第24話

文字数 1,307文字

古和(こわ)先生、佐々木さん来週木曜に瀧川病院の緩和ケア病棟に転院決まりました」

 医局で資料を読んでいる古和先生の後ろ姿に向かって能見(のうみ)先生が話しかけます。

「ーーー。
なんで俺にいちいちお前の患者さんのこと話すんだよ」

「僕だって知りませんよ。
東さんや雅子さんが古和先生に言えってうるさいもんだからーー」

 能見先生はブツブツと独り言のように(つぶや)きました。

「何か言ったか?」

「いえ、別に」

「そういや、今日お前んとこの患者さん急変したんだってな」

「そうなんですよ。
88歳のおばあさんで、家族は息子の嫁だけだったんですけど、その人が退院後はどうしても自宅に連れて帰るってきかなくて。
在宅サービス増やしても、もう自宅で一人で介護出来るレベルじゃなくなってて。
今日の退院カンファレンスで、退院後は療養病棟から施設に入所する方向を勧めることになってたんですけど、その嫁は家に連れて帰るの一点張りで。
結局自宅に連れて帰るなら、もう少しリハビリを続けて少しでもADL上げて介護者の負担を減らしていくーーってことでまとまってたんですがーー」

「息子の嫁ってことは婆さんと血が繋がってないんだろ? 
なんでそこまでして自宅に連れて帰りたいんだろな」

「幼い頃に実の母親亡くしてるそうです。
それで血は繋がってないけど、義理の母親を本当の母親だと思って暮らしてたそうです」

「フン、たまたま義理の母親がいい人だったから良かったよな。
世の中には平気で実の子捨てるようなロクでもない母親だっているからな」

「まあ、そりゃそうですね。
でも、自分は高校生の時に母親を病気で亡くしてるんですけど、母親が生きててくれたらなあって今でも思います。
どんな形であれ、会えるなら会いたいと思いますよ」

「ーーーー俺先帰るわ、お疲れ」
 
 古和先生はそう言うと医局を後にしました。





「どうするんですか、師長! 
佐々木さん、今日瀧川病院に転院ですよ!」

 いよいよ今日は美津子さんが瀧川病院に転院する日です。
 中尾師長は美津子さんの娘の里奈さんに、美津子さんと古和先生の仲を修繕すると約束したのですがーー。

「とんちゃん、私まだ諦めたわけじゃないから」

 中尾師長は東主任を見てニッコリ笑いました。

 何か秘策があるのでしょうか。
でも、もう時間がありませんよーー。

「師長、佐々木さんの準備できました」

「そう、じゃあ、救急車に転院搬送依頼してくれる?」

「はい」
 日向(ひな)さんは返事をすると、手際良く電話で救急依頼をしています。

「ミクロ、ぼーーっとしてないで、こういう場合は相手側に何を伝えなきゃいけないのか側で聞いてちゃんとメモしときなさいよ」

 東主任が注意すると三久路(みくろ)君は、はい、と返事をしてポケットからメモを取り出すと日向さんが話している内容を書き留め始めましたがーー。        
 いつもの三久路君なら言われなくても日向さんの側にくっついて聞き耳を立てながら内容をメモするはずです。
 やる気だけが取り柄の三久路君なのに最近少し元気がないように思います。
 心配です。

 日向さんの電話が終わると、中尾師長が続いてどこかへ連絡を入れました。

「中尾です、今救急車手配しました。
はい、よろしくお願いします」
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