第18話
文字数 4,128文字
「里奈さん、大丈夫ですか?」
「すいません。
昨夜救急車で運ばれたって聞いて、相当悪いんだろうとは思って覚悟してましたが、まさかそこまでとは思わなくてーー」
能見 先生から、娘の里奈さんに、美津子さんが末期の膵臓癌だと診断されたことが、始めに伝えられました。
余命は長くて半年程であること、もはや積極的な治療が出来る段階ではなく、少しでも苦痛なく穏やかに終末期に向かっていけるように今後の方針を考えていかなければいけないことなどが能見先生から告げられました。
「突然のことで驚かれたと思います。
今日は長旅でお疲れでしょうから、美津子さんはおられないでしょうけど、ご実家でゆっくりお休みになってください。
それで、美津子さんに対して病状をどこまで正しく説明をするか考えてきてほしいんです」
先程まで下を向いて、溢れる涙を何度もハンカチで拭っていた里奈さんでしたが、サッと上げた顔には強い決意が見えました。
「母にはありのままを伝えようと思います。あまり詳しいことは話したがらないので聞いていませんが、離婚や再婚を経験し、私の父も3年前に亡くなりました。
苦労も多かったんだと思いますが、母は自分の進む道は自分で決めてきた人です。
最後をどう迎えたいかも自分で決めたいと思うんです。それにーー」
里奈さんは寂しそうに少し笑って言いました。
「きっと母は、自分がもうあまり長く生きられないって、わかってると思います」
里奈さんの意向で明日、美津子さんを交えてありのままの病状説明を行うことになりました。
「ママーー」
その時、面談室の扉が開いて、晴香ちゃんが飛び込んできました。
「見て見てーー。
ママとばあちゃんの絵書いたよーー」
晴香ちゃんはクレヨンでノートに書いた絵を得意そうに里奈さんに見せました。
「あら上手ね、晴香ちゃん。
おばちゃんにも見せてくれる?
こっちがママでこっちが美津子おばあちゃんかな?」
「ちがうよーー、こっちがマーマー。
これがばあちゃん」
晴香ちゃんは少しふくれて言いました。
「晴香ちゃん、ダメだよ。
ママたち大事なお話があるんだって。
あっちでまたお絵かきして待っていようね」
三久路 君がナースステーションで晴香ちゃんの面倒を見てくれていたようですが、少し目を離した隙 に晴香ちゃんがママを探して面談室までやってきたようです。
「えーー、もうお絵かき飽きちゃった。
何か他のことして遊びたい」
「そしたらお兄ちゃんとあそこでテレビ見よっか」
「やだーー。遊びたいーーーー」
三久路君は晴香ちゃんを何とか面談室から連れ出そうとしますが、この年頃の子どもは一度機嫌を損 ねるとなかなか直りません。
里奈さんが抱っこして何とかなだめようとしますがどうやら晴香ちゃん、おねむのようですね。
「里奈さん、晴香ちゃんも疲れているようですし、今日はもうご実家に帰って休まれたらどうですか?」
「えっ、でもーー」
「ママーー、遊びたいーーーー」
「もう晴香ったらーー。
眠いんでしょう?」
「もう晴香ちゃんが限界のようですし、明日もまた来られますよね。
美津子さんに内密で少しお聞きしたいことがあるので、合間見てまた声かけてください」
「分かりました。
それじゃあ、母の顔を見て今日は一旦帰ります」
里奈さんはぐずる晴香ちゃんを抱っこしようとしますが、駄々をこねた晴香ちゃんは三久路君の側に来ると「お兄ちゃんがいいー、お兄ちゃん抱っこしてーー」と三久路君の足を両手で抱えて離しません。
「こらー、晴香、ダメよ。
お兄さんお仕事あるんだから。
そろそろおばあちゃん検査から帰ってきてるんじゃないかな。
おばあちゃんに挨拶して帰ろう」
「三久路君、抱っこして一緒に行ってあげて」
「はい!」
三久路君が晴香ちゃんを抱っこすると今にも泣きベソをかきそうだった晴香ちゃんの顔がパッと笑顔に変わりました。
「すいません、お忙しいのに」
「いいのいいの。
三久路君はまだ半人前だからそんなに忙しくないんですよ。
晴香ちゃん、美津子おばあちゃんに用事があったら何でもお兄ちゃんに言い付けてって言っといてね」
「うん! お兄ちゃん早く早くーー」
「それではお姫様、行きましょうか」
晴香ちゃんを抱っこした三久路君が美津子さんの病室に向かって歩いていくと、その姿をじっと見つめている方がおられます。あれは、確かリハビリの白河さんですね。
日向 さんは確か彼のことがーー。
いや、これは私の口からは言えません。
「可愛い子連れてるね。
もしかして三久路君の子ども?」
「あっ、白河さんお疲れ様です。
違います、違います。
僕結婚してませんから」
「アハハハ、冗談だよ。
今日はいつも一緒のお姉様方はお休み?」
「富永 さんと桜川 さんでしたら今日は明けです」
「どおりで何だか生き生きしてると思ったよ。
教育ママ二人がいないから小さい女の子と遊んでたって、今度2人に報告しなきゃいけないな」
「違いますって!
これは師長に言われてーー」
「冗談だってーー」
三久路君は晴香ちゃんを左手で抱えながら右手でポケットからハンカチを出すと、汗だらけの顔を拭き拭きしました。
どうも三久路くんはからかわれやすいたちのようですね。
「あっ古和 先生、お疲れ様です」
能見先生が医局に戻ると、古和先生はパソコンで患者さんのカルテを見ているようです。
「おう、お疲れさん」
「一応報告しておきます。昨夜救急で運ばれた佐々木美津子さん、検査の結果、膵臓癌ステージ4と診断しました。
余命は長くてもあと半年ほどと思われます。
先程娘さんにはムンテラしたんですけど、本人にもありのままを告知することになって。明日本人も入れて今後の方向性を話し合う予定です」
「ーーそっかーーーー」
古和先生は能見先生に背を向けパソコン画面を見ながらボソっと返事しました。
古和先生なんだか元気がないようです。
いつもなら能見先生相手に軽口の一つも叩く人なんですがーー。
やはり昨夜、美津子さんが入院してきてから様子が変です。
昨日までの古和先生は、今、東主任と二人でハマっている海外医療ドラマの主人公になり切った格好をして、東主任を喜ばせていました。
ドラマは、心に傷を抱え他人には決して心を開かず、どんな難手術も決して失敗しないクールな主人公が、これまた様々な問題を抱えた同僚や患者たちと触れ合い、切磋琢磨することで互いに成長していくという王道ストーリーです。
その主人公が着ているのと同じデザインのスクラブをわざわざ海外から輸入し、着ているのです。
スクラブというのは医療用ユニフォームのことで、緑や青など、様々な色がありますが、古和先生が着ているのはもちろんドラマの主人公と同じ濃紺です。髪型まで主人公に似せて、ゆるいパーマをあてる熱の入れよう。
あっ、古和先生には変わった趣味があって、今流行 りのテレビドラマや映画で、気に入ったキャクターを見つけると、すぐにその真似をしたくなるのです。
自分のお気に入りのキャクターに変身する時もありますが、東主任の好みに影響されている時の方が多いようです。
「愛」ですね。
いつもの古和先生なら、能見先生相手に、
「どうだ、このユニフォーム? いくらしたと思う?」などと、話さずにはいられないはずですが、今はそんなことは頭にない様子です。
昨日までは古和先生の明るい人柄が医局の雰囲気を明るくしていましたが、何だか今日は子どものいない夕暮れの時の教室のような寂しさです。
「お兄ちゃーーん」
可愛い声が響いたかと思うと、晴香ちゃんがナースステーションに飛び込んできて、三久路君の足に抱きつきました。
朝礼中のスタッフが驚いて三久路君を見つめます。
昨日夜勤明けで、事情を知らない日向 さんと裕子 さんも驚いているようです。
「日向、三久路君にあんな可愛い妹いるって知ってた?」
「知らなかった」
「こらーー、晴香、ダメでしょ。
お兄ちゃんお仕事中よ。
すいません、お邪魔してしまって」
そう言うと里奈さんは晴香ちゃんを抱っこしてナースステーションから出て行きました。
すかさず中尾師長が笑いながら声をかけます。
「晴香ちゃん、待っててね。
お兄ちゃんのお仕事終わったらまた遊んであげてね」
あらあら、遊んでもらうのは三久路君の方なんですね。
いやだーーお兄ちゃんと遊ぶーーと駄々をこねる晴香ちゃんを抱っこした里奈さんは、談話室のテーブルに座っている美津子さんを見つけました。
美津子さんの横にちょこんと座っているのは翔太君です。
どうやら美津子さんは、翔太君の存在を感じてくれているようです。
美津子さんが、元々私たちソウルを感じられる人なのか、それとも死期が近づいてきているからなのかはわかりませんがーー。
美津子さんはまるでおばあちゃんが孫に絵本を読み聞かせるように、声に出しながら絵本を読んでいました。
横に座った翔太君は嬉しそうに足をぶらぶらさせながら絵本を見つめています。
「ばあちゃーーん」
美津子さんを見つけた晴香ちゃんが駆け寄ると、彼女は嬉しそうに晴香ちゃんを迎えます。
「晴香ちゃん、朝早くから来てくれたのね」
「うん。ばあちゃん、何してるの?
絵本読んでたの?」
「あ、うん、そうね。
おばあちゃん、なんだか絵本読みたくなって読んでたんだけど、晴香ちゃんも一緒に見る?」
晴香ちゃんは、うん! と言うと同時に美津子さんの膝の上に座りました。翔太君も同世代の子どもが側に来たので嬉しそうです。
晴香ちゃんは自分と美津子さんがよく見えるように絵本を両手で掴 むと、「はい、続き読んで」と美津子さんに言いました。
すると美津子さんは、「晴香ちゃん、みんなが見えるようにこうやって広げて読もうね」と言うと、翔太君にも見えやすいように絵本をテーブルに広げました。
「皆って誰?」
「妖精さん、晴香ちゃん妖精さん好きでしょ?
もしかしたら近くに妖精さんがいるかもしれないよ」
晴香ちゃんはしばらく首をかしげていましたが、うん、そうだね、と返事をして絵本を読む美津子さんの声に耳を傾けています。
翔太君も横で楽しそうに聞いています。
「すいません。
昨夜救急車で運ばれたって聞いて、相当悪いんだろうとは思って覚悟してましたが、まさかそこまでとは思わなくてーー」
余命は長くて半年程であること、もはや積極的な治療が出来る段階ではなく、少しでも苦痛なく穏やかに終末期に向かっていけるように今後の方針を考えていかなければいけないことなどが能見先生から告げられました。
「突然のことで驚かれたと思います。
今日は長旅でお疲れでしょうから、美津子さんはおられないでしょうけど、ご実家でゆっくりお休みになってください。
それで、美津子さんに対して病状をどこまで正しく説明をするか考えてきてほしいんです」
先程まで下を向いて、溢れる涙を何度もハンカチで拭っていた里奈さんでしたが、サッと上げた顔には強い決意が見えました。
「母にはありのままを伝えようと思います。あまり詳しいことは話したがらないので聞いていませんが、離婚や再婚を経験し、私の父も3年前に亡くなりました。
苦労も多かったんだと思いますが、母は自分の進む道は自分で決めてきた人です。
最後をどう迎えたいかも自分で決めたいと思うんです。それにーー」
里奈さんは寂しそうに少し笑って言いました。
「きっと母は、自分がもうあまり長く生きられないって、わかってると思います」
里奈さんの意向で明日、美津子さんを交えてありのままの病状説明を行うことになりました。
「ママーー」
その時、面談室の扉が開いて、晴香ちゃんが飛び込んできました。
「見て見てーー。
ママとばあちゃんの絵書いたよーー」
晴香ちゃんはクレヨンでノートに書いた絵を得意そうに里奈さんに見せました。
「あら上手ね、晴香ちゃん。
おばちゃんにも見せてくれる?
こっちがママでこっちが美津子おばあちゃんかな?」
「ちがうよーー、こっちがマーマー。
これがばあちゃん」
晴香ちゃんは少しふくれて言いました。
「晴香ちゃん、ダメだよ。
ママたち大事なお話があるんだって。
あっちでまたお絵かきして待っていようね」
「えーー、もうお絵かき飽きちゃった。
何か他のことして遊びたい」
「そしたらお兄ちゃんとあそこでテレビ見よっか」
「やだーー。遊びたいーーーー」
三久路君は晴香ちゃんを何とか面談室から連れ出そうとしますが、この年頃の子どもは一度機嫌を
里奈さんが抱っこして何とかなだめようとしますがどうやら晴香ちゃん、おねむのようですね。
「里奈さん、晴香ちゃんも疲れているようですし、今日はもうご実家に帰って休まれたらどうですか?」
「えっ、でもーー」
「ママーー、遊びたいーーーー」
「もう晴香ったらーー。
眠いんでしょう?」
「もう晴香ちゃんが限界のようですし、明日もまた来られますよね。
美津子さんに内密で少しお聞きしたいことがあるので、合間見てまた声かけてください」
「分かりました。
それじゃあ、母の顔を見て今日は一旦帰ります」
里奈さんはぐずる晴香ちゃんを抱っこしようとしますが、駄々をこねた晴香ちゃんは三久路君の側に来ると「お兄ちゃんがいいー、お兄ちゃん抱っこしてーー」と三久路君の足を両手で抱えて離しません。
「こらー、晴香、ダメよ。
お兄さんお仕事あるんだから。
そろそろおばあちゃん検査から帰ってきてるんじゃないかな。
おばあちゃんに挨拶して帰ろう」
「三久路君、抱っこして一緒に行ってあげて」
「はい!」
三久路君が晴香ちゃんを抱っこすると今にも泣きベソをかきそうだった晴香ちゃんの顔がパッと笑顔に変わりました。
「すいません、お忙しいのに」
「いいのいいの。
三久路君はまだ半人前だからそんなに忙しくないんですよ。
晴香ちゃん、美津子おばあちゃんに用事があったら何でもお兄ちゃんに言い付けてって言っといてね」
「うん! お兄ちゃん早く早くーー」
「それではお姫様、行きましょうか」
晴香ちゃんを抱っこした三久路君が美津子さんの病室に向かって歩いていくと、その姿をじっと見つめている方がおられます。あれは、確かリハビリの白河さんですね。
いや、これは私の口からは言えません。
「可愛い子連れてるね。
もしかして三久路君の子ども?」
「あっ、白河さんお疲れ様です。
違います、違います。
僕結婚してませんから」
「アハハハ、冗談だよ。
今日はいつも一緒のお姉様方はお休み?」
「
「どおりで何だか生き生きしてると思ったよ。
教育ママ二人がいないから小さい女の子と遊んでたって、今度2人に報告しなきゃいけないな」
「違いますって!
これは師長に言われてーー」
「冗談だってーー」
三久路君は晴香ちゃんを左手で抱えながら右手でポケットからハンカチを出すと、汗だらけの顔を拭き拭きしました。
どうも三久路くんはからかわれやすいたちのようですね。
「あっ
能見先生が医局に戻ると、古和先生はパソコンで患者さんのカルテを見ているようです。
「おう、お疲れさん」
「一応報告しておきます。昨夜救急で運ばれた佐々木美津子さん、検査の結果、膵臓癌ステージ4と診断しました。
余命は長くてもあと半年ほどと思われます。
先程娘さんにはムンテラしたんですけど、本人にもありのままを告知することになって。明日本人も入れて今後の方向性を話し合う予定です」
「ーーそっかーーーー」
古和先生は能見先生に背を向けパソコン画面を見ながらボソっと返事しました。
古和先生なんだか元気がないようです。
いつもなら能見先生相手に軽口の一つも叩く人なんですがーー。
やはり昨夜、美津子さんが入院してきてから様子が変です。
昨日までの古和先生は、今、東主任と二人でハマっている海外医療ドラマの主人公になり切った格好をして、東主任を喜ばせていました。
ドラマは、心に傷を抱え他人には決して心を開かず、どんな難手術も決して失敗しないクールな主人公が、これまた様々な問題を抱えた同僚や患者たちと触れ合い、切磋琢磨することで互いに成長していくという王道ストーリーです。
その主人公が着ているのと同じデザインのスクラブをわざわざ海外から輸入し、着ているのです。
スクラブというのは医療用ユニフォームのことで、緑や青など、様々な色がありますが、古和先生が着ているのはもちろんドラマの主人公と同じ濃紺です。髪型まで主人公に似せて、ゆるいパーマをあてる熱の入れよう。
あっ、古和先生には変わった趣味があって、
自分のお気に入りのキャクターに変身する時もありますが、東主任の好みに影響されている時の方が多いようです。
「愛」ですね。
いつもの古和先生なら、能見先生相手に、
「どうだ、このユニフォーム? いくらしたと思う?」などと、話さずにはいられないはずですが、今はそんなことは頭にない様子です。
昨日までは古和先生の明るい人柄が医局の雰囲気を明るくしていましたが、何だか今日は子どものいない夕暮れの時の教室のような寂しさです。
「お兄ちゃーーん」
可愛い声が響いたかと思うと、晴香ちゃんがナースステーションに飛び込んできて、三久路君の足に抱きつきました。
朝礼中のスタッフが驚いて三久路君を見つめます。
昨日夜勤明けで、事情を知らない
「日向、三久路君にあんな可愛い妹いるって知ってた?」
「知らなかった」
「こらーー、晴香、ダメでしょ。
お兄ちゃんお仕事中よ。
すいません、お邪魔してしまって」
そう言うと里奈さんは晴香ちゃんを抱っこしてナースステーションから出て行きました。
すかさず中尾師長が笑いながら声をかけます。
「晴香ちゃん、待っててね。
お兄ちゃんのお仕事終わったらまた遊んであげてね」
あらあら、遊んでもらうのは三久路君の方なんですね。
いやだーーお兄ちゃんと遊ぶーーと駄々をこねる晴香ちゃんを抱っこした里奈さんは、談話室のテーブルに座っている美津子さんを見つけました。
美津子さんの横にちょこんと座っているのは翔太君です。
どうやら美津子さんは、翔太君の存在を感じてくれているようです。
美津子さんが、元々私たちソウルを感じられる人なのか、それとも死期が近づいてきているからなのかはわかりませんがーー。
美津子さんはまるでおばあちゃんが孫に絵本を読み聞かせるように、声に出しながら絵本を読んでいました。
横に座った翔太君は嬉しそうに足をぶらぶらさせながら絵本を見つめています。
「ばあちゃーーん」
美津子さんを見つけた晴香ちゃんが駆け寄ると、彼女は嬉しそうに晴香ちゃんを迎えます。
「晴香ちゃん、朝早くから来てくれたのね」
「うん。ばあちゃん、何してるの?
絵本読んでたの?」
「あ、うん、そうね。
おばあちゃん、なんだか絵本読みたくなって読んでたんだけど、晴香ちゃんも一緒に見る?」
晴香ちゃんは、うん! と言うと同時に美津子さんの膝の上に座りました。翔太君も同世代の子どもが側に来たので嬉しそうです。
晴香ちゃんは自分と美津子さんがよく見えるように絵本を両手で
すると美津子さんは、「晴香ちゃん、みんなが見えるようにこうやって広げて読もうね」と言うと、翔太君にも見えやすいように絵本をテーブルに広げました。
「皆って誰?」
「妖精さん、晴香ちゃん妖精さん好きでしょ?
もしかしたら近くに妖精さんがいるかもしれないよ」
晴香ちゃんはしばらく首をかしげていましたが、うん、そうだね、と返事をして絵本を読む美津子さんの声に耳を傾けています。
翔太君も横で楽しそうに聞いています。