第48話 それぞれの断章#5

文字数 7,728文字

「… ……俺は正道高野(ショウドウコウヤ)の僧だ。俺たちは月に一度、此の研究所を視察している」
 阿川(アガワ)煙管煙草(キセルタバコ)を深く吸い、天井へ細い紫煙を立ち昇らせた。
「… ……まずそもそもだが、アンタの云う、其の、正道高野とは一体何なんだ?アンタは高野山の坊さんなんだろう?」
 医務室の白い壁に背中をつけて、腕を組みながら聞いていた水川(ミズカワ)が質問した。
「お前たちが認識している高野山と云うモノは、後から作られた、云わばハリボテだ。俺の云う正道高野とは、昔から()の地に住む者のコトを云う。そして、其の者たちこそが本物の高野山の僧侶なのだ。」
 それから阿川は正道高野の歴史的な成り立ちを掻い摘んで話した。現在、俺たちが知っている高野山と云う宗教都市は、弘法大師空海の政治的な思惑により後から作られた都市である。そもそも、此の地には正道高野と云う古来から住む人々が居り、彼等こそが本来の意味での高野山の僧侶だった。そして、其の僧侶たちは皆、強力な超能力(チカラ)を有しているのだそうだ。水川や序開(ジョビラ)、其れから勿論俺も、高野山の其のような実態は想像もし得ないモノだったので、阿川の話を興味深く聞いていた。正道高野の僧侶(かれら)が途轍も無い超能力(チカラ)を持っているという事実は、既に不坐と阿川の戦いを目の当たりにした俺にとっては、すんなりと受け入れるコトが出来たのである。
「… ……成る程。で、アンタたち正道高野の僧侶が、態々(わざわざ)研究所(ココ)を視察している理由はなんだ?… ……正道高野と此の研究所は一体どういう関係なのかが知りたい。」
 水川の後を引き取って、俺も阿川に質問を投げかけた。
「… …。… ……多少、歴史的な話になる。」
「構わない。教えてほしい。」
「… …… … …古来から大きな超能力(チカラ)を持つ正道高野は、常に歴史と隣合わせで存在したんだ。時には幕府の依頼により、其の対抗勢力を制圧すべく暗躍した。見返りに幕府は正動高野に対して、様々な便宜を図った。…… …所謂、持ちつ持たれつと云う関係だ。そういう関係性が長らく続いて居た。」
「…… … …」
「だが時は経ち、やがて政府の方も、正道高野が持つような強大な超能力(チカラ)を、政府独自で持ちたいと云う思いが強くなっていく。… ……其のキッカケとなったのが、大正の中頃に発足した小さな研究機関だ。これを最初として、昭和の初めに国立脳科学技術研究所が設立された。詰まり、政府と正道高野は日本の歴史に於いて、何時の時代も隣り合わせの関係だった。正道高野は政府が超能力(チカラ)の研究を開始したトキから深い関わりがあるんだ。だから、研究所の運営について正道高野は協力関係にある。視察は其の一環だ。」
 阿川の話を勘案すると、恐らく正道高野は、政府を脅かす程の権力を持った存在なのだろう。隣人として正道高野と協力関係を維持できている間は良いが、政府側からすれば、其れだけでは何かと不都合も多いハズだ。政府自身がお抱えの超能力戦士(サイコソルジャー)を保有しておきたいと考えるのも無理は無い。昔から連綿と続く或る程度の関係性があり、其の協力関係の下、国立脳科学研究所は設立されたのだった。だが、そうすると一つ気になるコトがある。
「… …… … ……今の話の中で、一つだけ疑問がある。研究機関(ココ)に在席して居る者たちの超能力(チカラ)は、正道高野の僧侶の其れと比べて、かなり劣るように見える。アンタたちが協力して居るのに、此れほどに明確に力の差があるのは何故だ?設立当初から、正道高野の協力を得ながら人材育成しているにも関わらず、まだ其れほどの成果を上げられて居ない。今日見学した限り、所員はそう俺たちに説明していた。」
 所員の片倉(カタクラ)は俺たち三人に説明する際、そのように話していた。在籍する百名程の人材の内、モノになるのは一割にも満たないと。
「…… … …其れは、此の研究所の目指す所が、より高度な次元であるコトが原因だ。」
 阿川が口から薄く煙を吐いて云った。
「… …より高度?此の研究所が?」
「… … …ああ。 …… …まず、其の話をする前に、俺たち正道高野の僧侶が持つ超能力(チカラ)について、話をしなければならない。… …… …お前たちに一番馴染みのあるヤツは、そうだな… …… …九字か。」
 俺たち三人は、何時の間にか阿川の話を食い入るように聞いていた。其の姿を見て、阿川は面倒臭そうな表情をして煙管煙草(キセルタバコ)を遠ざけながら、俺たちの眼の前に左手を差し出した。
 俺たちが其の阿川の左手を不思議そうに眼で追うと、其の左手が突然、様々な動きを始めて形を作り始めた。其の動きの速さは眼を見張るモノがあった。
「… …… …本来ならば両手で結ぶモノだが、面倒なので片手で(イン)を作った。お前等も何処かで眼にしたコトがあるだろう。」
 そう阿川は云ったものの、俺と水川はそんな奇妙な手の動きは見たコトもなかったので、顔を合わせて戸惑っていると、隣で序開(ジョビラ)が声を上げた。
「… …(わたくし)、なんだか其れ、見た記憶があります。… …確か、邪を払うと云われる印だったような… …」
「正解だ。… ……此れは真言密教による九字切り(クジキリ)と云い、『(リン)(ピョウ)(トウ)(シャ)(カイ)(ジン)(レツ)(ザイ)(ゼン)』九つの(モン)と共に結ぶコトで、邪を払う印だ。他にも様々な印を結び、俺たち正道高野の僧侶は、一般的には法力(ほうりき)と呼ばれる超能力(チカラ)を発揮する。既にお前は見ているな?」
 阿川は俺の顔を見て云った。確かに俺は、阿川と若僧(にゃくそう)たちが印を結ぶのを見ている。そして、其の直後、彼等は強力な超能力(チカラ)を発揮していた。
「ああ、見たぜ。」
「率直に云おう。此の、俺たち法力僧が毎回結んでいる印。何も、俺たちは恰好を付けたり、好き(この)んで、こんな真似やってるワケじゃないんだ。出来れば印なんて面倒なコトはせずに、さっさと超能力(チカラ)を発揮したいんだよ。」
 それから阿川は再び煙管煙草(キセルタバコ)に口を付けた。
「… …… … …法力僧(アンタたち)は印を結ばなければ、超能力(チカラ)を発揮できない、と。」
「そう、其処。」
 吐き出す紫煙と共に、阿川が煙管(キセル)で俺を指さした。
「俺たち正道高野の法力僧は、子供の頃から様々な印を身体に叩き込まれる。精神的にも肉体的にも修行をして、神仏の傍らに()すコトを強いられる。其れにより、俺たちは印を結び、仏の力を一寸(ちょっと)だけ借りるコトが出来るんだ。詰まり平たく云えば、俺たちは御仏(みほとけ)の力を借りて超能力(チカラ)を発揮しているに過ぎない。」
「…… … …」
「そして、借りモノであるがゆえ、其の力には自ずと限界がある。此れが俺たち正道高野の法力僧の実態だ。… …マァ、限界があるとは云っても、其の力が大きなモノであるコトには変わりないがね。」
「… …… …」
「他方、其の話とは別に、昔から庶民の中にも超能力(チカラ)を発揮する者は少なからず存在した。そして、不思議なコトに彼等は、俺たちが行うような印を結ぶと云う行為を一切必要としなかった。彼等は思うが儘、手を伸ばしたり、走ったりするのと同じような感覚で超能力(チカラ)を発揮していたんだ。」
「… …手を伸ばしたり、走ったりするように… …」
「其れが一体、何を意味するのか。…… …… … ……其れは、極めて自己中心的に、

と云うコトさ。其処には印や縛り等、何も無い。自然に、呼吸をするコトと全くもって大差ない行為なんだ。」
「…… …」
「そして、それらを踏まえて、お前の質問に戻る。詰まり、此の研究所で養成しようとしている超能力者とは、印を結ぶ必要も無く超能力(チカラ)を無限に発揮できる者たちのコトなんだ。研究所では、そう云う能力者たちのコトを広義で枷無き能力者(セルフィッシュ)と定義づけているらしいが… …。兎も角、そう云った者たちを育成しているのだが、中々思うように覚醒しないのが現状だ。此れは、僧侶の超能力(チカラ)が『修行』と云う或る種の再現性を担保した行為で発現可能なのに対し、此の研究所が育成しようとしている枷無き能力者(セルフィッシュ)は、未だ覚醒に至るまでの道筋(ロジック)が確立されて居ない所に課題がある。」
 … …… … ……覚醒に至るまでの道筋(ロジック)。其れを見つけ出すコトが、俺たち三人に課せられた仕事であり、片倉(カタクラ)が俺たちに期待を寄せていた理由だったのか。阿川の話を聞いて、雲を掴むようだった此の研究所と自身に与えられた役割が少し見えた気がした。
「因みに、此の研究所に未だ見出されて居ないような、類まれな才能を持った超能力者も、巷には沢山居る。だが、其の様な連中の大半は、既に自身の能力で生きる術を見出して居たり、国に管理されるような生き方を望んでいない者等様々だ。結果として、此の研究所へ有望な人材は集まらず、育成に苦慮していると云う負の循環になっている。… …… …えっーと、水川、だっけか?」
 唐突に阿川が水川へ顔を向ける。
「… …へ?なんだよ。」
「… ……ちいと、喉が渇いた。番茶を汲んできてくれ。」
「え、えぇー!?…なんで、俺が… ……」
 阿川の突然の注文に水川は拒否反応を示すが、直ぐにその後を序開が引き取った。
「… … ……アラ。水川さんを助けて下さったのは、一体どなたでしたっけ?一歩間違えていたら(わたくし)たち、命を落としていたかもしれないんですよ?阿川さんがお願いしているのですから、素直に聞いてもバチは当たらないと思いますケド。」
 序開が、つんと小生意気そうに眼鏡を上げて云うと、水川はぐぐぐ、と唸るような声を上げ、やがて観念したかのように医務室を出ていった。
「あはは。アー、可笑しい。今日は(わたくし)たちに偉そうしてばかりだったから、これくらいやって頂かないとね。」
 序開が俺と阿川の顔を見てニコリと笑うと、俺も自然と息が漏れた。阿川の方も、ふっと小さく笑みを浮かべ、中々面白い女性(ひと)だな貴方は、と感心するように云った。
 序開の軽口によって、俺たちは漸く、今日と云うトンデモない勤務初日の終わりに平穏が訪れたコトを実感した。

 其れから十分程して、水川が大きな薬罐(やかん)をぶら下げて医務室の扉から姿を現した。
「おー、待ちわびたぜ。有難う… …」
 阿川がお礼を述べるが、何故か水川が不敵な笑みを浮かべて此方を見ている。其の奇妙な行動に俺は思わず声を掛けた。
「…何やってるンだよ、水川」
「… …クックックック……」
「… …?」
 訳も分からず、黙って見ていた俺たちの眼の前で、水川が重たそうな薬罐(やかん)を持ちながらゆっくりと道を開ける。水川の後ろ、扉から現れたのは此の医務室の医師と片倉(カタクラ)だった。
「二人と其処で会ったんだ。そう云えば、三四郎の眼が覚めたら否末(イナスエ)センセに連絡するように云われてたんだよ。」
「… …眼が覚めたようだね。私が此処のかかりつけ医の否末だ。調子の方はどうだい?」
 水川と共に部屋に入って来た医師の否末は、医師らしからぬ、ざっくばらんな雰囲気で俺に問いかけて簡単な触診を行った。
「左腕の傷以外は、特に問題無いだろう。若いから直ぐに治る。何か食べるトキは、内臓を労わるように、粥にしなさい。… ……それじゃ、私は此れで失礼させてもらうよ。」
 否末はそう云うと溜息を一つ吐き、水川と片倉を見た。良い所で切り上げるんだぞ、とだけ水川たちに云い残し部屋を出て行く。其れから水川は、片倉に眼で合図を送るように見た。片倉が俺たちの前に出てきて唐突に喋り出す。
「… ……こほん。マァ、其の、なんだ。勤務初日から、災難だったなお前等。…… …兎も角、命が助かって良かった。… ……阿川さん、三人を助けてくれて本当に、ありがとう。」
「ああ。大事に至らなくて、良かったよ。」
 片倉は俺と水川の傷を眺めながら、心底安堵したかのような表情をして居る。
「… …… … …で?」
 其れから直ぐ、水川が片倉に向かって、嬉しそうに声を上げた。
「…… …ああ。…… …其れで、お詫びと云ってはなんだが… …… …此れッ!」
 片倉が突然取り出したモノは、まだ封の開いていない一升瓶だった。両手に一本ずつ持っている。其れを見た阿川が、ほうッ!と猿のように叫んだ。
「もう夜も遅いし、竹田は安静の為、今日は此処に泊まった方が良い。研究所(ココ)には宿直用の設備も整っている。阿川さんも、もう此処に泊まろうと思っていたンだろう?… …じゃあ、丁度良いじゃないか。三人の歓迎会だよ」
 片倉が満面の笑みを浮かべて云う。何が丁度良いのかはとりあえず打っ遣っておいて、どうやら詰まり、此れから盛大な酒盛りが始まろうとしているのだけは理解した。
「流石、片倉サンッ。何時も(なが)ら、なんか(ワリ)ィね。寺では酒は厳禁なんだよ。ウチの堅物共(カタブツども)は、般若湯(ハンニャトウ)さえ許して()れない。」
「分かってマスって。だからせめて、此処に来たトキはゆっくりしてってくだサイよ」
 阿川と片倉はなんだか見知ったように話を続けている。俺たち三人は其の姿を呆気に取られながら眺めていた。情報量が多すぎて処理しきれない。
「えッ…と。… …一応、俺、怪我人なンだけど… …」
 俺は一応、確認するように言葉を挟む。
「構わん」
 今日一番の毅然とした態度で、阿川が云う。
「大丈夫だってッ!」
 続けて片倉。
「行ける行けるッツ」
 そして何故か、全力で同意する水川が居た。自信に満ちたような其の顔が少しく(カン)に障る。何だか分からんが、水川は既に此の雰囲気に馴染み始めて居る。先刻(さっき)の医師と云い、此の研究所の人間は、実はもしかしたら色々と適当なのだろうか。依然働いていた研究所とはマッタク違う雰囲気に、俺はかなり戸惑って居た。
「… …マァ、俺は、問題無いけれど… …」
 そう云いながら、俺は伺うように隣の序開を見る。流石にお嬢様と云った雰囲気の序開にとっては、此の男たちの悪乗りに嫌気が差しているのではないだろうか。
「それじゃア、(わたくし)が何かアテでも作りましょうッ!片倉サン、何かお野菜等は、あるのでしょうか?」
「そういや、冷蔵庫に胡瓜(きゅうり)があったような気がするな」
「良いですね!」
 …… …。… …… …激しく杞憂だったようである。阿川が云ったように、此の序開は面白い女… …と云うよりは、随分と変わっている人間なのかも知れない。屹度、頭が良いヤツってのは、世間の常識に捕らわれない先進的且つ、柔軟な思考を持っているのだ。と云うコトにしておこうと、俺は心の中で独り言ちた。
 そう云うワケで、唐突に始まった宴が思いの外盛り上がりを見せたのは、勤務初日の新人三名と云う恰好の肴が居たのもさるコトながら、片倉と阿川の二人の、其の度を越した騒ぎようも相まって、不図した瞬間にこんなに騒ぎ立てて所内に迷惑が掛からないだろうかと、此方が心配する程の有様だった。片倉は水川や俺の肩を抱きながら、眼に涙を浮かべて軍歌を熱唱したり、阿川と云えば其れに合わせて奇妙な小躍りを披露し、唐突に念仏を唱える等して居た。で、そんな楽しいトキに限って、神様ってヤツはワザと時間を短くしてしまうのだった。何時の間にか宴は深夜に差し掛かり、零時を指しているのだった。
「… …アンタ、坊さんのクセに、ホント良く飲むね。」
 俺は阿川が大口を開けて酒の最後の一滴を流し込むのを、酔い目で眺めていた。
「…… あ?…… …… …ズズ…。 ……… …… … ……そりゃアな。… …普段は山の上に引っ込んで暮らしてるワケだからさ。酒飲む機会って云ったら、こんなトキしかないしな。飲めるトキは、必死で飲み貯めしてるンだよ。いっつも酒に手が届く所に居るお前等に比べたら、そりゃア、酒に対する意欲(モチベイション)てヤツも違うだろうぜ。」
「成る程ねェ」
「… ………。……おいッ!… …おいおい、竹田ァ。此の破戒坊主(ハカイボウズ)の云うコトなんて信じちゃ不可(いけ)ねェよ?此奴は、寺で酒が飲めねェってモンだから、こう云った出張を率先して買って出てるンだぜ?だから、出先で接待(せったい)受けていっつも飲んでンの。…… …飲んで無いトキ?ナイナイナイ」
 隣から出来上がっている片倉が横槍を入れてくると、グラスに一升瓶を傾けて酒を汲もうとしている阿川が、半眼しか開いていない顔を即座に向けて反応した。因みに云えば、既に一升瓶にはもう酒は残って居ない。
「あ!あーッそう。… …片倉サンッ、アンタ、そんなコト云ってしまうンだね!?こ、此れは営業妨害だよォ。ぼ、僕の人格権の侵害であると、私は裁判所に訴えますからね!?良いですね?」
「良いですトモ!」
 何を!何を!とお互いに牽制を張りつつ、だけれども、次の瞬間には和解して馬鹿笑いを始めている。序開は赤い顔をしながら、アテを作ってきます、とまた席を立ち、水川は好い具合に眼を瞑りうつらうつらとして居た。俺は傷が疼くのもイヤでゆっくりと酒を舐めて居たので、まだ其れほど酔い潰れては居なかった。
 片倉と阿川が楽しそうに話している所を眺めていると、そう云えば彼等に、一番肝心なコトを聞くのを忘れていたコトに気が付いた。其れは、『器』とは一体どういう意味なのか、そして、正道高野と不坐伊比亜(フザイビア)の関係についてだ。何やら両者には、かなり根深い因縁があるように思えた。不坐の、あの例えようの無い燃えるような怒り。だか、其の怒りは寧ろ、正道高野では無く、阿川に対して強くぶつけられているようにも感じた。
「阿川。」
 其れは、あまりにも個人的過ぎる話なのかもしれない。だが、酒の勢いもあって俺は其の興味を止めるコトが出来なかった。
「…… …ん?」
 不思議そうに阿川と片倉が此方を向いた。
「もう一つ、聞きたいコトがあった。」
「…… …マッタク、お前は、本当に質問が好きだなァ。マァ、其の探求心の強さが、研究者たる所以(ゆえん)なのか?俺には全く分からんが… …」
「… …… …アンタと、不坐(フザ)のコトだ。戦っている最中、アンタたちは、とても顔見知りのような会話をして居た。そして、それ故に、不坐の怒りがあるようにも思えた。一体、不坐とはどう云った関係なんだ?」
 阿川は最初、俺のコト等お構い無しに、薬罐(やかん)に入った番茶をグラスに注いで飲んでいた。が、不坐の名を聞いた瞬間、ゆっくりと酔い目を此方に向けて、俺の話に耳を傾け始めた。
「…… … ……片倉サン。良いのか?… …あんまりベラベラ喋るのは、俺は研究所(アンタんトコ)仕来り(しきたり)に関しては疎いからよ。判断が出来()ェ」
「…… … …… …良いんじゃないですか?図らずも不坐と関わってしまった以上、此奴等はもうヤツと無関係では居られないでしょう。此れから、研究所(ココ)で仕事を行っていくワケですから、自衛の為の情報は与えてあげた方が良い。」
 片倉は俺の寝るリネンベッドの端に頬杖をつきながら、阿川に云った。
「…… … …分かった。… …… ……不坐伊比亜(フザイビア)。此の国立脳科学技術研究所に来たのは凡そ五年くらい前だったか。其れ以来、ヤツは此処の所長の側近として行動を共にしているんだ。」
 其の時、俺は戦いの最中、不坐を呼んだ白髪の老人の姿を思い出した。
「そう云えばアンタと不坐の戦いの最中、不坐を呼んだあの老人… ……」
「ああ、そうだったな。アノ男が、国立脳科学技術研究所の所長、榊恩讐(サカキオンシュウ)だ。」
「…… ……其れで、現状はそうなのだが、伊比亜(イビア)研究所(ココ)に来る前のコトだが。… ……ヤツは、元々、正道高野に居たんだ。俺と共に、正道高野の僧侶となるべく、日々、過酷な修行に勤しんで居た。」


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登場人物紹介

■竹田雷電(たけだ らいでん)

■31歳

■一週間の能力者の一人

■火曜日に電撃の能力を発揮する。二つ名は火曜日の稲妻(チューズデイサンダー)

■繋ぎ止める者(グラスパー)として絶姉妹を使役する。

■武器①:M213A(トカレフ213式拳銃)通常の9mm弾丸と電気石の弾丸を併用

■武器②:赤龍短刀(せきりゅうたんとう)

■絶マキコ(ぜつ まきこ)

■17歳

■炎の能力を持つ。二つ名はブチ切れ屋(ファイヤスターター)

■絶夫婦の娘(養子)であり、絶姉妹のうち姉。

■雷電と死闘を繰り広げた後、死亡。現在は式神として雷電に取り憑いている。

■武器:小苦無(しょうくない)

■絶ヨウコ(ぜつ ようこ)

■17歳

■氷の能力を持つ。潜在的には炎も操る事ができる。

■絶夫婦の娘(養子)であり、絶姉妹のうち妹。

■雷電と死闘を繰り広げた後、死亡。現在は式神として雷電に取り憑いている。

■武器:野太刀一刀雨垂れ(のだちいっとうあまだれ)

■真崎今日介(まさき きょうすけ)

■21歳

■死霊使い(ネクロマンサー)の能力を持つ。五体の悪霊を引き連れる。

■奥の手:影法師(ドッペルゲンガー)

■武器:鉤爪(バグナク)

■W.W.トミー(だぶる だぶる とみー)

■一週間の能力者の一人

■水曜日に水の能力を発揮する。二つ名は水使い(ウォーターマン)

■中学校の英語教師をしている。

■日本語が喋れない。

■武器:無し

■小林マサル(こばやし まさる)

■14歳

■トミーさんの助手。通訳や野戦医療に長けている。

■阿川建砂(あがわ けんざ)

■90歳 ※昭和26年時24歳

■宝石商として全世界を旅する。

■宝石を加工し、能力を向上させる品物を作る技術を持つ。

■山田(まうんてん でん)

■21歳

■死霊使い(ネクロマンサー)の能力を持つ。4体の悪霊を引き連れる。

■雷電を繋ぎ止める者(グラスパー)に設定し、絶姉妹を取り憑かせた。


■竹田三四郎(たけだ さんしろう)

■90歳 ※昭和26年時24歳

■雷電の祖父

■研究者として、かつて国立脳科学技術研究所に所属していた。

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■水川真葛(みずかわ まくず)

■※昭和26年時26歳

■国立脳科学技術研究所所属

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■序開初子(じょびら はつこ)

■※昭和26年時23歳

■国立脳科学技術研究所所属

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■夫を戦争で亡くす。子供が一人いる。

■不坐伊比亜(ふざ いびあ)

■※昭和26年時24歳

■国立脳科学技術研究所所属。所長の用心棒

■研究所設立以来の類まれなる念動力(サイコキネシス)を持つ。

その他

■一週間の能力者…一週間に一度しか能力を使えない超能力者の事。其の威力は絶大。

■獣の刻印(マークス)…人を化け物(デーモン)化させる謎のクスリ。クライン76で流通。

■限界増強薬物(ブースト)…快感と能力向上が期待できるクスリ。依存性有。一般流通している。

■体質…生み出す力、発現体質(エモーショナル)と導き出す力、端緒体質(トリガー)の二種。

■繋ぎ止める者(グラスパー)…死霊使いによって設定された、式神を使役する能力を持つ者。


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