第44話
文字数 1,637文字
「おーい、ミクロ、あと何残ってる?
何?
物品チェックと、消毒液交換と薬品カート?
救急カートも今日使ってたからチェックと補充いるわよーー」
そうそう、今日の夜勤リーダーはせっかち満開、衣良 さんでした。
概 ね看護師さんというのは、せっかちな人が多いというのが長年病院にいる私の印象です。が、その中でも衣良さんはそうですねーー、歴代トップ3の中に入るのは間違いなしのせっかちさんです。
夜勤は準夜、深夜と夜通し時間がたっぷりあると思われるかもしれません。
しかし実際は、入院患者さんの状態が急変して検査や治療が必要になったり、緊急入院が入ることも多々あり、どんな時にも緊急対応できるようにしておかなくてはならないのです。
病棟の備品チェックや薬品カートに病棟患者さんの薬を入れるなど、夜勤帯で決められた仕事を出来るだけ早く片付けてしまうことは夜勤勤務の鉄則です。衣良さんはその鉄則オブザイヤーなのです。
「はい!
すいません。
い、今からやりまーー」
「あーー、いい、いい。
私やっとくから先、休憩入っちゃってーー。
あとが詰まっちゃうからーー」
「わわ、わかりました。
今書いてる記録書き終わっーー」
「今すぐ!
秒で!!」
「はい!」
三久路 君が衣良さんのせっかち線路に乗せられて、倍速の動きで、休憩室に入っていきます。
「それにしても602の桜川さんがうちの桜川裕子 さんのお父さんだなんて驚いたわよね。
富永 さん、本当に聞いてないの?」
「ええ。
私もさっき師長から聞いて驚きました」
「確かに送り聞いた時にちょっとおかしいとは思ったんだよね。
桜川さん、いつもならそんなに抜け無く送りしてくれるんだけど、今日は何聞いてもすいません、聞いてませんとかって言うし、なんていうか心ここにあらずーーって感じでさ。
お父さんのこと心配だったんだろうけど、普通、父のことよろしくお願いしますーーとか、一言あってもよくない?
それに仕事終わるととさっさと帰っちゃうし」
この件に関しては私も驚きました。
裕子さんの様子がおかしいことには気づいてはいたのですが、まさか父親の入院を受け持つことになった裕子さんが、そのことを病棟の誰にも告げず、そして、勤務が終わると父親の病室にも寄らず帰ってしまうなんてーー。
今までの裕子さんなら、少なくとも日向 さんには一声かけてくれたはずです。
きっと何か事情があるに違いありません。
「ーーそうですよね。
確かにユッコらしくなーー。
あれっ、612の村井さんじゃないですか!?」
日向さんが驚いた声で指差す方を見ると、高齢の男性がウォーカーと呼ばれる歩行器を押しながら廊下を歩いています。
「ホントだ!
ウソでしょ!?
イレウス管ーーーー」
衣良さんがナースステーションから飛び出して村井さんの元に駆けつけました。
日向さんも遅れじと続きます。
「村井さん!
こんな時間にどこ行くんですか!?
お鼻に入れてたチューブどうされました?」
呼び止められた村井さんはとても不思議そうな顔をしました。
普段から穏やかな性格の高齢の男性患者さんですが、認知症のせいか現在の状況が理解できていないようです。
「いやーー、すっかり遅くまでお邪魔してしまってすいません。
そろそろおいとましませんんとーー。
家族の者も心配しておると思いますのでーー」
「村井さん、村井さん、お鼻から管入れてたと思うんですけど、どこにありますか?
お部屋?
富永さん、すぐ612号室確認して、先生に報告、指示仰いーー」
「衣良さん!
バルーンも抜かれてます!」
村井さんのズボンから出ているチューブからポタポタと流れているのはどうやら尿のようです。村井さんが歩いてきた廊下を見ると、てんてんとおしっこロードができています。
衣良さんと日向さんはしばし無言で天を仰ぎました。
その時、ナースステーション内の電話と、ナースコールが少しの時間差で鳴り出しました。
衣良さんと日向さんは大きな深呼吸をすると、そこからは早送りの映画を見ているように動き出しましたーー。
何?
物品チェックと、消毒液交換と薬品カート?
救急カートも今日使ってたからチェックと補充いるわよーー」
そうそう、今日の夜勤リーダーはせっかち満開、
夜勤は準夜、深夜と夜通し時間がたっぷりあると思われるかもしれません。
しかし実際は、入院患者さんの状態が急変して検査や治療が必要になったり、緊急入院が入ることも多々あり、どんな時にも緊急対応できるようにしておかなくてはならないのです。
病棟の備品チェックや薬品カートに病棟患者さんの薬を入れるなど、夜勤帯で決められた仕事を出来るだけ早く片付けてしまうことは夜勤勤務の鉄則です。衣良さんはその鉄則オブザイヤーなのです。
「はい!
すいません。
い、今からやりまーー」
「あーー、いい、いい。
私やっとくから先、休憩入っちゃってーー。
あとが詰まっちゃうからーー」
「わわ、わかりました。
今書いてる記録書き終わっーー」
「今すぐ!
秒で!!」
「はい!」
「それにしても602の桜川さんがうちの
「ええ。
私もさっき師長から聞いて驚きました」
「確かに送り聞いた時にちょっとおかしいとは思ったんだよね。
桜川さん、いつもならそんなに抜け無く送りしてくれるんだけど、今日は何聞いてもすいません、聞いてませんとかって言うし、なんていうか心ここにあらずーーって感じでさ。
お父さんのこと心配だったんだろうけど、普通、父のことよろしくお願いしますーーとか、一言あってもよくない?
それに仕事終わるととさっさと帰っちゃうし」
この件に関しては私も驚きました。
裕子さんの様子がおかしいことには気づいてはいたのですが、まさか父親の入院を受け持つことになった裕子さんが、そのことを病棟の誰にも告げず、そして、勤務が終わると父親の病室にも寄らず帰ってしまうなんてーー。
今までの裕子さんなら、少なくとも
きっと何か事情があるに違いありません。
「ーーそうですよね。
確かにユッコらしくなーー。
あれっ、612の村井さんじゃないですか!?」
日向さんが驚いた声で指差す方を見ると、高齢の男性がウォーカーと呼ばれる歩行器を押しながら廊下を歩いています。
「ホントだ!
ウソでしょ!?
イレウス管ーーーー」
衣良さんがナースステーションから飛び出して村井さんの元に駆けつけました。
日向さんも遅れじと続きます。
「村井さん!
こんな時間にどこ行くんですか!?
お鼻に入れてたチューブどうされました?」
呼び止められた村井さんはとても不思議そうな顔をしました。
普段から穏やかな性格の高齢の男性患者さんですが、認知症のせいか現在の状況が理解できていないようです。
「いやーー、すっかり遅くまでお邪魔してしまってすいません。
そろそろおいとましませんんとーー。
家族の者も心配しておると思いますのでーー」
「村井さん、村井さん、お鼻から管入れてたと思うんですけど、どこにありますか?
お部屋?
富永さん、すぐ612号室確認して、先生に報告、指示仰いーー」
「衣良さん!
バルーンも抜かれてます!」
村井さんのズボンから出ているチューブからポタポタと流れているのはどうやら尿のようです。村井さんが歩いてきた廊下を見ると、てんてんとおしっこロードができています。
衣良さんと日向さんはしばし無言で天を仰ぎました。
その時、ナースステーション内の電話と、ナースコールが少しの時間差で鳴り出しました。
衣良さんと日向さんは大きな深呼吸をすると、そこからは早送りの映画を見ているように動き出しましたーー。