第7話 外道狩り⑦

文字数 2,772文字

「うっはぁッ」
 超能力(チカラ)の制御が利かないというよりは、アクセルを踏み過ぎたと云う方が正しい。要は現場(ハコ)の容量を考えないでやり過ぎたって訳だ。思った以上に稲妻が走ったのは、もしかしたらメガネザル野郎の並外れた力に気負ったところがあったからかもしれない。ともかく俺が発揮した必要以上の高出力な稲妻(サンダー)によって、(デーモン)を中心とした半径5メートル程には今、もうもうとした煙幕が発生していた。白い煙が其処彼処(そこかしこ)から立ち昇っている所為で、まだ奴の生存確認は出来ていない。
 俺自身も稲妻(サンダー)の爆風で廃工場の外壁まで吹き飛ばされていた。壁に身体を預けへたり込んだまま、煙の中の動向を観察する。本当ならばすぐにでも起き上がって戦闘態勢をとるべきなんだろうが、おそらく其の必要は無いだろうと俺は考えていた。
 廃工場屋内、中心部付近に立ち込めた煙が晴れていくにつれて、落雷の現場が徐々に姿を現した。放置されていた作業台や資材等は飴のように(いびつ)に形を変え横たわっていた。そして、其の中に紛れ込むように大きな獣の身体が横たわっているのが見えた。果たしてデーモンは既に絶命していた。
「… …ふぅー。」
 肩の力が抜けて俺は大きく息を吐いた。眼を落すと両腕とも洩れなく真っ赤に腫れていた。
 其れから、俺はカーゴパンツのポケットから煙草を取り出し火をつけた。細い煙が筋を作るのをぼうっと眺めていると、向こうの鉄扉が開く音が聞こえた。絶マキコだった。
「竹田ー。」
 錆びて開閉しにくい扉を力まかせに開けるものだから、辺りには鈍い金属音が大きく響いた。その所為で静寂に(かす)かに鳴っていた虫の音は(たちま)ちかき消されてしまう。
「おー、こっちだ。」
 マキコが屋内に足を踏み入れてから顔を上げて此方を向いた。
 眼を細めるように俺の姿を確認すると突然走り始めるが、すぐに地面の廃材に足を取られてしまう。うわッと云いながら二三歩踏み出し、其の儘の勢いで宙に浮いて此方に飛んできた。
「…大丈夫?!」
 壁に(もた)れかかっている俺を見て大怪我を負ったと思ったようだ。俺は煙草を持った右手を持ち上げ手を振ってみせた。すぐ傍らまで近づいてきたマキコは、俺の其の姿に安心した、というよりは何か呆れたような顔をして宙で胡坐(あぐら)を掻いて腕を組んだ。
「なんだ、元気じゃん。」
「元気で悪いかよ。てか、一応怪我してるし。」
 上げていた右腕の火傷を見せながら答える。マキコは其れを見て両肩を上げて返事した後、落雷で黒焦げになった現場に眼を移した。
「…… ……これ、あんたがやったの?」
「へ?… …あぁ。まぁな。ちょっとやり過ぎたってのが正直なところだが… …。」
 超能力(チカラ)というのは運動神経と同じで、野球のようにボールを投げたり高跳びでポールを飛び越えるような、云わば感覚が重要だ。調子が良い時は地面に立てた針にも命中させられるし、逆に不調であれば明後日の方向に飛んでしまう事だってある。感覚とメンタルにとても左右されるのだ。其れに超能力(チカラ)の出力が大きければ、其れに比例して繊細な制御が必要だ。そういう意味で、今日は俺にとってイマイチだった。まぁ、久しぶりの能力日だった事で思いっきり発散してしまい、コントロールは二の次になってしまったってのが本当のところだ。全くもって浮かれていた事は否めないが、改めてマキコにまじまじと現場の有様を見られると今更ながらばつが悪い。
「… ……… ……。」
「仕方ねーだろ。こちとら、一週間に一度しか能力が使えねーんだから。お前等みたいに精妙にコントロールするってワケには行かねぇんだよ。」
「… …… ……ふーん。…… ……まぁ、先刻(さっき)あんたが云ってた事も(あなが)ち嘘ってワケでは無いみたいね。」
先刻(さっき)云ってた事?」
「まぁ、良いわ。そうそう。依頼者は外に逃がしてあるから大丈夫よ。眼の方は医者に見せないと何とも云えないけどね。… ……それで、やっと見つけた

だけど。此の有様だと、折角の手がかりも塵になって消えてそうね。」
「…あぁ、そうだな。悪い、其処までは流石に手が回らなかった。」
 奴が持っていたガラスの小瓶。中に入った液体を飲む直前、奴は『ヴァレリィ様』と口にした。此の男とヴァレリィがどういう関係かは知らないが、それよりも重要なのはヴァレリィに関する情報だ。ヴァレリィは何故か一週間の能力者を探しているようだった。奴は芥次郎と謀略し、俺に絶姉妹を差し向けた。つまり、奴の狙いは俺の命だったのだ。同時に其れは、一週間の能力者の命を狙っている事を意味する。
 芥次郎との一件から1か月が経過していた。其の闘いで深手を負った俺は暫く自宅療養していたが、何時までも寝ている訳にはいかない。俺は療養しつつ直ぐに水使い(ウォーターマン)のW.W.トミーと金曜日の月(フライディムーン)金月新(かねつきあらた)に連絡をとった。トミーには連絡がつき、俺は今回の件のあらましを伝えた(正確にはトミーの助手である小林君に通訳してもらった)。ヴァレリィという男の名は聞いた事が無い事、トミー達の元にはまだそのような輩からの襲撃は無い事を確認した。俺は何か分かれば連絡が欲しい事と、また身体が動くようになってから直接面会したい旨を伝えた。
 金月とはまだ連絡がついていない。まぁそもそも携帯を持たない奴であり更には放浪癖があるときてるから、簡単に連絡が付くような奴では無いのだが、奴の行きつけの飲み屋には言付けを頼み至急で俺に連絡をくれるように伝えてある。
 二週間程静養して回復した俺は、絶姉妹と共に動き始めていた。つい先週末の事だ。殆どヴァレリィについての情報が無い中無策とも思える行動だったが、俺は居てもたっても居られなかった。此の儘何もせず命を狙われるが(まま)なんて俺はごめんだ。何とか此方からもアクションを起こし、出来る限りの情報を集める。生き残る為には此方も情報を集め対策を練る必要があった。其処で俺はまず近隣に居る外道共から当たる事にしたのだ。
 芥次郎は赤龍会の立て直しの為、外道を大量に雇った。そいつらは漏れなく能力者だった。芥は外道共を雇い入れるに辺り限界増強薬物(ブースト)を餌にした結果、必然的に芥の元には能力外道(サイコパス)が集まったのである。
 また芥次郎が云うには、芥はヴァレリィに『デモン因子』を貰ったという。芥は其れによって異形の姿と強大な力を手に入れていた。仮に『デモン因子』が限界増強薬物(ブースト)のようなシロモノで、ヴァレリィが芥だけでなく外道のような輩にもバラまいていたならば。だとすれば、外道を洗えばヴァレリィへのきっかけがつかめるかもしれない。我ながら安直な道筋なのは十分理解していたが、其れしか縋るものがなかったのも事実だった。だが、ともあれ此の短期間でヴァレリィへの繋がりを見つける事が出来たのはツイていた。後は物的な情報が手に入れば良いのだが、現場を見れば分かる通りそうは問屋が卸さないらしい。



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