第3話 外道狩り#3
文字数 4,002文字
「それじゃ、邪魔したな」
警戒している僕の肩をぽんと軽く叩きながらそう云うと、男は振り向きもせず
奴等が
其処には相変わらず絶望に打ちひしがれた女の姿があった。今しがた現れた連中も、自らを救う者では無いという事を既に悟っていたのか、女は涙で頬を濡らしながらも一切声を上げる事は無かった。
「… …さて、
僕は女の方に歩いて行き、目の前にしゃがみ込んだ。其れから手の甲に優しく口づけをする。
「僕は… …本当にどうかしてたよ。… …ゆっくりと壊さないと、意味が無いのに。」
薄い笑顔を保ちながら、僕は女に丁寧に話しかけた。其れでは此処からまた、気を取り直して楽しむ事としよう。
「… …… …… ……待って下さい、竹田さん。」
その時、僕の全身は金縛りにあったかのような衝撃を受けた。女の顔面を見ながら僕は身体が硬直していた。其れを他所に女は震えながら目だけを声のする方へ動かしていく。
「… ………… ……… …え?… ……」
自分の口から他人のような間の抜けた声が出た。
遅れて僕も振り返りながらゆっくりと顔を上げていくと、其処には先ほど見た時と
「どうしたー、ヨウコ。何かあったか?」
其の声に僕はすぐさま扉の方へ顔を向けた。鉄扉を開けて外に出ようとしていた男が、ヨウコと呼ばれたおさげ少女の声に反応して、此方に戻ろうとしていた。
「… … ……此の方、何か隠してますね。」
「… …… …! ……… ……」
そう放たれた予想外の言葉に、今度は瞬間的におさげ少女の方を振り向いてしまう。悲しいかな、其の機敏な動きは我ながら
「此のお兄さんが隠してるって? ……何を?」
「…… …… …先ほど竹田さんが質問した時から、私はずっと観察していました。此の方は、竹田さんがヴァレリィの話題を出した時を境に、瞬きをする回数が極端に増えました。眼鏡の所為で一見分かりづらいのですが、間違いありません。それに、両手をポケットにすっぽりと隠していました。此の、無防備な手をポケットに隠すとい行為は、心理学的には不安を表しています。つまり、此の方は竹田さんの質問に対して、何かしら思い当たる節があるという事です。」
おさげの眼鏡少女は僕が黙っているのを良い事に、訳の分からない事を
「…… … ……なッ!… ……な、お前、何を云ッている!… …オイ、お前!突然、言いがかりのような事をべらべら喋るなッ!」
おさげ少女の言葉に動揺を感じた僕は、何とか取り繕うように抗議の声を上げた。だが、その後からすぐに男が興味の言葉を投げかけてくる。
「ほー、成る程ね。なんだか、様子が可笑しいと… ……… …。其れで、他には何か分かったか?」
男は僕の方を見ながら、おさげ少女を促した。
「はい。其れから、ポケットの中で何かを数回、掴んだようです。確かめるように、大事そうな印象がありました。私が思うに、何かお守りのような物でしょうか。彼の心を安定させる物かもしれません。」
「…!… ………」
「…… ………そっか。…… …… …ヨウコがそう云うんなら、仕方が無いか。ごめんね、お兄さん。
そう云いながら男は僕の目の前まで来て、手を合わし頭を下げた。だが、其の俯きがちな顔とサングラスの間から覗く抜け目の無い眼光は、明らかに僕の内面に焦点を当てていた。そして其れは、僕がもっとも嫌いな
クッソ、何故今日はこんなにも面倒な奴等に巻き込まれるのだ。僕はいつも通り抜かり無い計画を立てた上で、人知れず余暇を楽しもうとしていただけなのに。日頃の重圧から解き放たれる瞬間。僕の大切な時間。誰にも迷惑を掛ける事無く、静かな所で密かに餌と戯れる。僕は是程までに細心の注意を払って世間と折り合いをつけて生きているのに。… ……なのに、そんな人間のささやかな幸せを壊すのは何時でも、節操の無い、こんな大馬鹿野郎共だ。
「ね、お兄さん。何も、俺は無理強いなんてしないよ。只もしかすると、ヴァレリィって言葉について、何か色々と思い出すかもしれないじゃん?ホラ、人って忘れッぽい生き物だし… …」
そう云いながら男は僕の肩に手を伸ばした。そして其の指先がスーツの表面にほんの少し触れた時、僕の全身を今まで感じた事の無いような怒りが駆け巡った。
「… …貴様ッ!!!… …僕に、僕に触れるなッ!!」
僕は咄嗟に男の手を払い、男たちから距離を取るべく飛び退いた。身体中が高熱を帯びるように熱い。此の理不尽な連中の、馴れ馴れしい
僕は眼鏡を外して其の手を降ろし、ゆっくりと指先を解いた。眼鏡は短い高度を自然落下し、地面に辿り着く頃、硬質な音を小さく響かせる。此の眼鏡は伊達だ。眼鏡が無いと、周囲に眼光が酷く目立ってしまう。
「おいおい、待ってくれ。俺たちは何も、あんたと戦おうなんてつもりは… ……」
「… ……ジヤッ!!」
僕は
「……うおッ!」
「… ……キャッ! …」
「…… …ん ……」
連中三人共、僕の顔をしっかりと見ていた為、光をまともに食らっていた。直撃だ。チョロすぎる。僕は素早くズボンの腰に携帯していたサバイバルナイフを取り出し、右手の中で軽く回転させた。其れから僕は眼を抑えて
「… ……おらよッ」
僕は金髪ボブの元へ近づき、頸動脈に逆手でサバイバルナイフを突き立て一気に振り下ろした。
その時、ガチン、と云う音と共に、僕は態勢を崩して其の場に突っ伏してしまった。突き立てたナイフが何か固い物質にぶつかり、弾かれたのである。
「… …ってェ。」
コケてしこたま打った右肩を庇いながら見上げてみると、男が金髪ボブの前に立ちはだかり短刀を握りしめていた。どうやら、あの武器で僕のサバイバルナイフを防いだようだった。
「… …ううん… …」
「… …大丈夫?… マキコ」
「…… うん、なんとか。」
男の後ろで、金髪ボブが眩しそうに薄目を開けようとしていた。おさげ少女の方は、まだ回復に時間が掛かるようで、眉間に皺を寄せて目を瞑っている。
「…… …あッぶねェ… …。電球野郎かよ、こいつッ」
男はサングラスをしていた為、ある程度光を
僕は愉快な思いつきをしたので、獲物の女の所まで走って行った。其れから女の髪の毛を掴み、無理やり僕に顔を向けさせる。
「おいッ!!僕を見ろッ」
僕は大声で女に指示をした。眼が徐々に回復してきた連中も、僕の声で此方に目を向ける。
「ひひひ。… ……ジヤッ!!」
「お前等、見るなよッ」
女の顔面の直ぐ前で、僕は先ほどよりも念入りに眼玉を発光させた。連中は此方に背を向け光を遮断したようだった。
「ぎゃあッ!!」
女の短い絶叫が聞こえたかと思うと、女は其の場に横たわり両目を抑えて倒れ込んだ。
「アッハッハッハ!!どうだい、お前等。僕の能力は眼玉を破壊する事ができるんだぞ。失明したら致命的だよなぁ。何せ、一生暗闇の中で生きて行かなければならないんだからナァ。」
おそらく今ので女の眼玉は焼き切れただろう。僕の
「……んン、の