第76話 高校見学の後になんてことが・・・

文字数 2,987文字

次の日加奈は学校のホームルームが終わり、今日は第一志望の高校を見学に行こうと思っていた。来年には無事に試験に合格して三年間通うことになる高校である。前もってどんな校風なのか、どういう環境の中に高校があるのかなど実際、この目で見てみようと思ったのだ。



加奈がその高校に通うイメージをより鮮明に描くために。どんな高校か知らずに受験勉強に取り組むのと、知ってて取り組むのでは意気込みが違ってくる気がしていたからだ。中学校を出て最寄の電車の駅に向かった。切符を買い電車に乗り途中で下車してからバスに乗り換えて約四十分程で、高校のあるバス停に着く予定だった。



バスの中はそれほど混んでいなかった。途中バスが進んでいくにつれて過ぎていく景色がのどかになっていき、畑や田んぼがちらほら見えてくるようになっていた。この時間帯に生徒たちは登校しないから当然だが、代わりに入れ違いに高校から駅に向かうバスは帰宅する高校生たちで混雑していた。



加奈はバス停から徒歩で歩いて行った。しばらくすると塀に囲まれた高校の校舎が見えてきた。学校は大きな道路に面していて、車の行きかいが激しかった。校門の前に立ち加奈はそこから見える学校の様子を眺めた。下校するために校門をくぐって生徒たちが絶え間なく出てくる。



加奈は邪魔にならないように脇にどいて生徒たちを眺めた。友達と楽しそうに喋りながら学校を後にする生徒、カップルと思わしき男女二人組みの生徒など様々だった。ここが来年通う予定?の高校か・・



加奈は頭の中で自分が毎日電車に揺られ、バスに乗り、この校門をくぐる自分の姿を思い描いた。何故かわからないがいまいち、しっくりこずうまく想像できなかった。校庭を囲む道を一周してみようと塀に沿って歩き出した。



一つ目の角を曲がってしばらくすると塀が消えてその代わりに空高く張られた大きな緑色の網目のネットが現れた。ネットを通して学校の内部を伺うことが出来た。高校のグランドに面している場所で、放課後の部活動をする生徒たちで賑わっていた。



サッカー部、百メートルのタイムを計っているのだろう陸上部、子気味よい打球音を響かせている野球部など様々な運動部が活動していた。加奈は立ち止まってぼんやりとネット越しにグランドを眺めた。生徒たちは生き生きとした表情をしているのがわかる。



校風について最初に思った感想は特に悪い感じはしなかった。かといってすごくいいとも思えなかった。これといって不快に思うマイナス点は特にない。でもどうしてもここに通いたいとは思えなかった。高校なんてこんなものなのかしらと加奈は漠然と考えた。



帰りの高校生達で混んだバスに揺られて加奈は第二、第三志望の高校もこんな感じに感銘を受けたりしないんだろうかと思った。とりあえず受験校は決定かなと思った。バスを降りて電車に乗り換えるために駅に向かった。



切符を買うためにできた人々の列に加奈も並んだ。隣の券売機にも人の列が出来ていた。列が空くのを待っている間、加奈はその人々の方を何気なく見た。並んでいる中に高校生と思しき女子高生が一人並んでいた。



彼女の制服に目をやり、ああ、加奈の志望している高校の生徒ではないみたいと思ってしばらくなんとはなしに見つめていた。でもなんだか初めて見る制服じゃないような気がする・・



どこかで見たことがある・・どこだろう・・・でもなかなか思い出せない・・。そんなことをぼんやり考えていると加奈の前に並んでいた列が進み、加奈ははっと我にかえっていそいそと切符を購入した。



さっきの彼女も切符を買い終えたようでホームに上がる階段の方に行こうとしていた。加奈も同じようにホームに向かった。ホームまで上がると彼女が立っていた。加奈はなんとなく彼女の隣に立っていた。



どこで見たんだっけと制服のことを考えていると、電車が到着するアナウンスが短い音楽の後、流れてきた。なんとなく隣の彼女をチラッと見ると鞄からウォークマンを取り出してイヤホンを耳につけたところだった。音楽か・・・・・。





(・・・・・・!)





加奈はやっと思い出した。スピーカーから流れる音楽、彼女が聴こうとしている音楽そして制服ーーー。加奈は思わず驚きの声を上げそうになったが、ぐっとこらえて飲み込んだ。彼女の制服を加奈は凝視した。



こんなことがあるなんて信じられなかった。しかし彼女は確かに加奈のよく知っている制服を着ていたのだ。あんなに加奈の心に強い光景を焼き付けたのだ。はっきりと覚えている。忘れるわけがない。









彼女が着ていた制服は加奈が何度も夢にみた少女が着ていたのと同じ制服だったのだ。









彼女と共に電車に乗り込んだ加奈はひどく動揺して心を平静に保つことが出来なかった。いくら落ち着かせようとしても心臓の鼓動は一向に静まりそうにない。電車の座席は埋まっていて座るところがなかったので彼女はドアの隅にある取っ手のところに立って音楽を聴きながら窓に映る景色を見ていた。



陽が落ちて外はもう真っ暗でドアには電車内の様子が映っていた。加奈は彼女のいるところとは反対側のドアのところに立って彼女を、その制服を凝視していた。間違いない、夢で見た制服だと確信を抱いているとふと顔を上げた彼女と目があってしまった。思わず加奈は目を逸らす。



じっと見つめてしまって変な子と思われてしまっただろうか・・・おそるおそる彼女を盗み見るともう加奈の方を見ていなくてほっとした。加奈はどうしようかと心の中で考えた。夢で見たあの少女が着ていた制服が現実に本当にあったなんて。夢を見るまで加奈は制服を知らなかった。



それなのにあんなにはっきりと夢に見た。いやもしかしたら加奈の知らないうちに無意識にどこかでこの制服を着た人を見ていて、偶然夢の中にでてきただけかもしれない。しかしそれだけであんなにはっきりと夢にあらわれるものだろうか。



加奈の直感が忘れてはならない重要な情報として無意識の内に加奈の記憶にインプットされて夢に出てきたのだろうか。制服を見たことがあるか、ないかにしろ、あんなに強烈な夢だったのだ。一回きりの夢ならまだしも何度も見たのだ。その手がかりが今目の前にある。



これは加奈の潜在意識が何かを加奈に訴えているということかもしれない。そう考えてちらりと彼女越しに見える隣の車両を見やった。こちらの車両より多少混んでいるようだった。次の瞬間加奈は心臓がさらに跳ね上がり大きく目を見開いた。



隣の車両に一人の男子高校生らしき人が見えた。なんとその制服は夢でみた少年が着ていた物と同じだったのだ。遠目にもはっきりとわかった。高鳴る鼓動を抑えようとしていると電車はいつの間にか駅をいくつか過ぎていて、ある駅に停車したところだった。



目の前の彼女がイヤホンを耳からはずして反対側のドアが開いて降りていった。加奈はあせった。どうしよう。彼女の通っている高校が気になる。このまま加奈も一緒に下車して彼女を追いかけて呼び止め、高校名だけでも聞きだそうかと考えた。



いやそんなことをしなくても何かしら自分で調べればどこの高校かくらいわかるはずだ。加奈の降りるべき駅はまだ先である。しかし加奈のそんな考えとは裏腹に加奈の足は彼女を追うべくして気がつけば電車を下車していた。



後ろでドアが閉まって電車が動き出す音を聞きながら加奈は彼女を夢中で追っていた。
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