第49話 ああ、全ては芸術のため・・・ほんまかいな。
文字数 2,530文字
二人を乗せたバイクは軽快に道路を進み、目に映る景色はしばらくするとすっかりと変わり過ぎていった。真琴は彼が一体どこに連れていこうとしているのだろうと考えを巡らせたが、彼は普段何を考えているのか全くわからないキャラなので思いつかなかった。
しばらく走っていると辺りには建物がなくなってきて、山々が連なる景色になった。森林の緑がくっきりと目に映った。山を越えると、視界に何かの大きな人工物らしきものが遠くに見えた。真琴は何だろうかと目を凝らしていると、それは観覧車だった。まさかね・・・と真琴はふいに浮かんだ考えをかき消した。
いくら彼でも自分達が特に親しい間柄でもない若い男女の二人であるのだから、あんなところに行こうとするわけは無いだろう。しかし真琴の予想とは裏腹に彼が向かうのはその遊園地の方角だった。どんどん観覧車が大きく見えてきて、他の遊戯の乗り物まで見えてきた。
「ちょっと!まさかあそこに行こうって言うんじゃないでしょうね!」
「え?何!?」
真琴が大きな声で彼に問いかけたが、風を切る強い音のために彼には伝わらなかった。真琴は仕方なく目的地に着くまでは我慢しようとあきらめた。
「ちょっと、どうしてここなわけ?」
真琴は腕を組み、バイクを駐車スペースに入れて止め、ヘルメットを取った彼を睨みつけた。
「どう?楽しめそうでしょう。じゃあ行こうか。」
「そうじゃなくて!どうして私があなたと遊園地なんかに来なきゃいけないのよ!」
「やっぱり嫌?そう言うだろうと思って目的地を伏せておいて正解だったなあ。」
「私絶対嫌よ!帰る!」
彼を置いて足早に真琴が歩き出すと彼が真琴の手をつかんできた。
「もうここまで来たんだから観念をし?これから一人で電車で帰る気かい?」
彼の口調は変だったが腕を引っ張る手が強く放そうとしない。
「そうよ、だから放しなさいよっ。」
腕を振りほどこうとしても解けなくて、彼は真琴の手をつかんだまま引っ張って遊園地の入り口に歩き出した。手と手が繋がって真琴は顔が赤く上気した。
「ちょっ、ちょっとっ。」
「絶対放さないよ。」
突然、振り返ってさわやかに彼が言うと真琴は一瞬抵抗するのも忘れ、胸がどきんとした。そのまま引っ張られる形で遊園地の入り口までやってきた。
「この手を離さないとここで私、大声出すわよ。」
脅すような表情で真琴が言うと彼はきょとんとして言った。
「それはちょっと困るね・・・。仕方ない、ここに来た僕の目的を話すよ。」
「目的?なによそれ・・・。」
ブスッとして真琴は言った。彼は表情を少し引締めた。
「実は僕、絵画がスランプなんだ。」
「は?スランプ?どういう事?思うように絵が描けなくなったってこと?」
彼の話が全く予想していなかった絵の方にとんで真琴はあっけに取られ、意外な顔をした。
「うん、今まで描きたかったものはたいがいは描いてきたんだ。それまではよかったんだけど、最近になって僕の中で心境の変化があったんだ。描きたいものが変わってきたんだよ。君がピアノで弾きたい曲が気分で変わるみたいにね。だから今までと同じようなことをしていては描きたいものがどうしても描けないんだ。」
「あいまいで理解できるようでよくわからないけど、新しい絵を描くためには遊園地に来る必要があったってこと?」
真琴が言うと彼は顔を輝かせた。
「そう、そうなんだ。わかってくれて嬉しいよ。」
「でもどうして遊園地なの?ここでないと駄目な訳でもあるの?」
腑に落ちない表情で真琴は聞いた。彼はポケットからコンパクトなデジタルカメラを取り出して顔の前に構えて真琴に向けてシャッターを切った。
「僕が絵にしてみたい要素がここにはたくさん詰まっているからさ。写真を撮って絵の参考にしようとも思っているんだよ。後、気分転換もしないといい絵が描けないからね。」
「こらっ、勝手に撮るな。具体的にどんなものを描きたいのよ?」
「遊園地って言えば、家族連れやカップルが多いでしょう?子供達が純粋に楽しんでる笑顔とか、恋人との幸せいっぱいの一時を堪能している男女の表情とか、遊園地自体に満ちた活気ある幸福な風景、それら全てをひっくるめたものを僕は芸術として形にしたいんだ。」
ピアノを弾いて表現するのが好きな真琴は、同じ芸術を愛する者として、彼の言わんとしてること、気持ちがわからなくもなかった。
「あなたがここに来たがった目的はわかったわ。じゃあさ、ここにはあなた一人で来ればよかったじゃない。どうして私も一緒に行かないといけないの?私が来た意味ないじゃない。」
真琴が言うと彼は満面の笑みで言った。
「僕は君と来たかったんだ。」
真琴は頭の中が打ち抜かれたように真っ白になってかたまった。彼を見つめたまま、数秒後、真琴はようやく思考回路がゆっくりと動き出した。彼は今何て言ったの?真琴と来たかった・・・?それはどういう意味だろう、意味深発言に真琴の心中は混乱の真っ只中だった。
「何故か一人では来たくなかったんだ。それで誰かを誘おうって考えた時、一番最初に浮かんだのが君だったんだ。君と一緒ならいい絵が描けそうな気がなんとなくしてね、これは僕の直感だけど。」
返す言葉もなく真琴は押し黙って彼を見つめていた。
彼が言ったことはどういう意味なんだろうか、こういうところに一人で来るのがいくら絵のためとはいえ気が引けたために誰でもいいという事で、真琴を誘ったのか、いや彼の性格からしてそんなことを気にするとは思えない・・・人の目なんか気にせず単独でわが道を行きそうである・・・じゃあ・・・ということは・・・もしかして・・・まさかね・・ありえないよ・・。
「君も気分転換がてら、気楽な感じで付き合ってくれるだけでいいからさ。駄目かな?もちろん何か食べ物奢るし、入場料から乗り物代まで僕が全部出すからさ。」
お願い、と彼は両手を合わせて懇願するように言った。
「・・仕方ないわね、わかったわ、付き合ってあげるわよ。ただしこれはデートじゃないですからね。そこのところは勘違いしないように!」
真琴は眉根を寄せて顔を少し赤らめ、腰に手を当ててつんとして言った。顔を輝かせて彼は真琴の腕を取りぶんぶん振ってありがとうとお礼を惜しみもなく何度も言った。
しばらく走っていると辺りには建物がなくなってきて、山々が連なる景色になった。森林の緑がくっきりと目に映った。山を越えると、視界に何かの大きな人工物らしきものが遠くに見えた。真琴は何だろうかと目を凝らしていると、それは観覧車だった。まさかね・・・と真琴はふいに浮かんだ考えをかき消した。
いくら彼でも自分達が特に親しい間柄でもない若い男女の二人であるのだから、あんなところに行こうとするわけは無いだろう。しかし真琴の予想とは裏腹に彼が向かうのはその遊園地の方角だった。どんどん観覧車が大きく見えてきて、他の遊戯の乗り物まで見えてきた。
「ちょっと!まさかあそこに行こうって言うんじゃないでしょうね!」
「え?何!?」
真琴が大きな声で彼に問いかけたが、風を切る強い音のために彼には伝わらなかった。真琴は仕方なく目的地に着くまでは我慢しようとあきらめた。
「ちょっと、どうしてここなわけ?」
真琴は腕を組み、バイクを駐車スペースに入れて止め、ヘルメットを取った彼を睨みつけた。
「どう?楽しめそうでしょう。じゃあ行こうか。」
「そうじゃなくて!どうして私があなたと遊園地なんかに来なきゃいけないのよ!」
「やっぱり嫌?そう言うだろうと思って目的地を伏せておいて正解だったなあ。」
「私絶対嫌よ!帰る!」
彼を置いて足早に真琴が歩き出すと彼が真琴の手をつかんできた。
「もうここまで来たんだから観念をし?これから一人で電車で帰る気かい?」
彼の口調は変だったが腕を引っ張る手が強く放そうとしない。
「そうよ、だから放しなさいよっ。」
腕を振りほどこうとしても解けなくて、彼は真琴の手をつかんだまま引っ張って遊園地の入り口に歩き出した。手と手が繋がって真琴は顔が赤く上気した。
「ちょっ、ちょっとっ。」
「絶対放さないよ。」
突然、振り返ってさわやかに彼が言うと真琴は一瞬抵抗するのも忘れ、胸がどきんとした。そのまま引っ張られる形で遊園地の入り口までやってきた。
「この手を離さないとここで私、大声出すわよ。」
脅すような表情で真琴が言うと彼はきょとんとして言った。
「それはちょっと困るね・・・。仕方ない、ここに来た僕の目的を話すよ。」
「目的?なによそれ・・・。」
ブスッとして真琴は言った。彼は表情を少し引締めた。
「実は僕、絵画がスランプなんだ。」
「は?スランプ?どういう事?思うように絵が描けなくなったってこと?」
彼の話が全く予想していなかった絵の方にとんで真琴はあっけに取られ、意外な顔をした。
「うん、今まで描きたかったものはたいがいは描いてきたんだ。それまではよかったんだけど、最近になって僕の中で心境の変化があったんだ。描きたいものが変わってきたんだよ。君がピアノで弾きたい曲が気分で変わるみたいにね。だから今までと同じようなことをしていては描きたいものがどうしても描けないんだ。」
「あいまいで理解できるようでよくわからないけど、新しい絵を描くためには遊園地に来る必要があったってこと?」
真琴が言うと彼は顔を輝かせた。
「そう、そうなんだ。わかってくれて嬉しいよ。」
「でもどうして遊園地なの?ここでないと駄目な訳でもあるの?」
腑に落ちない表情で真琴は聞いた。彼はポケットからコンパクトなデジタルカメラを取り出して顔の前に構えて真琴に向けてシャッターを切った。
「僕が絵にしてみたい要素がここにはたくさん詰まっているからさ。写真を撮って絵の参考にしようとも思っているんだよ。後、気分転換もしないといい絵が描けないからね。」
「こらっ、勝手に撮るな。具体的にどんなものを描きたいのよ?」
「遊園地って言えば、家族連れやカップルが多いでしょう?子供達が純粋に楽しんでる笑顔とか、恋人との幸せいっぱいの一時を堪能している男女の表情とか、遊園地自体に満ちた活気ある幸福な風景、それら全てをひっくるめたものを僕は芸術として形にしたいんだ。」
ピアノを弾いて表現するのが好きな真琴は、同じ芸術を愛する者として、彼の言わんとしてること、気持ちがわからなくもなかった。
「あなたがここに来たがった目的はわかったわ。じゃあさ、ここにはあなた一人で来ればよかったじゃない。どうして私も一緒に行かないといけないの?私が来た意味ないじゃない。」
真琴が言うと彼は満面の笑みで言った。
「僕は君と来たかったんだ。」
真琴は頭の中が打ち抜かれたように真っ白になってかたまった。彼を見つめたまま、数秒後、真琴はようやく思考回路がゆっくりと動き出した。彼は今何て言ったの?真琴と来たかった・・・?それはどういう意味だろう、意味深発言に真琴の心中は混乱の真っ只中だった。
「何故か一人では来たくなかったんだ。それで誰かを誘おうって考えた時、一番最初に浮かんだのが君だったんだ。君と一緒ならいい絵が描けそうな気がなんとなくしてね、これは僕の直感だけど。」
返す言葉もなく真琴は押し黙って彼を見つめていた。
彼が言ったことはどういう意味なんだろうか、こういうところに一人で来るのがいくら絵のためとはいえ気が引けたために誰でもいいという事で、真琴を誘ったのか、いや彼の性格からしてそんなことを気にするとは思えない・・・人の目なんか気にせず単独でわが道を行きそうである・・・じゃあ・・・ということは・・・もしかして・・・まさかね・・ありえないよ・・。
「君も気分転換がてら、気楽な感じで付き合ってくれるだけでいいからさ。駄目かな?もちろん何か食べ物奢るし、入場料から乗り物代まで僕が全部出すからさ。」
お願い、と彼は両手を合わせて懇願するように言った。
「・・仕方ないわね、わかったわ、付き合ってあげるわよ。ただしこれはデートじゃないですからね。そこのところは勘違いしないように!」
真琴は眉根を寄せて顔を少し赤らめ、腰に手を当ててつんとして言った。顔を輝かせて彼は真琴の腕を取りぶんぶん振ってありがとうとお礼を惜しみもなく何度も言った。