第22話 学徒と水使い#14
文字数 3,729文字
「… ………」
何らかの楽しみを見出したのか、真崎が細かくこっちに来たり、遠のいたりを繰り返している。ときおりこっちに来ると見せかけて、遠のいてみたりといったフェイントを掛けてみるも、依然としてヨウコは真崎の顔面を捉えて追いかけ続けている。其れはまるで真崎の姿に磁石で引っ付いているような顔の動きだった。
其のヨウコの姿を見て私がピンと来た連想といえば、つまり、ヨウコは昔から所謂
確かに真崎の顔をよく見れば、形は整っていて肌の色も女のように白い。眼の下に少しクマがあって決して健康的には見えないが、そういう病的ところももしかしたらヨウコの好みに合っているのかもしれなかった。
「あー、なんかダメだ… …」
私が眼を細めながら其の光景を眺めていると、横から竹田が面白がって私に話掛けてくる。
「おい、アレ。ヨウコ、どうしちゃったの?」
「…… …。すごい面倒くさい事になってる」
「マジか。…いいねー」
竹田も何となく察しているのか、くくくと笑った。何がいいね、だ。ヨウコがこんな脳みそからんころんな男に掴まって堪るか。あー、良く無い良く無い。私は
「ヨウコ!あんた、しっかりしなよ!」
「なによぉー」
「ダメよ、ヨウコ!こんな、軽薄の権化のような男を好きになっちゃあ!」
「…… …なんだか分かんないケド、其の云いよう酷くないっすか、マキコちゃん… …」
「
天敵の襲来に吠える肉食動物のように、私は真崎に嚙みついた。其の姿を見て、ヨウコが真顔で答える。
「好き?誰が、誰を好きになるの?」
「へ。」
「ん?」
「あ、… …え。いや、だから、あんたが真崎みたいな軽薄な奴を好きになったのかなぁって… …」
私はヨウコのきょとんとした顔を見ながら答える。
「なんで私がこんな軽薄そうな男の人を好きにならなければ
「え」
僕、何か悪い事しましたか…、と云いながら真崎が目の端で床に打ち崩れていった。
「いや、だってあんた。
「あぁ。其れはね、私、真崎さんの事知ってるような気がして」
「!」
「なんとか思い出そうと思って。真崎さん、機関に在籍していましたよね」
流石ヨウコ。私が全く覚えのない事もしっかりと覚えているようだ。真崎曰く、此奴は
「あー、そう。そうなんだ。此奴、実は機関出身者なの」
「へー、マジかよ」
竹田が横から合いの手を入れて、真崎の顔を見る。其の視線に返事をするかのように真崎が小さく頷いた。私たちにボロクソに云われたコトがまだ響いているようだった。
「… …あ、あぁ。機関で彼女等と同級生だったんだ。まぁ、一度も話したコトねーけど。彼女等は在籍中からよく
「私は実は、真崎さんの事知っていたんです。いつも窓際の席で寝てるなぁって思ってたんですケド」
「おお。恋の予感か?」
また竹田が嬉しそうな声を上げるが、ヨウコは軽くあしらうように答えた。
「いいえ、そう云うのとは違います。只、お顔の
「お、お顔の造詣… ……」
真崎がヨウコの言葉を聞いて、どう返答すれば良いのか分からないような表情をしていた。其れは私にしたってそうだ。
「じゃあ、あんたは真崎の顔に興味があっただけなの?」
「真崎さんの顔って、アニメに出てきそうな顔でしょ。私、良いなぁ、ああいう顔、私も描けたらなぁって思ってたの。其れで、真崎さん、もし今度、お時間が空いているのでしたら、
「で、でっさん… …?」
「ぼ、ぼ、ぼ。僕も其の時は、是非、ご一緒させて下さい」
困惑で返事に困っている真崎。其の後ろに何時の間にか居た小林が、突如として声を上げたので私たちは皆驚いた。鼻を膨らませて意気込む中学生。何だ、一体此の状況は。
「はぁー。まぁ、ヨウコ。其れはまた後日、真崎と相談して…」
「はい、勿論そのつもりです。」
「お、俺の意見は… …」
心底どうでも良い話題に頭が痛くなり掛けたところで、竹田が真崎に云う。
「今日介…って、呼んでいいよな」
「あぁ。かまわねーよ。」
「おめーは、ヴァレリィって狐面の男の事、知ってるのか?」
竹田が単刀直入に聞いた。其れはとてもシンプルに。
赤龍会事務所で一週間の能力者を狙った芥次郎とヴァレリィという狐面の男。芥次郎は竹田への私怨を持っていた為、其れをヴァレリィは利用したのだった。
芥次郎は竹田と
「あぁ。何回か会ったコトあるよ」
真崎は手に巻き付いていたヘアゴムを取って、髪を束ねながら答えた。
「マジか。奴はナニモンなんだ?」
やっと繋がった手がかりに、竹田も少し食いつくように真崎に問いかける。
「ナニモンか、って云われると、正直俺も分からねェ。俺は只クライン76の連中に
「かまわねェ。知ってるコト、教えてくれ」
「良いよ。狐は、多分偉いさんだと思う。んで、クライン76の連中は狐の下っ端だ。クライン76を仕切ってるのは藤巻ヨハンって仕様もないゴロツキだが、藤巻は狐からブツを受け取って売りさばいていた」
「ブツって、
「勿論、ソッチもあるけど、あそこで扱ってるのはちょっと違う」
「というと?」
竹田は分かってて聞いている。其れに
食ってた
ブツだ。「あー、えーっと。… …つまり、
「
「あぁ。」
「なんで今、云い
真崎の少しの
「… …だ、だって。アレ、あのブツ。普通じゃねーんだもん」
「デーモンになっちゃうんでしょ?」
私の言葉で、真崎がぎょっとした顔をして此方を向いた。
「… …知ってんのかよ。」
「まぁね。何回か戦ってるし。其処の竹田なんか、しょっちゅう
「ま、まじかよッ」
今後は竹田の方を向いて、真崎が小さく言葉を吐いた。
「好きで
私の適当な言葉に抗議するように竹田が云う。
「ちょ、ちょっと待てよ。アレはマジで普通の代物じゃないんだ。人間がバケモンになっちまうんだぜ?!あんた、あんなバケモンといっつも戦ってんの?」
「たまーにな。てか、
「ご、誤解だよ。あれは連中の仕業なんだって。… …な、なぁ、マキコ。竹田さんってマジ一体、何者?」
真崎は何をそんなに驚いているのか、眼の前に居る竹田を指さしながら私に聞いてきた。そういえば、まだ竹田の事教えてなかったっけ。
「あー。そういや、アンタに云ってなかったね。此奴もトミーさんとおんなじ一週間の能力者だよ」
「は、はぁ?あ、あんたも、
「
「
「ちゅ、ちゅ、チューズデイサンダー!?」