第34話 宝石商#8
文字数 3,167文字
「… …マァ、そりゃ、そうだよな… …」
「……なんだか凄く、気が重そうですね。」
小林君が眉間に皺を寄せながら、伺うように問いかけてくる。俺の言葉のテンションがあまりにも低かったのを見て、彼も俺の気持ちを察したようである。
「… …あー、マァ。もう彼是、気が遠くなるほどにジイちゃんとは疎遠になってたからさ。今更、どの面下げて会いに行けばいいのかって考えてた。」
「あぁ…」
「
「… …ですね。今のところ、ギャング中学生って名称しか情報が無いですが、其の状況から察してみても、味方である可能性は低そうですよね… …」
「ギャングに入ってる時点で、素行不良者の匂いがプンプンだしな。マァ、いずれにせよ用心するに越した事はないさ。とりあえずは、木曜日に会うのだけは厳禁だ。理想はトミーさんの能力日である水曜日まで待てれば良いんだケド、それじゃ流石に動きが遅くなる。」
「ハイ。木曜だけは避けるようにします。てゆうか、時刻がもう二十六時。今日はもう木曜日ですね。」
小林君はメカメカしい自身の腕時計に眼を落しながら云った。
「だな。マァ、もうこんな時間だし、今日明日くらいは休息で良いんじゃないかな。」
「あ、後… …」
「ん?」
俺は煙草の灰を落しながら、小林君の言葉を聞いていた。椅子に座って寛いでいると、否応にも気持ちが
「
「良いんじゃねーの。今日介にも聞いてみようぜ」
となると、班編成としては今日介がトミーさん等について行くのが丁度良い。其れに、
俺と小林君、トミーさんは今後の行動予定をある程度合わせたところで、隣で四方山っている今日介たちを呼び寄せて情報共有を行った。今日介は小林君の提案を快諾し、小林君の頭にポンポンと手を置きながら、口角を上げウィンクした。小林君の方も安心したようで今日介に満面の笑みを送っている。
「
マキコが其の言葉に眉をピクリとさせる。
「何よ、真崎。アンタ、私たちのコト馬鹿にしてンの?!」
「もう、やめなってば、マキちゃんたら。」
「… …フン。」
「おー怖ッ。」
今日介が茶化すような大袈裟な動きをした。其の分かりやすい挑発に此のッと声を上げるマキコ。其れをなんとか静止ながら、ヨウコがズレつつある赤眼鏡で俺に質問を投げかけてくる。
「… …と、ところで、話の内容から竹田さんの故郷は遠方みたいですが、具体的にはどの辺りなんですか?」
「関西だよ。兵庫県。」
「…… …関西?!ちょっと遠くない?!… …てか、竹田。アンタって関西人だッたの?」
予想外だったのか、マキコが今しがたの怒りも忘れて此方に食いついてくる。
「まぁ、一応な。でも其の頃の記憶なんて、もう殆ど無いけど。」
「兵庫県の何処よ」
「姫路市から更にローカル線を乗り継いで行くんだよ。覚悟しとけよ、お前等。あまりにも遠すぎて、マジで
「何其れ、楽しそうッ!」
マキコが何故か楽しそうに声を上げ、ヨウコの両手を取った。其の隣のヨウコも笑顔を向けて、姉妹一緒に騒ぎ立てて居る。
「なんか、すんげー楽しそうなんだけど。残念ながら何にも
何の変哲も無い田舎の村に過度な期待をされても困るので一応忠告してみるも、姉妹のテンションは少しも下がらない。
「んふふー。ネェ。ヨウコ」
「うん!… …竹田さん、私たち、結構田舎好きなんですよね。実は、私たちが在籍していた殺人教育機関も山梨県の山奥にあるんです。そもそも、其の機関は一般の人の眼に触れるのもマズイから、ホントに人里離れた山の中にあったの。周辺はもう鬱蒼とした森ばかり。私もマキちゃんも、機関に在籍していた頃は、良く山の中を走り回って遊んでいたわ。澄んだ空気も川のせせらぎも、全部が好き」
ヨウコがマキコの言葉を代弁するかのように説明した。其れを聞きながらマキコは何度も頷いていた。
「あー、確かに、機関の周りはなンッッッにも、無かったよなァー」
今日介が腕組みしながら思い出すように答える。
「ケド、俺はもう真っ平だね、あんな所。やっぱ都会の方が断ッ然良いや。」
「… …フーン。マァ、姉妹が問題無いんなら、俺はもう異論は無いよ。ダラダラと電車に乗ってる時間がひたすら
俺も今日介と同様、此の狭ッくるしい雑然とした街の方が性に合っている。雑然としているからこそ、自由で、其々が何をしても良い気がするから。此の街は何もかもを無慈悲に飲み込んでくれる。田舎の事は最早すっかり忘れてしまったが、東京に出てきた日の事は今でも鮮明に覚えている。夜行バスで到着し、早朝の新宿に降り立った時の事。曇天で小雨が降っていて、踏みしめたアスファルトで、堪った水溜まりにスニーカーが濡れた。にも関わらず、俺は途轍もなく希望に満ち溢れていた。良くある若さゆえの根拠の無い自身と云うヤツだ。其れ以来、俺は此処を住処として、今までなんとか生き延びてきた。
「行くんか、雷電」
今迄、後ろで皆の話を聞いていたケンザが俺に声を掛けて来た。
「あぁ。あんま気が進まねーけど。だって、ケンザ。あんたが何にも教えてくれねーんだモン。絶対、色々知ってるだろ、アンタ。」
「ホホホ。だから云っておるじゃろうが。此れはお前ンとこの問題なのであって、ワシは最後まで部外者じゃからの。」
「また人を煙に巻くような云い方をする。……じゃあよ、当事者ってのは一体誰なのさ」
俺はなんだか釈然としないので、もう少しケンザに食い下がってみる。
「当事者は、… …つまり、『一週間の能力者たち』じゃよ」
出たよ、一週間の能力者。
「つまり、俺… ……と、」
俺は自身を指さしてから、ゆっくりと其の指先をトミーさんの方へと向けてゆく。
「トミーさん。」
俺の言葉を聞いてから、白い歯をみせてトミーさんが笑った。
兎に角、何も情報が無い今、まず行動しない事には何も始まらない。トミーさんと小林君、其れから今日介には、危険だが木曜日の能力者の調査を行ってもらう。そして俺と絶姉妹は、別ルートから