第36話 リバーサイド、アンダーザブリッジ#2
文字数 3,523文字
「… …ばっ、… …バケモン!?」
私は思わず声が漏れてしまう。屑な上になんて失礼な野郎なんだ。私のことを化け物呼ばわりした仲間の一人が此方を警戒しつつ、集団の中央に立っているシンヤという男に声を掛けた。どうやら此の男が集団のリーダーらしい。こいつは最初に中坊の胸倉を掴んで大声で威圧していたヤツだ。頭頂部の伸ばした髪の毛を結び、横は
「… ……。半透明の身体と、其の拳の炎… …。キサマ、一体
淡々と低い声で刈り上げ男が云う。
「…へぇー。クズのクセに、会話する脳みそくらいは持ち合わせてるんだね。」
私は口角を上げながら
「ッざけてンじゃねーぞォ、此の
其の儘、クズ野郎が身体を命一杯
「…… …… ……」
男共が息を呑むのが分かった。此れで二人失神。後はリーダーの刈り上げ含め残り三人だ。
「… …まだやる?」
私は刈り上げ男に向かって問いかける。此の手の連中は力の差さえ見せてしまえば、尻尾を巻いて逃げていくのがお決まりだ。だがそう期待したのとは裏腹に、刈り上げ男は依然として何かしらを思案している。
「… …… ………」
「… ……。…ねぇ。アンタ、
「…… … …。あんたが
鋭く警戒を続けていた刈り上げ男が、手の平を返したかのような態度でゆっくりと饒舌に語り始める。此の中学生と知り合いだって?一体何なんだ。こんな分かりやすい見え見えの法螺を吹くなんて。
「……は?馬鹿か、おめーは。なんでアンタ等みたいな屑野郎が、こんな
アタシは此の刈り上げ男の舐めた態度に心底イラついていた。此の屑共は其処までして自身の欲望を満たしたいのか。燃えている拳に力を込めると、真っ赤な炎が
「… …!…… …ま、マァ、待てよ。マジなンだって。此奴は俺ンとこで飼ってるガキなワケ」
「まだ云うかッ!」
アタシの声に男がビクリと身体を震わせ、両手を上げて降参のポーズをした。
「ホ、ホントなんだって。… …コイツの腕、見てみろよ。デッカイ傷があるから。」
「傷?」
「あぁ。… …此のガキの
男の話を聞きながら、アタシは地面に
「…… …アンタの腕に、そんな傷あるの?」
「… …あ、… ……あ。あ、あるッ。ある、ケド!で、でも、僕はこんな男の人たち、知らないよ!会ったコトもないんだ!」
「…… …… ……」
「てんめェ、カスイッ!此れ以上、手間かけさせるンじゃねぇッ!」
待て待て待て。話が良く分かンなくなってきた。何か、物凄く面倒な連中に関わったのか?刈り上げ男が中学生の名前を呼んでいる。此奴の名はカスイと云うのか?状況から見て、どうやら
「コイツ等、アンタの名前呼んでるケド」
「し、知らないッ。本当に、知らないんだ。」
中学生が必死で首を振って答える。
「… ……。… …私の質問に答えな。アンタの名は此奴等が云うように、カスイなのか?」
私の其の言葉を聞くと中学生はハッと驚いたような、最後の望みが絶たれたかのような驚愕の表情を浮かべた後、がっくりと顔を地面へ落として黙ってしまう。私が其の様子を凝っと観察していると、刈り上げ男が引き続き説明を続けてきた。
「… …へへ。マァ、そういうワケなんだ。コイツは、時折こうやって逃げ出しちまうコトがあってよ。俺たちも難儀してンだ。だから今後二度とそういう気が起こらないように、
教育
してるってワケさ」刈り上げ男が中学生の腕を取り強引に立たせながら云う。
「…… …… ……」
私は引き続き無言で中学生の表情を観察する。此の
其の私の無言を説明への理解と解釈した男は、私に怪訝な眼を向けつつも、中学生の肩を抱き撤退の準備する。気絶している二人の男を別の男共が起こし始めた。
「…… ……。… ……と。… …なので、それじゃあ、俺たちはそろそろ帰らせてもらうぜ。お騒がせしちまッたな」
私に申し訳程度のお愛想を云い、背を向けて歩き始める男共。肩を抱かれた中学生が、必死で此方に顔を向けようとするも、刈り上げ男に頭を鷲掴みにされ前を向いてしまう。其れから二三歩歩き始めるが。
「… …… ……。… …… ……待ちなよ。」
私の冷たく響く声に、男共がびくりと足を止めた。
「… … …。……まだ、なんかあンのかよ。」
「私はまだソイツから、ちゃんと返事を聞いてない」
「アァ!?」
刈り上げ男が流石にシビレを切らせたように、イラついた声を上げた。
「
本当に、知らないんだ
』って云ったね。一体どう云うこと?」「てめェには関係ねェだろうがよォ!!」
刈り上げ男の両脇の男共が一斉に声を荒げる。
「… …ねぇ、ちゃんと答えて。」
中学生の狼狽が手に取るように分かる。泳いだ眼が私の方に何度も向けられ、そして地面に落ちた。口元が開きなんらかの言葉を形作ろうとするが、其れは少しも音にならなかった。
「カスイ、おめェは今、ちょっと錯乱してンだよ。だから、余計なコト云わなくって良い」
「てめェは、
私の一喝に、口惜しく黙り込む刈り上げ男。眉間には深い皺が刻み込まれている。其の横で、中学生がゆっくりとか細い言葉を紡ぎ始めた。
「… ……。… ……ボ、… …ボク、実は記憶が無いんです。… …… …いつも現実と夢の間と云うか……。だから、僕が本当に、此の人たちが云うように『カスイ』という名前かどうかも… …。分からない… …… …。 … …… …… …分かりませんッ」
絞り出すような、意を決した言葉だった。
「黙れッ!!」
刈り上げ男のイラ立つ声と共に、容赦の無い張り手が中学生の顔に叩き込まれる。中学生の小さな身体が玩具のように吹き飛び地面へ転がった。
「…… …… ……」
「オラッ。とっとと行くぞッ」
刈り上げ男が
「…… …。… ……本人は分からないって云ってる。ってコトは、
カスイじゃない
可能性もあるってコトだね。」私の言葉を聞いて、中学生がハッと顔を上げ眼の前の虚空を見つめる。其れと同時に、刈り上げ男が物凄い形相で私の方を向いた。
「… ……てめェ… …」
私は其の