第58話 いじめっ子の意外な展開
文字数 3,271文字
昼休み、給食時間が終わり、皆が外に遊びに行こうとしている生徒達の中にリーダー格の女子と男子がいたので煉は思い切って声を掛けた。
「ちょっと話があるんだけどいいかな。」
ここで無視されたら話にならないと思ったが二人とも顔を見合わせ、歪んだ笑みを浮かべてからあっさりと首を縦に振った。第一関門は何とか突破したような気がした。場所を校舎の屋上に移してから煉は二人に切り出した。
「私が皆から無視されたり、私の物が次々に隠されているけど、これはあなた達の仕業よね?」
「さあ、何のこと?私には身に覚えが無いけど?」
女子のほうが何のことを言ってるのか全くわかりませんわという顔で淡々と言った。煉はたじろいだ。知らないといわれれば説得も何も意味がなくなる。そこへ女子が追い討ちをかけるように言い放つ。
「大体、物が隠されるって言うけど私たちが神楽坂さんの物を盗ったところでも見たの?そうでもないのに犯人扱いするのは酷いんじゃないかしら。」
確かに女子の言うように煉には二人がやったという証拠を持っていない。煉が先生にしかられる場面で二人だけが嘲け笑っているのを見て煉は直感で、クラスを取り仕切っているこの二人を犯人と思っただけだ。確証が無かった。では他に真犯人がいるかといえばそうは思えなかった。
言い返せずに口籠っていると黙って二人のやり取りを見ていた男子が初めて口を開いた。
「まあ、いいじゃないか。俺たちがやったって認めようよ。」
「ちょっと・・・!」
女子が男子を振り返り何を言い出すのかという顔をした。そんな女子には構わずに男子は続ける。どういえばいいのか困惑していた煉はその男子の告白に素直に安堵した。
「皆に神楽坂さんを無視するように言ったのも、物を隠したのも俺達だよ。白状する。」
堂々と言う男子の横で女子は動揺を隠せないでいた。煉は男子に顔を向け真剣に問いかけた。
「どうして?どうしてこんなことしたの?私何か悪いことした?いろいろ考えたんだけれど私には身に覚えが無いの。それなのに無視されるのは納得いかないし辛いのよ。私の何が気に入らないの、教えてよ。」
「特に理由はないよ。面白いと思ったからやっただけ。」
表情を変えずに淡々という男子の言葉を聞いて煉はそんな、と絶句し愕然とした。原因も無いのにこんな嫌がらせを受けていたなんて。理不尽ないじめではないか。ひどく悲しい気持ちになり俯いた煉に男子は言った。
「初めは面白半分でやってたけど、だんだん悪いことしたなって後悔してたとこなんだ。だから謝るよ。もう無視や物を隠したりはしないから、許してくれるかい?」
もうしない、とこんな風に言われてしまえば煉は頷かざる終えなかった。
説得はもっと難航を極めると思っていたので、あっさりと罪を認められたことで拍子抜けしてしまった。暴力の一つでも振るわれるかもしれないと覚悟していたくらいなのに。謝ってもこれくらいでは許さないと言ったところで煉には何をすればいいのか思いつきもしなかった。
争いを嫌う煉には暴力を振るうなんてもっての他だった。
「うん・・・・もうしないって約束してくれるならそれでいいの。」
煉は二人の顔を交互に見つめてからそう言った。男子に促されて女子も何か納得しないような表情をしながらも、謝罪の言葉を口にして男子と共に校舎のほうに向かい、階段を降りて行った。
彼らの背中を見送りながら、煉は釈然としないながらもこれでよかったのだと心に言い聞かせた。勇気を出した結果、自分の力で解決できたのだと。
階段を先に下りていく男子に追いつこうと女子が駆け下りながら咎めるように声をかける。
「ねえ、どうしたのよ。ほんとにもうやめちゃうの?」
「まさか、これで終わらせるわけ無いだろ。まだほんの序の口だぜ。」
「じゃあどうして・・・?」
女子に問い詰められて男子は怪しい笑みを浮かべて言った。
「俺にいい考えがあるから。任せろって。」
あまりにもあっさりとあの二人にわかってもらえて今朝した決意が消化不良気味だったが煉はこれで良しとした。成り行きがどうであれもう嫌がらせを受けることはもうなくなったんだから。晴れかけた気持ちで昼休みも残りわずかという事で教室へと急いで廊下を駆け出していった。
この時、煉は更に残酷な運命が待ち構えていることなど想像することはできなかった。
姉の誕生日が間近に迫っていた。煉はプレゼントのセーターを編むペースを努力して速めていたが当日に間に合うかどうか微妙だった。家でだけ編んでいたのでは間に合わないと判断して学校の休み時間を活用しようと考えた。夜寝る前に忘れないようにと手提げ袋に作りかけたセーターと毛糸とはりををたたんで入れた。ふとあのリーダー格の生徒達の顔が浮かんだ。
もう嫌がらせはしないといっていたし学校に持っていっても大丈夫だろうと煉は考えた。夜明日の学校の準備を済ませると煉はふとんに潜り眠りについた。
次の日登校した煉にクラスの皆は今まで無視していたのが嘘のように挨拶をしてくれた。どうやら昨日のうちにあの二人が皆に煉に対する嫌がらせを中止するように言ったことがクラスの隅々までいきわたったようである。
「煉ちゃんごめんね。今まで無視したりして。あの二人に脅されて仕方なくこうすることしか出来なかったの。逆らえば私たちが無視されてしまうから。」
仲のよかった生徒達が口々に煉に謝罪した。もし誰かが自分がされたようにいじめられるのを協力するように言われたら、煉はどうするだろうか考えた。彼らが言うようにいじめられている人を庇うことで無視されるのは恐怖だろう。
でもやはり煉には黙って見ていることはできないと思う。間違ったことを指をくわえて見てるだけなのはやっぱり間違ってると煉は思うから。本当に親しい友人がいじめられたのであれば煉は無視なんかするつもりはない。煉は強い人間ではないけれど、怖くても自分が正しいと考えることはしないといけないと思った。
口で言うだけなら簡単なのでそういう場面になってみないとわからないけどこれが煉の考えだった。もちろんこういう自分の考えをクラスメイト全員に無理やり押し付けることが間違いであることも重々承知しているから彼らを責めるつもりは無い。
「もう過ぎたことだし、いいの。以前のように仲良くしてね。」
にこやかに笑った煉の言葉に皆の沈んだ顔がパッと明るくなるのがはっきりわかった。やはりこの嫌がらせに加担することに多分に罪悪感を抱いていたのだろうか。煉の心の広さを表すような言葉に皆は心底救われた様子だった。
煉はこの日の休み時間を全て活用して編みかけのセーターの製作につぎ込んだ。給食時間には久しぶりにクラスメイト達と仲良くお喋りをしながら楽しい食事をすることができた。昼休み煉が生徒たちもまばらな教室で編み物をしていると話しかけてくる生徒が一人。煉とは比較的仲のよい女子だった。沈んだ表情をしているのが気になった。
「ねえ、神楽坂さん。私の上履き見かけなかった?」
編み物をする手を止めて煉は顔を上げて首を傾げた。
「見てないけど・・・。なくしたの?」
「うん、色々なところ探してみたんだけど無いの。六時間目体育館で体育でしょ。無いから困ってるの。確かに今朝までには机の横にかけてあった手提げの中にあったはずなんだけど・・。」
「わかった。一緒に探してみよう。ロッカーの中は見た?」
編み物を一旦机に置いて女子と共に探し始めた。教室内の探せる範囲や廊下を探してみたがどこにも無かった。教室にいる他の生徒達にも聞いてみたが知らないという。仕方ないので今日は先生に正直に事情を話すしかないという事になった。煉は何か胸騒ぎがした。自分に対する嫌がらせが無くなって今度は違う生徒に被害が及ぶことになったのではないかという考えが脳裏を一瞬かすめた。
しかし彼女は今のところ皆からは無視されていないようだし、考えすぎだと思い直した。上履きも彼女の勘違いで家にあるのかもしれない。体育の時間彼女は先生に煉が思ったようなことを言われ案の定、注意を受けていた。
「ちょっと話があるんだけどいいかな。」
ここで無視されたら話にならないと思ったが二人とも顔を見合わせ、歪んだ笑みを浮かべてからあっさりと首を縦に振った。第一関門は何とか突破したような気がした。場所を校舎の屋上に移してから煉は二人に切り出した。
「私が皆から無視されたり、私の物が次々に隠されているけど、これはあなた達の仕業よね?」
「さあ、何のこと?私には身に覚えが無いけど?」
女子のほうが何のことを言ってるのか全くわかりませんわという顔で淡々と言った。煉はたじろいだ。知らないといわれれば説得も何も意味がなくなる。そこへ女子が追い討ちをかけるように言い放つ。
「大体、物が隠されるって言うけど私たちが神楽坂さんの物を盗ったところでも見たの?そうでもないのに犯人扱いするのは酷いんじゃないかしら。」
確かに女子の言うように煉には二人がやったという証拠を持っていない。煉が先生にしかられる場面で二人だけが嘲け笑っているのを見て煉は直感で、クラスを取り仕切っているこの二人を犯人と思っただけだ。確証が無かった。では他に真犯人がいるかといえばそうは思えなかった。
言い返せずに口籠っていると黙って二人のやり取りを見ていた男子が初めて口を開いた。
「まあ、いいじゃないか。俺たちがやったって認めようよ。」
「ちょっと・・・!」
女子が男子を振り返り何を言い出すのかという顔をした。そんな女子には構わずに男子は続ける。どういえばいいのか困惑していた煉はその男子の告白に素直に安堵した。
「皆に神楽坂さんを無視するように言ったのも、物を隠したのも俺達だよ。白状する。」
堂々と言う男子の横で女子は動揺を隠せないでいた。煉は男子に顔を向け真剣に問いかけた。
「どうして?どうしてこんなことしたの?私何か悪いことした?いろいろ考えたんだけれど私には身に覚えが無いの。それなのに無視されるのは納得いかないし辛いのよ。私の何が気に入らないの、教えてよ。」
「特に理由はないよ。面白いと思ったからやっただけ。」
表情を変えずに淡々という男子の言葉を聞いて煉はそんな、と絶句し愕然とした。原因も無いのにこんな嫌がらせを受けていたなんて。理不尽ないじめではないか。ひどく悲しい気持ちになり俯いた煉に男子は言った。
「初めは面白半分でやってたけど、だんだん悪いことしたなって後悔してたとこなんだ。だから謝るよ。もう無視や物を隠したりはしないから、許してくれるかい?」
もうしない、とこんな風に言われてしまえば煉は頷かざる終えなかった。
説得はもっと難航を極めると思っていたので、あっさりと罪を認められたことで拍子抜けしてしまった。暴力の一つでも振るわれるかもしれないと覚悟していたくらいなのに。謝ってもこれくらいでは許さないと言ったところで煉には何をすればいいのか思いつきもしなかった。
争いを嫌う煉には暴力を振るうなんてもっての他だった。
「うん・・・・もうしないって約束してくれるならそれでいいの。」
煉は二人の顔を交互に見つめてからそう言った。男子に促されて女子も何か納得しないような表情をしながらも、謝罪の言葉を口にして男子と共に校舎のほうに向かい、階段を降りて行った。
彼らの背中を見送りながら、煉は釈然としないながらもこれでよかったのだと心に言い聞かせた。勇気を出した結果、自分の力で解決できたのだと。
階段を先に下りていく男子に追いつこうと女子が駆け下りながら咎めるように声をかける。
「ねえ、どうしたのよ。ほんとにもうやめちゃうの?」
「まさか、これで終わらせるわけ無いだろ。まだほんの序の口だぜ。」
「じゃあどうして・・・?」
女子に問い詰められて男子は怪しい笑みを浮かべて言った。
「俺にいい考えがあるから。任せろって。」
あまりにもあっさりとあの二人にわかってもらえて今朝した決意が消化不良気味だったが煉はこれで良しとした。成り行きがどうであれもう嫌がらせを受けることはもうなくなったんだから。晴れかけた気持ちで昼休みも残りわずかという事で教室へと急いで廊下を駆け出していった。
この時、煉は更に残酷な運命が待ち構えていることなど想像することはできなかった。
姉の誕生日が間近に迫っていた。煉はプレゼントのセーターを編むペースを努力して速めていたが当日に間に合うかどうか微妙だった。家でだけ編んでいたのでは間に合わないと判断して学校の休み時間を活用しようと考えた。夜寝る前に忘れないようにと手提げ袋に作りかけたセーターと毛糸とはりををたたんで入れた。ふとあのリーダー格の生徒達の顔が浮かんだ。
もう嫌がらせはしないといっていたし学校に持っていっても大丈夫だろうと煉は考えた。夜明日の学校の準備を済ませると煉はふとんに潜り眠りについた。
次の日登校した煉にクラスの皆は今まで無視していたのが嘘のように挨拶をしてくれた。どうやら昨日のうちにあの二人が皆に煉に対する嫌がらせを中止するように言ったことがクラスの隅々までいきわたったようである。
「煉ちゃんごめんね。今まで無視したりして。あの二人に脅されて仕方なくこうすることしか出来なかったの。逆らえば私たちが無視されてしまうから。」
仲のよかった生徒達が口々に煉に謝罪した。もし誰かが自分がされたようにいじめられるのを協力するように言われたら、煉はどうするだろうか考えた。彼らが言うようにいじめられている人を庇うことで無視されるのは恐怖だろう。
でもやはり煉には黙って見ていることはできないと思う。間違ったことを指をくわえて見てるだけなのはやっぱり間違ってると煉は思うから。本当に親しい友人がいじめられたのであれば煉は無視なんかするつもりはない。煉は強い人間ではないけれど、怖くても自分が正しいと考えることはしないといけないと思った。
口で言うだけなら簡単なのでそういう場面になってみないとわからないけどこれが煉の考えだった。もちろんこういう自分の考えをクラスメイト全員に無理やり押し付けることが間違いであることも重々承知しているから彼らを責めるつもりは無い。
「もう過ぎたことだし、いいの。以前のように仲良くしてね。」
にこやかに笑った煉の言葉に皆の沈んだ顔がパッと明るくなるのがはっきりわかった。やはりこの嫌がらせに加担することに多分に罪悪感を抱いていたのだろうか。煉の心の広さを表すような言葉に皆は心底救われた様子だった。
煉はこの日の休み時間を全て活用して編みかけのセーターの製作につぎ込んだ。給食時間には久しぶりにクラスメイト達と仲良くお喋りをしながら楽しい食事をすることができた。昼休み煉が生徒たちもまばらな教室で編み物をしていると話しかけてくる生徒が一人。煉とは比較的仲のよい女子だった。沈んだ表情をしているのが気になった。
「ねえ、神楽坂さん。私の上履き見かけなかった?」
編み物をする手を止めて煉は顔を上げて首を傾げた。
「見てないけど・・・。なくしたの?」
「うん、色々なところ探してみたんだけど無いの。六時間目体育館で体育でしょ。無いから困ってるの。確かに今朝までには机の横にかけてあった手提げの中にあったはずなんだけど・・。」
「わかった。一緒に探してみよう。ロッカーの中は見た?」
編み物を一旦机に置いて女子と共に探し始めた。教室内の探せる範囲や廊下を探してみたがどこにも無かった。教室にいる他の生徒達にも聞いてみたが知らないという。仕方ないので今日は先生に正直に事情を話すしかないという事になった。煉は何か胸騒ぎがした。自分に対する嫌がらせが無くなって今度は違う生徒に被害が及ぶことになったのではないかという考えが脳裏を一瞬かすめた。
しかし彼女は今のところ皆からは無視されていないようだし、考えすぎだと思い直した。上履きも彼女の勘違いで家にあるのかもしれない。体育の時間彼女は先生に煉が思ったようなことを言われ案の定、注意を受けていた。