第11話

文字数 1,793文字

 ブレスレットは無事、手元に戻り、恵さんは予定通り手術を受けることが出来ました。
 術後の経過も順調で、今日の午後退院予定です。
 談話室で退院後の生活の注意点や、今後の通院予定などを日向(ひな)さんが恵さんに説明している時です。

「このブレスレット、親友と二人お揃いで買った物なんです」

 そう言いながら恵さんは手首のブレスレットを大事そうに触りました。

「まだ高校生だった私たちからしたらとても高価だったんですけど、お年玉やお小遣いを貯めて、2人であれこれ迷いながらブレスレットにする石を選びました。
この3種類の石は全て友情を深めるとか友達との絆を強めるパワーがあるんですよ。
彼女、愛とは一生の友達になれるーー、そう思っていたんです。高校最後の夏が来るまではーー」

「お話、お聞きしました。演劇部のオーディションで恵さんが役を勝ち取ったことから関係がおかしくなってしまったってーー」

「違うんです」

「えっ」

「愛とは1年の入学式の時に並びが前後で。私、旧姓原田っていうんですけど、彼女、浜辺で。それで、入学式当日から自然と話するようになったんです」
 

 彼女、演劇に興味あって、うちの高校、県内では演劇部が有名だったんです。
 全国大会にも何度も出たことあるくらいで。そこそこの進学校だったんですけど、愛、どうしてもうちの高校の演劇部に入りたくて、必死に受験勉強したらしいんです。
 私は親や担任に勧められるままに受験したのが同じ高校でした。
 
 愛は演劇をやりたいというだけあって、人前で自分を表現することが大好きな活発な性格でした。
 私はというと、小さい頃から引っ込み思案で、人前で発表することが何より苦手で、いつも誰かの側にくっついて行動するような子でした。
 でも、自分のそんな性格が嫌で、変えたい、変わりたいって思ってた。そんな時に出会ったのが愛でした。

 愛が一緒に演劇部に入ろうって誘ってくれてーー。
 以前の私だったら絶対に断っていたと思います。でも、愛がいるから、愛と一緒なら変われるんじゃないかって。
 楽しかったーー。
 舞台で大きな声で話すことがあんなに気持ちいいなんて、きっと愛と出会ってなければ私一生知らなかっただろうなあ。
 2年、3年はクラスは別れちゃったんですけど、部活中はもちろん、放課後や夏休みなんかもしょっちゅう2人で過ごしました。

 愛、ずっと立川のことが好きでーー。
 立川も1年から演劇部にいたんですけど、誰にでも優しいし、演技もなんていうか繊細なんだけどどこか大胆なとこもあって。部内でも目立ってました。
 1年の終わりごろだったかな、愛から立川のこと好きなんだって告げられてーー。
 私、わかってました。親友ですもの。そんなの一緒にいればわかります。
 それで、恵は? って。
 恵は立川君のことどう思ってるの? 
 恵も立川君のこと好きなら私諦める。
 恵のこと応援するよ、だって私にとって恵は立川君より大切な存在だもんって。   
 私、立川のことなんて何とも思ってないって答えたんです。
 親友として愛のこと応援するって言いました。
 でも本当はーー。

 私もずっと立川のことが好きでした。
 愛も気付いてたんだと思う。
 だから何回も聞いてくれた。遠慮しないでホントのこと言って。
 私恵のこと大好きだよって。
 なのに私、言えなかったーー。
 自分を変えてくれた愛の応援しようって。
 今度は私が愛の力になる番だって、本気で思ってました。
 あのオーディションまではーー。
 
 オーディションの日が近づくにつれ、立川と愛が主役を演じる姿を想像するだけで胸が掻きむしられるような気持ちになってーー。
 それで、当日に私、突然オーディションに応募してしまったんです。
 結局私が立川の相手役をすることになりました。
 大会が終わってすぐに立川に告白されて付き合うことになったんですが、それから私たち、以前のように一緒に過ごすことはなくなっていきました


「そうだったんですか」

「立川にはそこまで詳しくは話してはいません。
ただ、今から思えば、愛が私から離れていったのは、私が突然オーディションに参加して立川の相手役に選ばれたことでも、立川と付き合うようになったことでもなく、私が本当の気持ちを愛に打ち明けなかったからだったんだって後になって気付きました。
私たち親友だったのにーー」

 そう言うと恵さんは寂しそうに笑いました。
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