第31話 宝石商#5
文字数 3,385文字
浮かれた金髪頭の声が飛んでくる。
いそいそ
と立ち上がった。「おおよ。どれ、嬢ちゃん等は一体何を選んだンかのう。」
ケンザにしても、姉妹が宝石に興味を持ってくれる事が単純に嬉しいらしい。真っ白い
「へっへー。探せばあるモンだね、まさしくアタシにお似合いのヤツ!」
マキコが両手を腰に当て、ケンザに向かって偉そうなポーズをする。ケンザはガラスケースに落した顔をマキコの方へ向けると感心するように口を開いた。
「ほぉ。
「そうなの!?」
「ああ、コイツは
「そんなに珍しい宝石なんだ…。」
どうやら高価な宝石と云うことで尻ごみしているようだった。如何にガサツなマキコと云えど、あまりに高価な品物を貰う事には気が引けたらしい。だがケンザの方はそんな事は一向にお構いなしのようで、髭面の口元に笑みを浮かべながらマキコに向かってウィンクしてみせた。
「なーにを、若いクセに遠慮しとるんじゃ。最初にゆったじゃろ?ケンザから嬢ちゃん達へのささやかなプレゼントじゃよ。値段なんか気にせずとも良い。」
「ほんと!?」
「ああ、モチロン。
ケンザの説明を熱心に聞きながら宝石に眼を落していたマキコは、ケンザの話が終わった途端、胸を張って顎を上げながら得意げに云う。
「当ッたり前でしょ!私は絶マキコ。私の炎で燃やせないものは無いんだからッ」
マキコはケンザの顔の前で人差し指に小さく火を灯して見せた。細い指先で炎が揺らめいている。突然の
「… …まさしく、其の炎は嬢ちゃんの魂の形。揺るぎなく前進してゆく決意そのものに見えるの。」
「へへへ。」
「… ……じゃがな。時には立ち止まって考える事も大事じゃ。あんたの力は強く、そして正直過ぎる。其れゆえ、大切な人の為には容易に命を散らしかねん危うさも持ち合わせておるようじゃ。もし此の先、そんな場面に遭遇した時は、今一度此のじじいの云った事を思い出しておくれ。そして、少しでも生きる事に考えを巡らせるんじゃよ」
ケンザがマキコの微かに透き通った手の甲をゆっくりと諭すように握る。マキコは其のケンザの気持ちを感じとったのか、やけに
「さぁさ。お次は此方の嬢ちゃんと坊ちゃんの選んだ石を見せておくれ。マキコちゃんや、とりあえず先に皆の石を鑑定するからの。ちょっとだけ待っててな。」
「うん!私も石の話もっと聞きたい。」
ケンザに妙に懐いているマキコ。傍から見ているとなんだかじいちゃんと孫みたいだ。意外と素直にケンザの話を聞いていたり、しおらしい面もあるんだなぁとか、日頃からああだったらもうちょっと扱い易いのになぁなんて、取り留めのない思考が浮かんでいる。ケンザの石ころ鑑定はまだもう少し時間が掛かりそうなので、此方もゆっくりさせて貰おうと隅に置いてあった丸椅子に腰を下ろした。其れから全体重を預けるように壁に
「ん。」
一本
「火?」
「あざっす」
今日介が俺の灯したライターの火に顔を近づけると、ほどなくして細い紫煙が立ち昇り、雑然とした室内を薄く曇らせてゆく。
見たところ確かに此の宝石はとてもヨウコの選びそうな物だし、石言葉に至ってはまるでヨウコの優等生っぷりを象徴するかのような儚い言葉ばかりが並んでいる。マキコにしてもヨウコにしても、自身にぴったりと合うようなシロモノを、よくもまぁ間違いなく選ぶなぁとつくづく感心する。女ってのは自身にとって一番最良な物を嗅ぎ分ける能力に優れているのだろうか。
ケンザは今しがた俺が検索して仕入れた知識を既にヨウコに
「ヨウコちゃんや。あんたはとても優しい子じゃの。屹度、此れからも其の慈しみが皆の心に良い影響を与えるはずじゃ。そして此の
「はい!」
眼をキラキラさせながら石の輝きを眺めるヨウコ。ケンザは姉妹の楽し気な顔を横目に
「小林君の石も綺麗だね」
「はい!先生がケンザさんに頂いた石も青かったので、僕も綺麗な青色の石が欲しかったんです。」
ヨウコが小林君に話掛けると、小林君は嬉しそうに返事をした。ヨウコの顔に笑顔を向けて、其れからまた石に視線を戻す。
「アタシ達の宝石は
マキコがヨウコの隣から顔を伸ばして小林君に話しかける。確かにマキコが云うように、小林君の選んだ
「僕は普段、指輪やネックレスはつけないので、お守りに入れて見に着けておきたいんです。此の儘でも凄く綺麗ですモンね。」
「ああ、ナルホドね。確かにまだ中学生にはオシャレは早いかなー」
マキコがうっとり言いながら自分の譲り受ける
「はぁ、綺麗だなぁ」
其の時、マキコの指先が宝石に触れるか触れないかのところで、ヨウコが唐突に声を上げた。
「あ!」
「… …。……うん?どうしたのよ、ヨウコ」
ヨウコの突然の反応にマキコも、そして隣に居る小林君も怪訝な顔をする。
「ダメじゃん、私たち!このまんまじゃ、此の折角の宝石たち、身に着けらんないよ」