第9話 学徒と水使い#1
文字数 2,832文字
平日の夕方俺の前に現れた小林君は中学生らしい言葉遣いで、学生帽を浮かせて丁寧に挨拶をした。
「こんにちわ。お久しぶりです。」
「おう。元気そうで良かったよ。」
昨日、というか正確には今日の夜中だが、依頼人の女を病院に送り届けてから直ぐにW.W.トミーに連絡を取った。トミーはまず丑三つ時に電話を掛ける俺の非礼さについて大層抗議したが、其れは最早、毎度の如くの儀礼的なものだった。五分ほどの説教の後、トミーは俺に要件を促した。俺はつい先ほど
俺が最初に芥次郎の件を共有して以来、トミーの方でも色々と探りを入れていたようだ。そういうワケで、今日は其の情報交換も兼ねて会う事にしたのである。
クライン76は図らずも
「此の辺地理に暗いもので、ちょっと迷っちゃいまっした。外で待って貰って、すみません」
「イヤ、俺も今来た所だし、全然待ってないよ。てか、トミーさんは?」
「先生はまだ学校が終わってないみたいです。明日の授業の準備等で忙しいみたいで。終わり次第直ぐに行くと云ってました。」
「トミーさんも一応、
「
「そっか。助かるよ。… …とりあえず、お腹空いたろ?話は飯食ってからにしようぜ。」
「はい!」
俺は小林君を連れ立って純喫茶の扉を開けた。比較的空いている店内を、
「うほー、美味しそうなモンばっかだなァ。何にしようかな。ア、此処は俺のオゴリだからさ、遠慮なく何でも頼みな。」
「有難うございます!」
両手で受け取りながら、小林君が快活な返事をする。其れから小林君も料理決めに専念しようとした時、
「竹田ァァアアア… …」
何処からともなく、地獄の底から
「な、何でしょうか、今の声… …」
「小林君、無視するんだ。其の
俺は
「チョコレイトパフェエええええええ… …。… …イチゴパフェェエエエエ」
「… ……竹田さん、なんか、其処」
小林君が俺の隣のトートバッグを指さして云った。… …クソ。
一つはピカソのゲルニカの絵を思わせる芸術的な顔を有する木像。もう一つはぽっかりと開いた目口を持つハニワのような木像。こいつ等は絶マキコと絶ヨウコ。俺の式神である此の二人は、普段は依り代として此の奇妙な木像に身を重ねている。式神の身体については良く知らないが、其の方がラクらしい。傍から見ればもっとマシな依り代が色々あると思うのだが、本人たちは此の木像に満足しているようだった。
「ひっ!た、た、た、竹田、さん!ば、ばけ、化け物ッ!其処、化け物いますッ」
「あ、いや、小林君。こいつ等は大丈夫だから。」
「…ううぅううう… …」
小林君が自分のリュックに手を突っ込み、何かを取り出そうとしている。不可ない、平静を失い何やら武器を取り出しそうとしている。
「ちょっと待った!ストップだ、小林君ッ」
俺は何やら面倒な事になりそうな気がしたので、トートバッグに手を突っ込んで木像2体を鷲掴みして引っ張り出し、テーブルの真ん中に置いた。
「前に芥次郎の件の共有の時、ちらっと話には出したんだが、こいつ等は絶姉妹と云うんだ。色々と紆余曲折があって今俺と一緒に居る。此の芸術的な顔面の方が絶マキコ。んで、もう一つの間抜けなハニワ顔が絶ヨウコって云う。危害は無いから安心してくれ。」
「… ……絶姉妹… …そう云えば、聞いたような気がします… …」
小林君は突然の事態に面食らってしまったようだ。
芸術的な顔面を有する絶マキコが、テーブルの縁まで小林君に近づいていく。其の動きに合わせて小林君は思い切りソファに仰け反っていった。
「ひっ」
「…… …竹田。何よ、此のガキ。」
「此の子は
「… …ふーん。」
「… ……… …」
「竹田。」
「あん?」
マキコが此方を振り向いて木像の身体をふるふると動かす。
つるむ
ようになってから、こいつ等の云いたい事が何となく分かるようになってしまった。「… ……ったく。… …仲良くしろよ。」
「分かってるって」
俺は左手の指輪のついた中指を親指にこすりつける。
ドヒュウッ
腕を組んだスケバンと、スカートを軽く抑えた女学生がテーブルの真上、中空に現れた。ヨウコのおさげが小さく揺れた。マキコは直ぐ様小林君の席の隣に降りて行き、足を組んで座った。
「私、絶マキコってゆうんだ。よろしくな。てかあんた、見るからに中坊だよね。私の方が先輩なんだから、ちゃんと
そう云いながらマキコは小林君の頭をぽんぽんと叩く。其れから、小林君の反対側にはヨウコがちょこんと申し訳なさそうに座った。
「… …私は絶ヨウコと申します。…… ……マキコがご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございません。至らない点も多々あるかと思いますが、此れからよろしくお願いします。」
当の小林君はと云えば、マキコには大層怪訝な顔をして俯いているばかりだったが、ヨウコの挨拶に対しては其のニキビの浮かぶ頬を桜色に染めながら、此方こそ、よろしくお願いします!と元気に返事をした。其の返事が気に食わなかったマキコは眉間に小さく稲妻を走らせながら、小林君の頭を一発軽く