師長が、手早く話を終えるとこちらにやってきました。
「こちら、ここ6階病棟師長の中尾雅子さん。
まーちゃん、忙しいとこ悪いんだけど、芽留先生に電子カルテの使い方とか事務処理、あと、病棟の案内してあげてくれる?」
「わかりました。
中尾です。
よろしくお願いします」
中尾師長は名乗ると、カウンターのノートパソコンを開き、電子カルテの使い方や、点滴や薬剤の処方箋の入力方法などを説明していきます。
でも、あらあらーー、芽留先生は中尾師長に見惚れて全く話を聞いていないように見えますよ。
「芽留先生?」
「あっ、はい」
「何か質問ありますか?」
「きょ、今日の夜の予定はありますか?」
「今日は夕方から院内感染対策研修があります。
院内スタッフ全員が対象ですので、芽留先生も出席された方がいいですよ」
すぐ横で会話を聞いていたのは能見 先生です。
「全く、何だアイツ。
今日来たばかりのくせに。
俺の雅子さんをジロジロ見るんじゃないよーー。
副院長だか何だか知らないけど、まさか、既婚者じゃないだろうなあーー。
少しでもおかしな真似したら俺が奥さんにその場で連絡してやる!」
「あのーー、能見先生。
いつでも準備出来てます。
岡田さん、時間に厳しい方なので」
日向 さんは、ブツブツ言いながらすごい目つきで芽留先生を睨 んでいる能見先生に声をかけました。
「あーー、あのおじさんね。
気が進まないなあ。
行くの嫌だけど、じゃあ、行こうか」
はい、と返事をして物品カートに手をかけた日向さんと、担当患者の検温に行くためにナースステーションを出ようとしていた裕子 さんを、中尾師長が呼び止めました。
「富永 さん、桜川 さん、ちょっといい?」
「あの、今から618の岡田さんのケモなんです。
何時から始めるか昨日からしつこく聞かれてて、朝礼終わりの9時からってお伝えしてあるんです。
岡田さん、時間に厳しい方なのでーー」
日向さんはそう言いながらナースステーションの壁にかけられた時計を見上げました。壁時計の針はあと数分で9時を指そうとしています。
岡田さんは血液の癌と診断され、定期的に入院し治療を受けている60代後半の男性患者です。
「岡田さんかーー。
そうね、それは時間通りに行った方がいいわ。
じゃあ、後でいいから桜川さんと時間ある時にちょっと声かけてくれる?」
「雅子さん!
僕が先に岡田さんのところに行ってケモの説明と準備始めておきますから、富永さんは雅子さんの用事済ませてください」
「えっ、でもーー」
「大丈夫です!
僕に任せてください」
「あら、能見先生ありがとうございます」
「いえいえ。
これくらい何てことないです。
これからも僕でお役に立てることがあればいつでもおっしゃってください!」
そう言うと能見先生は満足気な笑顔を中尾師長に向けると、足早にナースステーションを出て行きました。
「先生! カート!」
日向さんが慌てて薬品や物品が載ったカートを押して先生の後を追いかけます。
「能見先生、大丈夫かな。
まあちょっと話するだけだから先生に頑張ってもらいましょ」
そう言うと、中尾師長は戻ってきた日向さんと桜川さんを面談室に連れて行きました。
あらあら、能見先生がまたナースステーションに戻ってきましたよ。
「看護師さん、岡田さんって何号室?」
先生ーー、本当に一人で大丈夫ですか?!
「芽留先生には副院長として着任してしてもらいましたが、現役医師としてこれからも診察、治療に関わってもらいますので、皆さん、どんどんこき使ってやってください」
城山院長の穏やかな声がナースステーションに響きます。
本日赴任された副院長を朝礼時に紹介しているようですね。
芽留先生は身長がとても高くおそらく190cm近くあるのではないでしょうか。年齢は50代半ばといったところでしょうか。
体は細くというかガリガリで、印象としては小学校の理科室に置いてあった骨格模型、要はガイコツっぽいです。
なんていうとちょっと失礼ですね。
ごめんなさい、芽留先生。
顔は面長というよりは、縦長で、どこに行けばそんな大きなレンズが売っているんだろうと不思議に思うようなメガネをかけています。
私の伝え方のせいで、なんだか芽留先生の印象が悪くなっていませんか?
でもあらっ、よく見ると、大きなメガネの下の鼻筋はしっかりとしていて、大きな口は口角がキリっと上がっていて素敵です。
今もスタッフに向かってニッコリ微笑む姿は白衣を黒いマントに変えて、真っ赤なリンゴを持たせれば、ホラ、白雪姫に毒林檎を食べさせたあの人ソックリです。
あらあら、いつの間にかまた芽留先生の印象がーー。
芽留先生の「よろしくお願いします」の挨拶で朝礼も終わり、スタッフが各々バタバタと動き始めました。
「まあちゃん、そっち済んだらちょっとお願い」
ざわざわしたナースステーションで、城山院長が中尾師長を手招きします。
事務仕事を主に行うクラークと呼ばれるスタッフと、病棟患者の名前が書かれたボードを見ながら話し込んでいた中尾師長が、手早く話を終えるとこちらにやってきました。
「こちら、ここ6階病棟師長の中尾雅子さん。
まーちゃん、忙しいとこ悪いんだけど、芽留先生に電子カルテの使い方とか事務処理、あと、病棟の案内してあげてくれる?」
「わかりました。
中尾です。
よろしくお願いします」
中尾師長は名乗ると、カウンターのノートパソコンを開き、電子カルテの使い方や、点滴や薬剤の処方箋の入力方法などを説明していきます。
でも、あらあらーー、芽留先生は中尾師長に見惚れて全く話を聞いていないように見えますよ。
「芽留先生?」
「あっ、はい」
「何か質問ありますか?」
「きょ、今日の夜の予定はありますか?」
「今日は夕方から院内感染対策研修があります。
院内スタッフ全員が対象ですので、芽留先生も出席された方がいいですよ」
すぐ横で会話を聞いていたのは
「全く、何だアイツ。
今日来たばかりのくせに。
俺の雅子さんをジロジロ見るんじゃないよーー。
副院長だか何だか知らないけど、まさか、既婚者じゃないだろうなあーー。
少しでもおかしな真似したら俺が奥さんにその場で連絡してやる!」
「あのーー、能見先生。
いつでも準備出来てます。
岡田さん、時間に厳しい方なので」
「あーー、あのおじさんね。
気が進まないなあ。
行くの嫌だけど、じゃあ、行こうか」
はい、と返事をして物品カートに手をかけた日向さんと、担当患者の検温に行くためにナースステーションを出ようとしていた
「
「あの、今から618の岡田さんのケモなんです。
何時から始めるか昨日からしつこく聞かれてて、朝礼終わりの9時からってお伝えしてあるんです。
岡田さん、時間に厳しい方なのでーー」
日向さんはそう言いながらナースステーションの壁にかけられた時計を見上げました。壁時計の針はあと数分で9時を指そうとしています。
岡田さんは血液の癌と診断され、定期的に入院し治療を受けている60代後半の男性患者です。
「岡田さんかーー。
そうね、それは時間通りに行った方がいいわ。
じゃあ、後でいいから桜川さんと時間ある時にちょっと声かけてくれる?」
「雅子さん!
僕が先に岡田さんのところに行ってケモの説明と準備始めておきますから、富永さんは雅子さんの用事済ませてください」
「えっ、でもーー」
「大丈夫です!
僕に任せてください」
「あら、能見先生ありがとうございます」
「いえいえ。
これくらい何てことないです。
これからも僕でお役に立てることがあればいつでもおっしゃってください!」
そう言うと能見先生は満足気な笑顔を中尾師長に向けると、足早にナースステーションを出て行きました。
「先生! カート!」
日向さんが慌てて薬品や物品が載ったカートを押して先生の後を追いかけます。
「能見先生、大丈夫かな。
まあちょっと話するだけだから先生に頑張ってもらいましょ」
そう言うと、中尾師長は戻ってきた日向さんと桜川さんを面談室に連れて行きました。
あらあら、能見先生がまたナースステーションに戻ってきましたよ。
「看護師さん、岡田さんって何号室?」
先生ーー、本当に一人で大丈夫ですか?!