第29話 宝石商#3
文字数 2,808文字
来た道を戻って路地を抜けると、右側にクライン76が入居している雑居ビルの正面玄関が見えた。上階へは正面玄関から入る必要がある。ケンザは慣れた足取りで玄関を
「中々、好い所で商売しているようだな」
階段の中腹に居るケンザの後ろ姿に声を掛けると、ケンザがゆっくりと此方を向いて口角を上げた。
「じゃろう。管理が
奇声が聞こえてくる、と聞いて、学生グループ、つまりマキコとヨウコは手を繋いでガタガタと震えながら身体を小さくしていたし、小林君はと云えば立ちながら目を回していた。小林君が倒れないように、トミーさんが後ろから肩に手を掛け支えている。
「俺もジジイの店に入るの、初めてなんだよね」
今日介が俺の隣で云う。何処か嬉しそうだ。
「ケンザと仲良さそうなのにな」
「まぁ、仲は悪くないケドね。だけど、他所の
腕を組んで思い出すように云う今日介だが、階段を登りきった2階からでもケンザの地獄耳は聞き逃さなかった。
「だーれが
まさか聞こえていたとは思わなかった今日介が、思わず頭をへこませて両手で口を
「馬鹿なコトばかり云わんと、
階段を登り切った俺と今日介の姿を見て、ケンザが云う。
ケンザは廊下の壁に並んでいる扉の内、一番手前の扉のドアノブに手を掛けてぐいと押すと、部屋の中へと消えていった。俺と今日介も其の後を追って部屋に入る。
「… …へぇー。此奴はすげぇな。」
狭い入口を抜けると、窮屈な一室が広がっていた。恐らく、絶姉妹とトミーさん達が入れば満員だろう。そんな部屋の四方の壁沿いは全て宝石の
「ねぇねぇ!じいちゃん!此処に並んでるのって、全部お高いの?」
「ほほ。粒がデカい奴は其れなりの値段もするがのう。じゃがお前さん等の稼ぎなら、どれも買えんことも無かろう」
「えー。ウソォ。どうしようかなぁ」
マキコは本気で買いかねないようなキラキラした目をして、また宝石に目を戻す。
ケンザは部屋のヘコんだような一角、つまり此の店の中での自身の定位置に腰を
宝石という物に興味がない俺でも、是程沢山の美しい宝石に囲まれると、
「どうじゃ?宝石も中々良かろう」
「… ……あぁ。綺麗なモンだな」
俺は率直な感想を云った。
「ふふ。気に入ったか。…… … ……それじゃあ、オヌシに土産をやる」
「え?」
俺は思わずケンザの顔を見た。ケンザは立てた人差し指を動かし此方に来いと云う。俺は云われるが儘にケンザに近寄った。マキコ達はまだ
ケンザの傍らに立つと、ケンザは大きめのサイドテーブルに手を置き、指先をコツコツとテーブル表面に当てる。
「雷電。お前の
「あぁ、そうだ。」
「幾ら
「… ……。 … ……まぁ、そういうのは、もう慣れたさ。生まれてこの方、ずっとそうやってきたんだから」
「…… ………。…… …… ……」
ケンザは俺の顔を見ながら暫くの間、無言だった。そして、次の瞬間、俺の左手を掴んで云った。
「…… ……。… …… … ……よくぞ、今まで… ……… …生きておった ……」
眼を瞑って、ケンザは少し
「…… ……。… …… ……大げさだなぁ。マァ、色々とやりくりしながら、なんとかやってるよ」
そうか、と云って顔を上げたケンザの目は心なしか充血しているようだった。
「…… ……。しおらしいのなんか、ケンザらしくないぜ。アンタはもっと、派手なスーツで人一倍、
「…… …覚えておったんか」
「
ケンザが俺の軽口にふっと笑みを浮かべると、脇の棚から木箱を取り出した。
「…… ……宝石、ってひとくちに云ってもな、元々は只の石っころなんじゃよ。じゃから、昔の人々は、其の石っころから色んなモンを作っていたんじゃ。時にはお守りにしたり、時には大病の薬として、粉末にして飲んだりもしたんじゃ」
「…… …」
ケンザは木箱をテーブルの上に置き、大事そうに手を乗せる。
「そしてまた、硬度の高い石等はな、弾丸としても重宝したんじゃ」
「… … ……弾丸?」
ケンザは木箱の全面にある
中には、黄色に輝く弾丸が、木箱の中に
「… …此れは… …」
「こいつは、
ケンザが俺の方に木箱を寄せる。
「お前に此れをやろう。電撃を此の弾丸に詰めときゃ、何時でも鉄砲で電撃を撃てる」
「… …な、なんで、こんなモンがあるんだよ?」
俺は予想外の代物に圧倒されていた。確かに、此れがあれば、今までとは比べ物にならないほど戦いの質は上がる。
「宝石商はな、宝石を売るだけが商売ではないんじゃよ。オヌシみたいな戦士に、こういう便利なモンを売ったりもしとる」
ケンザは木箱から