第60話
文字数 1,552文字
東主任が病棟に現れたのは衣良 さんが主任を呼びに行ってから1時間少し経った午後11時過ぎでした。
「金田さん!
ごめん、遅くなってーー」
「いえ、こちらこそ忙しいのにすいませんーー。
衣良さんは今、点滴交換に病棟回ってくれてます。
ミクロはまだ拉致されたままでーー」
「えーー!
あれからずーーっと!?」
「ミクロには悪いとは思うんですけど、誰か一人ついていないと全く他の仕事が進まなくてーー」
「わかったわ。
今から三橋さんとこ行ってくる」
そう言うと東主任は早足で605号室に向かいました。
コンコンーー。
「失礼しますーー」
「主任ーー」
「三久路 君、衣良さんが呼んでるから行ってーー」
「ーーなんだーー、まだ話は終わってないぞ。
嫁に早く連絡しろーーって言ってるだろ!」
「ですからーー」
「いいからーー。
三久路君、行ってーー」
三久路君は言いかけた言葉を飲み込むと、「失礼します」と小声でつぶやき病室を後にしました。
「三橋さん、どうされましたか?」
「はっ!?
ここの病院スタッフはホウレンソウも出来ない奴ばかりなのか!?」
「はいはい。
だいたいのことーー」
「はいはいだと!?
なんだ! そのものの言い方は!?」
もうこうなってはどうしょうもありません。
東主任はひたすら三橋さんの気持ちが落ち着くまで、なだめたりすかしたりし、気長に話を聞いています。
少し、三橋さんの声のトーンが落ち着いてきた頃でした。
「頼むから洋子を呼んでくれないか?」
三橋さんが静かに言いました。
「何か緊急なご用事でもあるんですか?
もう夜も遅いですし、奥様もお休みになってるんじゃないですか?」
「いいからーー!
あいつが来るまで俺は絶対に寝ないからな。
頼むから、洋子を呼んでくれーー」
先程までとは違う様子の三橋さんに、しばらく何やら考えていた東主任でしたが、「わかりました」と言うと病室を出て行きました。
もう時刻は午前を回っていますーー。
東主任、今から本当に奥様を呼ぶのでしょうか?
いつもの、ただのわがままとは違うと感じた東主任は結局、三橋さんのご自宅に電話を入れ、奥様がタクシーに乗って病室に現れたのは午前1時を過ぎた頃でした。
奥様は足早に三橋さんの病室に入って行ったかと思うと、ほんの2、3分でナースステーションに戻ってきました。
「主人がもう帰れ、と申しますのでこれで失礼しますーー」
「えっ!?
もういいんですか!?」
窓口で対応した東主任をはじめ、ナースステーションにいた夜勤者三人が驚いて近づいてきました。
「本当にわがままな主人で皆さんにはご迷惑ばかりかけて申し訳ございません。
でも、もう今晩はおとなしく休むと思いますのでーー」
三橋さんの奥様は深々と頭を下げると、「下にタクシーを待たせてますので」と穏やかな口調で話すと、帰って行きました。
後に残された四人は気が抜けたようにため息をつきながら各々椅子にドサっと座りました。
「全くーー、一体なんの為にこんな真夜中に奥さん呼んだのよーー!
私だったら絶対行かないわよ!」
金田さんが頭から湯気を出しながら言いました。
「私もーー。
よくあんな頑固な偏屈爺さんが、あんな穏やかで優しそうな奥さんと結婚できたもんだわ」
ホント、ホントーー。私だったら即離婚! などと、金田さんと衣良さんは言いたい放題です。あらあら、三久路君までしっかりと頷いていますよーー。
そんな時、ナースコールが鳴ったので、皆が一斉にコールボタンの先を見ると、三橋さんの名前の横が赤く点滅しています。
やだーー、奥さんの嘘つきーーなどと言いながらコールボタンを取ろうとした衣良さんに、先ほどまで黙って何かを考えているようだった東主任が「私行くからいいよ」と素早くコールボタンを押すと、「すぐ伺います」と返事をし、605に向かいました。
「金田さん!
ごめん、遅くなってーー」
「いえ、こちらこそ忙しいのにすいませんーー。
衣良さんは今、点滴交換に病棟回ってくれてます。
ミクロはまだ拉致されたままでーー」
「えーー!
あれからずーーっと!?」
「ミクロには悪いとは思うんですけど、誰か一人ついていないと全く他の仕事が進まなくてーー」
「わかったわ。
今から三橋さんとこ行ってくる」
そう言うと東主任は早足で605号室に向かいました。
コンコンーー。
「失礼しますーー」
「主任ーー」
「
「ーーなんだーー、まだ話は終わってないぞ。
嫁に早く連絡しろーーって言ってるだろ!」
「ですからーー」
「いいからーー。
三久路君、行ってーー」
三久路君は言いかけた言葉を飲み込むと、「失礼します」と小声でつぶやき病室を後にしました。
「三橋さん、どうされましたか?」
「はっ!?
ここの病院スタッフはホウレンソウも出来ない奴ばかりなのか!?」
「はいはい。
だいたいのことーー」
「はいはいだと!?
なんだ! そのものの言い方は!?」
もうこうなってはどうしょうもありません。
東主任はひたすら三橋さんの気持ちが落ち着くまで、なだめたりすかしたりし、気長に話を聞いています。
少し、三橋さんの声のトーンが落ち着いてきた頃でした。
「頼むから洋子を呼んでくれないか?」
三橋さんが静かに言いました。
「何か緊急なご用事でもあるんですか?
もう夜も遅いですし、奥様もお休みになってるんじゃないですか?」
「いいからーー!
あいつが来るまで俺は絶対に寝ないからな。
頼むから、洋子を呼んでくれーー」
先程までとは違う様子の三橋さんに、しばらく何やら考えていた東主任でしたが、「わかりました」と言うと病室を出て行きました。
もう時刻は午前を回っていますーー。
東主任、今から本当に奥様を呼ぶのでしょうか?
いつもの、ただのわがままとは違うと感じた東主任は結局、三橋さんのご自宅に電話を入れ、奥様がタクシーに乗って病室に現れたのは午前1時を過ぎた頃でした。
奥様は足早に三橋さんの病室に入って行ったかと思うと、ほんの2、3分でナースステーションに戻ってきました。
「主人がもう帰れ、と申しますのでこれで失礼しますーー」
「えっ!?
もういいんですか!?」
窓口で対応した東主任をはじめ、ナースステーションにいた夜勤者三人が驚いて近づいてきました。
「本当にわがままな主人で皆さんにはご迷惑ばかりかけて申し訳ございません。
でも、もう今晩はおとなしく休むと思いますのでーー」
三橋さんの奥様は深々と頭を下げると、「下にタクシーを待たせてますので」と穏やかな口調で話すと、帰って行きました。
後に残された四人は気が抜けたようにため息をつきながら各々椅子にドサっと座りました。
「全くーー、一体なんの為にこんな真夜中に奥さん呼んだのよーー!
私だったら絶対行かないわよ!」
金田さんが頭から湯気を出しながら言いました。
「私もーー。
よくあんな頑固な偏屈爺さんが、あんな穏やかで優しそうな奥さんと結婚できたもんだわ」
ホント、ホントーー。私だったら即離婚! などと、金田さんと衣良さんは言いたい放題です。あらあら、三久路君までしっかりと頷いていますよーー。
そんな時、ナースコールが鳴ったので、皆が一斉にコールボタンの先を見ると、三橋さんの名前の横が赤く点滅しています。
やだーー、奥さんの嘘つきーーなどと言いながらコールボタンを取ろうとした衣良さんに、先ほどまで黙って何かを考えているようだった東主任が「私行くからいいよ」と素早くコールボタンを押すと、「すぐ伺います」と返事をし、605に向かいました。