第39話
文字数 2,063文字
「ミクロマーーン! パーーンチ!」
「こらーー、祐樹。
三久路 さんでしょ」
「見て見て、これね、
じいじに買ってもらったカード。
ミクロマンに僕の分も貸してあげるから一緒にやろうよーー。
お兄ちゃんも持ってるよ」
「ダメ!
三久路さんお仕事中でしょ。
お兄ちゃんとあそこで遊んで待ってて」
洋子さんはテレビが置いてある談話室を指差しました。
「三山さん、祐樹君! 和樹君!
こんにちは!」
三久路君が挨拶すると、祐樹君はもう三久路君にまとわりついて離れません。
どうも三久路君は子どもに好かれるタイプのようですね。
和樹君も照れながらこんにちは、とペコリと頭を下げました。
洋子さんは、ナースステーション入り口で
「主人が入院中は皆様に大変お世話になりました」と、深々と頭を下げました。
その場にいたスタッフ全員が立ち上がり、お辞儀を返します。
「洋子さん、大変だったでしょう?
お疲れ出てませんか?」
中尾師長は面談室に洋子さんを案内しながら
「和樹君、祐樹君、そのカードゲームどうやって遊ぶか三久路兄さんに教えてあげてくれる?」と子ども達に声をかけました。
「うん! いいよー!」と、言いながら祐樹君は左手で三久路君の手をしっかり握るともう右手に持ったカードの説明を始めているようです。
和樹君も、違うよ、祐樹、それは違うカードだよ、などと言いながらとても嬉しそうです。
そんな3人の姿をしばらく眺めてから中尾師長と洋子さんは面談室に入りました。
「落ち着いたらお礼に伺おうと思っていたのにすっかり遅くなってしまってーー」
「とんでもない。
色々と大変だったでしょう」
「浩ちゃんのご両親と来月から同居することにしたんです。
私もこれから働かなきゃいけませんし。
同居する上で今後色々あると思いますけど、問題が起こった時点で一つ一つ解決していくしかないかなーって。
幸い義理父も義理母も今のとこ良い人そうですし」
そう言うと、洋子さんは悪戯っ子の様にペロッと舌を出したので、二人で顔を見合わせてアハハと笑いました。
「良かったです。
少しお元気そうで」
洋子さんはしばらく何か考えるように上を向くと言葉を選びながら再びゆっくりと話し出しました。
「浩ちゃん、きっといっぱいいっぱい心残りなことあったと思うんです。
でも、もうすぐさよならしなきゃいけないこともきっとわかっててーー。
まだまだ落ち込んだり、泣いたりすることの方が多いけど、私、浩ちゃんの分まで楽しいことも辛いこともいっぱい経験しようと思います。
浩ちゃんだってきっと、まだまだいっぱいいっぱいやりたいことあったはずだからーー
祐樹も運動会で、パパがお空から祐樹のダンス見てくれてるから一番上手に踊るんだーって、赤いポンポン目いっぱい動かしてーー。
親バカなんですけど、誰よりも上手に踊ってました。
きっと浩ちゃんも見てくれてたんじゃないかな」
そう言うと、洋子さんはニッコリと笑いました。
「師長、昨日三山さんの奥さん来られたんですか?」
「そうなの。
和樹君と祐樹君連れてお世話になりましたって」
「そうですか。
休憩室に三山さんよりって書かれた焼き菓子あったので、そうかなあと思ってーー」
「少し落ち着いたみたい。
担当してもらった富永 さんにもよろしくお伝え下さいって」
「いえ、私は何もーー」
「三久路君にもとても救われたって。
亡くなられた日、私、正直三久路君にエンゼルケアは無理だろうって思った。
すごく動揺してたし。
でも、あの子気持ち切り替えて、富永 さんと一緒にエンゼルケア入ったでしょ?
洋子さん、浩一さんの担当が富永さんと、三久路君で本当に良かったって言ってた。
三久路君、泣きながら浩一さんの体拭いてたんだってね。
富永さん三久路君と、洋子さんがいない時の浩一さんの様子を聞きながら、3人で浩一さんの体を綺麗にしている時、とても穏やかな気持ちになれたそうよ。
私の一番大切な人は、この病院で私がいない間も大事に扱ってもらってたんだって。
そして、最期の時も丁寧に大切に一緒に見送ってくれて本当にありがとうございましたって」
「そうですか」
少し離れたところで、裕子 さんと一緒に内服薬を読み合わせしながら薬剤カートに入れる作業をしている三久路君を、日向さんと師長さんが見ています。
「三久路君、一皮剥けたんじゃない?」
中尾師長が言いました。
「そうですね」
「何? どうかしました?」
2人の視線に気付いた裕子 さんがこちらに向かって声をかけてきました。
「うううん、なんでもない。
相変わらず大きい三久路君と一緒にいると、まるで桜川 さんの方が歳下に見えるなあと思って」
中尾師長が笑いながら言いました。
「それってミクロが老けてるってことですか?
それとも私が若く可愛く見えるってことですか?」
「んーー、どうかなーー」
その時です。
お世話になりました、の声にナースステーションのスタッフが顔を向けると、入り口に女性が立っています。
「618の岡田さんの家族さんです。
今日退院予定でしたね」
日向さんが言いました。
「こらーー、祐樹。
「見て見て、これね、
じいじに買ってもらったカード。
ミクロマンに僕の分も貸してあげるから一緒にやろうよーー。
お兄ちゃんも持ってるよ」
「ダメ!
三久路さんお仕事中でしょ。
お兄ちゃんとあそこで遊んで待ってて」
洋子さんはテレビが置いてある談話室を指差しました。
「三山さん、祐樹君! 和樹君!
こんにちは!」
三久路君が挨拶すると、祐樹君はもう三久路君にまとわりついて離れません。
どうも三久路君は子どもに好かれるタイプのようですね。
和樹君も照れながらこんにちは、とペコリと頭を下げました。
洋子さんは、ナースステーション入り口で
「主人が入院中は皆様に大変お世話になりました」と、深々と頭を下げました。
その場にいたスタッフ全員が立ち上がり、お辞儀を返します。
「洋子さん、大変だったでしょう?
お疲れ出てませんか?」
中尾師長は面談室に洋子さんを案内しながら
「和樹君、祐樹君、そのカードゲームどうやって遊ぶか三久路兄さんに教えてあげてくれる?」と子ども達に声をかけました。
「うん! いいよー!」と、言いながら祐樹君は左手で三久路君の手をしっかり握るともう右手に持ったカードの説明を始めているようです。
和樹君も、違うよ、祐樹、それは違うカードだよ、などと言いながらとても嬉しそうです。
そんな3人の姿をしばらく眺めてから中尾師長と洋子さんは面談室に入りました。
「落ち着いたらお礼に伺おうと思っていたのにすっかり遅くなってしまってーー」
「とんでもない。
色々と大変だったでしょう」
「浩ちゃんのご両親と来月から同居することにしたんです。
私もこれから働かなきゃいけませんし。
同居する上で今後色々あると思いますけど、問題が起こった時点で一つ一つ解決していくしかないかなーって。
幸い義理父も義理母も今のとこ良い人そうですし」
そう言うと、洋子さんは悪戯っ子の様にペロッと舌を出したので、二人で顔を見合わせてアハハと笑いました。
「良かったです。
少しお元気そうで」
洋子さんはしばらく何か考えるように上を向くと言葉を選びながら再びゆっくりと話し出しました。
「浩ちゃん、きっといっぱいいっぱい心残りなことあったと思うんです。
でも、もうすぐさよならしなきゃいけないこともきっとわかっててーー。
まだまだ落ち込んだり、泣いたりすることの方が多いけど、私、浩ちゃんの分まで楽しいことも辛いこともいっぱい経験しようと思います。
浩ちゃんだってきっと、まだまだいっぱいいっぱいやりたいことあったはずだからーー
祐樹も運動会で、パパがお空から祐樹のダンス見てくれてるから一番上手に踊るんだーって、赤いポンポン目いっぱい動かしてーー。
親バカなんですけど、誰よりも上手に踊ってました。
きっと浩ちゃんも見てくれてたんじゃないかな」
そう言うと、洋子さんはニッコリと笑いました。
「師長、昨日三山さんの奥さん来られたんですか?」
「そうなの。
和樹君と祐樹君連れてお世話になりましたって」
「そうですか。
休憩室に三山さんよりって書かれた焼き菓子あったので、そうかなあと思ってーー」
「少し落ち着いたみたい。
担当してもらった
「いえ、私は何もーー」
「三久路君にもとても救われたって。
亡くなられた日、私、正直三久路君にエンゼルケアは無理だろうって思った。
すごく動揺してたし。
でも、あの子気持ち切り替えて、
洋子さん、浩一さんの担当が富永さんと、三久路君で本当に良かったって言ってた。
三久路君、泣きながら浩一さんの体拭いてたんだってね。
富永さん三久路君と、洋子さんがいない時の浩一さんの様子を聞きながら、3人で浩一さんの体を綺麗にしている時、とても穏やかな気持ちになれたそうよ。
私の一番大切な人は、この病院で私がいない間も大事に扱ってもらってたんだって。
そして、最期の時も丁寧に大切に一緒に見送ってくれて本当にありがとうございましたって」
「そうですか」
少し離れたところで、
「三久路君、一皮剥けたんじゃない?」
中尾師長が言いました。
「そうですね」
「何? どうかしました?」
2人の視線に気付いた
「うううん、なんでもない。
相変わらず大きい三久路君と一緒にいると、まるで
中尾師長が笑いながら言いました。
「それってミクロが老けてるってことですか?
それとも私が若く可愛く見えるってことですか?」
「んーー、どうかなーー」
その時です。
お世話になりました、の声にナースステーションのスタッフが顔を向けると、入り口に女性が立っています。
「618の岡田さんの家族さんです。
今日退院予定でしたね」
日向さんが言いました。