第30話 宝石商#4

文字数 3,325文字

「おいおい、宝石屋が武器を売ってるだって?」
「武器ではない。

便

じゃ。戦闘の役に立つモノ、と広義で(うた)って商売しておる」
 ケンザは弾丸を()まんだ手を此方に伸ばしてくる。受け取った電気石の弾丸(トルマリンバレット)は、弾頭の部分が黄色く透明に輝いていた。
「聞いたコトねーぜ。そんな奇怪(キッカイ)な商売する宝石屋はよ」
「マァ、やっとるのはワシくらいじゃろうな。只の阿呆じゃできん。ワシくらいの知識と才能(スキル)、其れから経験を持った人間じゃないとな」
 ケンザの話をソラに聞きながら、俺は試しに弾丸を装填しようと護身用のトカレフを取り出して弾倉(マガジン)を抜いた。其の動作を見ていたケンザが驚いたように云う。
「おい、雷電。オヌシ、其れTT-33(トカレフ)か?」
「あぁ、そうだぜ」
「コラ。そんな危ないモン、突然取り出すんじゃない。暴発したらどうする。其れに、電気石の弾丸(此の弾丸)は9mmじゃぞ」
 俺は電気石の弾丸(トルマリンバレット)の感触を確かめながら丁寧に弾倉(マガジン)へ弾を詰める。手作りで少し野暮ったい感じはあるものの特に使いづらさはない。
「此れはM213A(トカレフ213式拳銃)だよ。セイフティもあるし、弾は9mmだから問題無い」
「ふむ。ややこしい拳銃持っとるのう。性格がヒン曲がっておるのか?」
「あはは…、お愛想が過ぎるな。然し、恩に着るぜ。こんなスゲー弾丸、初めて見たよ」
「何、一向に構わん。売れ残って処分に困ってた品物(シロモン)じゃ。棚の奥で(ホコリ)被らせとくのも可哀そうなんでな。」
「… ……。… ………」
 俺は唐突に目を細めて真顔。
「くれてやった分が無くなったら、遠慮なく云うてくるが良い。身内特価で安く作ってやるから」
()()かよッ!」
「何を云うとる、人聞きの悪い。お前の事を思っての親心(おやごころ)ぞ。其処にほんの少し実益を兼ねただけ」
 云いながら、ケンザは何処までも涼しい顔だ。
「商人の鑑だよ、アンタ…」
 屹度、次回はボラれるんだろうなぁ、なんて暗澹たる気持ちになりながら、俺は木箱に並ぶ弾丸を眺める。
「兄貴ィ、何やッてるんだよう」
「そうよそうよ。」
 何時の間にか、俺とケンザのやりとりに気づいた奴等が俺の背中越しから覗き込んでいた。
「うわぁ。其れはもしかすると、弾丸ですか?美しい黄色をしていますね」
 木箱に並んでいる電気石の弾丸(トルマリンバレット)に気づいたヨウコが、大きく目を見開きながら楽しそうに云った。
「あぁ。宝石で作った弾丸だそうだ。此の宝石は電気を蓄える事ができるから、俺の電撃を弾丸に込める事ができるらしい。其れをケンザに譲ってもらった」
「それじゃ、あんた火曜以外でも電撃使えンじゃん」
 マキコが俺の身体を押しのけて、木箱の弾丸を摘んで眺め始めた。
「そうなんだよ。マジ助かる。つまりは此のジイさん、とんだ不良宝石屋だったってコトだぜ。」
 俺は片眉(かたまゆ)を上げてケンザに当てつけるように云った。ケンザは太々(ふてぶて)しい顔で吸い殻(シケモク)の呑んでいる。
「えーッ、いいないいなー。私も何か武器ほしいよ。ネェ、じいちゃん!他にも何か無いの?」
 マキコもヨウコも、すっかり光る石っころの(とりこ)になってしまったようだ。
「ほっほっほ。残念ながら、ワシは武器屋ではないんじゃよ。あくまで宝石商なんじゃ。宝石商が宝石を加工して、戦場で役に立つモンを売ってるだけなんじゃ。つまり、外国ではそういう需要があったからの。然し… …」
 こんなガラの悪い金髪スケバン女のお願いでもケンザには可愛い孫のように映るようで、何か無いかと後ろの倉庫棚をごそごそと漁ってみる。だが、此れといったモノは見つからないらしい。
「今は大したモンはないのう。日本に帰ってくるまでに外国(ソト)で粗方売っちまったんじゃよ。やっぱり奴等は国上げて隣国と喧嘩しとるから、作った端から売れよるんじゃ。」
「えーーー、そんなぁ」
 マキコが心底、落胆した声を上げる。
 其の肩を落として残念がるマキコの様子を見て、ケンザは話を続けた。
「そんなに残念がるでない、お嬢ちゃんよ。宝石という物はの、其の輝きの中に様々なエネルギーを秘めておるんじゃよ。つまり、お守りのようにずっと身につけておけば、アンタの潜在能力、つまり超能力(チカラ)をも存分に引き出してくれるはずじゃ。じゃからの。此処にある陳列棚(ショーケース)の中から、自分が気に入った宝石を一つ選んでごらん。其れを嬢ちゃんにやろう。」
 ケンザの話を聞いて、俯いていたマキコの顔がひまわりのように笑顔になる。
「いいのッ?!」
 其の屈託の無い笑顔にケンザも大きく頷いて返す。
「あぁ、良いとも。ささ、皆も自分の好きな石を選んで良いぞ。ケンザからのプレゼントじゃ」
 ケンザの言葉を号令とでも云うように、絶姉妹は飛ぶように陳列棚(ショーケース)に散った。ケンザの話をトミーさんに伝えていた小林君も、二人に続けとばかりに宝石を選び始める。残ったのは今日介とトミーさんだった。
「俺は、宝石とかあんま分かンねーよ」
 今日介はお手上げだと云うように、トミーさんと目を合わした。其れにはトミーさんも同意の表情。
「あー。マァ、そうだよなぁ。俺だって、弾丸だから、有難く受け取る事が出来たけどさ。好きな宝石を選べとなると、そんなの俺でも難儀しちまうよ」
 俺は今日介の気持ちが分かるような気がした。そういう所謂、すぴりちゅある、という気分は一ミリも持ち合わせていない。因みに、でりかしい、って奴も。それらは屹度、俺たちにとっては宇宙の果てよりも縁遠いモノらしい。
 残ったむさ苦しい男連中を見て、ケンザは溜息混じりの声をあげた。
「あぁ、あぁ。ホントにお前等は、情けのない男たちじゃのう。宝石の一つも選ぶことが出来ないなんて、そんなんじゃ、女一人も扱う事ができんぞ」
 頭をガリガリと()きながらケンザは困っている。
「アー、分かった。マッタク。仕方のない奴等じゃ。オヌシ等二人の石は、ワシが見繕ってやろう。… …其れで、其方の米国(アメリカ)の方の超能力(チカラ)は、なんなんじゃ?」
 トミーの能力の概要を今日介から聞くとケンザは直ぐに立ち上がり、眼の前の陳列棚(ショーケース)を眺め始めた。が、物の一分もしない内に戻ってきた。
 どっしりと椅子に体重を預けると、ケンザはテーブルに二つの宝石を置いた。ケンザが今日介とトミーさんを呼んで、テーブルの前に立たせる。狭いので俺は二人に場所を譲った。
「それじゃ、まず先に、其方の米国(アメリカ)の方。アンタには、藍玉(アクアマリン)のネックレスじゃ。」
 小さな海の(しずく)のような宝石が、深い青の輝きを乱反射させている。主張の激しくない、トミーさんにも良く似合いそうな男物のネックレスだった。
「昔から此の石は、荒波を落ち着かせるという言い伝えがあり、船乗り達の拠り所だったそうじゃ。多くの人々に安心を与える。此の石が象徴するのは、聡明、沈着じゃ。あんたの水の超能力(チカラ)にぴったりの石じゃろう」
 ケンザは石の説明をしながら、トミーさんに藍玉(アクアマリン)のネックレスを渡した。が、日本語の分からないトミーさんは、ケンザの説明を何一つ理解していない。ケンザは最終的に「ベリーグッドじゃッ」と云ってトミーさんの胸をぽんと叩くと、其の言葉を受け止めたトミーさんは、笑顔でサンキュウと礼を云った。
 トミーさんがネックレスを首につけるのを横目に、ケンザがもう一つの方の石を今日介へ渡す。
「んで、じゃ。此れが今日介、お前の指輪じゃ」
 手渡されたのは、濃い茶色と黄金色の縞模様のような色が印象的な石。其の小ぶりな石が、幾何学的な銀フレームに納まっている。
「おお、良いじゃん」
 受け取った今日介は、指輪のデザインがとても気に入ったようで、さっそく右手人差し指に通して眺めている。
「此れは虎目石(タイガーアイ)という石じゃ。屹度、お前の性質に良く似合っとるじゃろうの。其の性質は、知識、洞察力、其れから透察力(とうさつりょく)。お前は能書きだけは一人前なんじゃから、此れからも其れを活かして行け。」
 滾々(こんこん)とケンザが話をするも、今日介はハイハイ、と此方も上の空。空返事(カラヘンジ)にケンザの説明を()(ちゃ)って、兎に角()めた指輪に夢中だ。興味が無いと云っていた人間を、此処まで夢中にさせてしまう宝石というモノを目の当たりにして、俺はなんだか恐ろしくなってしまう。
 だが、当のケンザと云えば、そんな今日介の適当さ加減は何時も通りとのご様子。特に(とが)めるでもなく、夢中で指輪に心を奪われている今日介を、何処か嬉しそうに眺めていた。
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登場人物紹介

■竹田雷電(たけだ らいでん)

■31歳

■一週間の能力者の一人

■火曜日に電撃の能力を発揮する。二つ名は火曜日の稲妻(チューズデイサンダー)

■繋ぎ止める者(グラスパー)として絶姉妹を使役する。

■武器①:M213A(トカレフ213式拳銃)通常の9mm弾丸と電気石の弾丸を併用

■武器②:赤龍短刀(せきりゅうたんとう)

■絶マキコ(ぜつ まきこ)

■17歳

■炎の能力を持つ。二つ名はブチ切れ屋(ファイヤスターター)

■絶夫婦の娘(養子)であり、絶姉妹のうち姉。

■雷電と死闘を繰り広げた後、死亡。現在は式神として雷電に取り憑いている。

■武器:小苦無(しょうくない)

■絶ヨウコ(ぜつ ようこ)

■17歳

■氷の能力を持つ。潜在的には炎も操る事ができる。

■絶夫婦の娘(養子)であり、絶姉妹のうち妹。

■雷電と死闘を繰り広げた後、死亡。現在は式神として雷電に取り憑いている。

■武器:野太刀一刀雨垂れ(のだちいっとうあまだれ)

■真崎今日介(まさき きょうすけ)

■21歳

■死霊使い(ネクロマンサー)の能力を持つ。五体の悪霊を引き連れる。

■奥の手:影法師(ドッペルゲンガー)

■武器:鉤爪(バグナク)

■W.W.トミー(だぶる だぶる とみー)

■一週間の能力者の一人

■水曜日に水の能力を発揮する。二つ名は水使い(ウォーターマン)

■中学校の英語教師をしている。

■日本語が喋れない。

■武器:無し

■小林マサル(こばやし まさる)

■14歳

■トミーさんの助手。通訳や野戦医療に長けている。

■阿川建砂(あがわ けんざ)

■90歳 ※昭和26年時24歳

■宝石商として全世界を旅する。

■宝石を加工し、能力を向上させる品物を作る技術を持つ。

■山田(まうんてん でん)

■21歳

■死霊使い(ネクロマンサー)の能力を持つ。4体の悪霊を引き連れる。

■雷電を繋ぎ止める者(グラスパー)に設定し、絶姉妹を取り憑かせた。


■竹田三四郎(たけだ さんしろう)

■90歳 ※昭和26年時24歳

■雷電の祖父

■研究者として、かつて国立脳科学技術研究所に所属していた。

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■水川真葛(みずかわ まくず)

■※昭和26年時26歳

■国立脳科学技術研究所所属

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■序開初子(じょびら はつこ)

■※昭和26年時23歳

■国立脳科学技術研究所所属

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■夫を戦争で亡くす。子供が一人いる。

■不坐伊比亜(ふざ いびあ)

■※昭和26年時24歳

■国立脳科学技術研究所所属。所長の用心棒

■研究所設立以来の類まれなる念動力(サイコキネシス)を持つ。

その他

■一週間の能力者…一週間に一度しか能力を使えない超能力者の事。其の威力は絶大。

■獣の刻印(マークス)…人を化け物(デーモン)化させる謎のクスリ。クライン76で流通。

■限界増強薬物(ブースト)…快感と能力向上が期待できるクスリ。依存性有。一般流通している。

■体質…生み出す力、発現体質(エモーショナル)と導き出す力、端緒体質(トリガー)の二種。

■繋ぎ止める者(グラスパー)…死霊使いによって設定された、式神を使役する能力を持つ者。


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