第11話 学徒と水使い#3

文字数 3,047文字

「気を付けろって、素直に聞くような性分(タマ)でも無いか、あの男は。… …でもまぁ、今から危険な敵の巣を(つつ)きに行こうってんだから、俺が云ってる事も矛盾してるんだけどね。」
「そう云えば、此方も竹田さんの耳に入れておきたい事があります。」
「… …なんだ?」
 小林君はセットで頼んだオレンジジュースを一口飲んで、落ち着くように話始めた。
「芥次郎の件で竹田さんから連絡があって以来、僕も時間の許す限りヴァレリィの情報を探していたのですが、此れと云った情報は得られませんでした。只、其れと関係があるのか分かりませんが、近頃とある集団が幅を利かせているという話を聞きまして。」
「とある集団?」
「… …はい。集団自体はどうという事のない、街の不良の寄せ集めのような物らしいです。然し、リーダーをしているのが男子中学生らしくって。」
「へ?… …男子中学生がギャングのリーダー?一体何の冗談だい、そりゃ」
「其れで興味深いのは、其のリーダーが能力持ちらしいんです。」
「…ふうん。……でも今日日(きょうび)、能力持ちなんて裏社会(こっち)じゃ珍しくねーじゃん。」
「イエ、此処からです。… …僕が聞いた所によると、其の中学生は

らしいんです。」
「なに?」
 予想外の小林君の発言に、思わず腕組みしながら険しい表情で前のめりになる。俺の突然の動きに小林君が両目を見開き固まってしまった。マキコみたく、多感な中学生をまた刺激してしまったようだ。
「あ、すまんすまん…。」
「木曜しか超能力(チカラ)使えないって、竹田と同じじゃん。」
 何時の間にか芸術的な顔面を有する絶マキコが、手足の無い簡素な身体を此方に向けて俺たちの話を聞いていたが、口は相変わらずモキュモキュと忙しい。
「飯はもう良いのかよ。」
「まだ食べるケドね。… ……で、なんてったっけ。いつもアンタ云ってるじゃん。『一週間の能力者』ってヤツ。其の中学生も、あんたの知り合いじゃないの?」
「や、知らねーな。そもそも一週間の能力者で知ってる奴って云ったら、トミーさんと金月しか知らねーもん。」
「一週間の能力者って云うから、アタシてっきり同じ境遇の繋がりがあるのかと思ってたわ。」
「其の中学生の事も、其れから芥次郎の標的になってた若い女?の事も全く知らねーな。そもそも『一週間の能力者』なんて物々しい呼び名だって金月が言い始めたから使ってるだけで、大した意味は無いのさ。俺とトミーと金月が出会ったのも只の偶然だし、其れで週に一度しか使えない能力者が何人か居るってのが分かったの。」
「… ……呆れた。普通さ、そんな特殊な境遇に見舞われた時って、自分のルーツ探りたくなるらない?」
「興味無いね。知ったからってどうなるでもないし。まぁそういう所は幸い、トミーさんとも金月とも意見が合った点ではあるかな。俺たちは自分の生活が穏やかに過ごせれば其れで良いんだ。」
「ふうん。」
「……って、ちょっと前までは思ってたんだが。どうやら、此の状況だとそうも云ってられなくなってきたかもな。」
 俺(火曜)とトミー(水曜)と金月(金曜)の能力。週に一度しか使えない超能力(チカラ)を持っているのが分かり、金月は其れを『一週間の能力者』と呼んだ。そして今回、小林君から木曜の能力者が居るという情報を得た。金月の云った呼び名が象徴するように、一週間に一人づつ能力者が居るとしたら、能力者は全部で七人。件の中学生を含めて残り四人(日曜、月曜、木曜、土曜)存在する事になる。或いは例えば、火曜の能力者が俺以外にも複数居るなんて事になると七名では済まない可能性もあるが、今は其の考えは省いておこう。
 俺とトミーと金月、其れから見た事の無い女の写真が芥次郎の事務所にあった。ヴァレリィが一週間の能力者の命を狙っているのだとしたら、小林君の云った件の中学生も狙われる可能性がある。彼らが敵対勢力か、将又(ハタマタ)話せば分かる連中なのか。まず其処から見極める必要があるが、いずれにせよ会いに行く必要はあるだろう。
 俺はやる事が多いなと考えて溜息をついた。此れからカチコミしないと不可ないと云うのに、考えれば考えるほど前途多難な考えしか思い浮かばない。落ち込んでいても仕方がないので、俺は無理にでも気分を上げる為、女給(ウエートレス)にコロナビール、其れから姉妹の分のパフェのお代わりを頼んだ。
 そうこうしている内に、小林君の携帯電話が鳴った。小林君は残りのオムライスを腹に()き込みながら、リュックの中からけたたましく声を上げる携帯を取り出して電話に出た。
「はい、先生。学校は終わられましたか?」
 俺と木像たちの方を目配せしながら、小林君がトミーと話をしている。俺は女給(ウエートレス)が持ってきたビールを受け取りながら其の受け答えを聞いていた。
 だが、其の電話の応答はすぐに様相を変える。
「え?何を云ってるんですか?」
 俺はビールを口につけたところで異変に気付き、動きを止めた。木像たちも小林君の声に耳を傾けている。
「… ……はい、… …はい。…… …………。… ……そ、それで、先生は無事なんですね?!…… ……え?… …今すぐ?」
 小林君がそう声を上げて俺の方を()っと見た。其の眼を見て、俺はトミーがなんらかのトラブルに巻き込まれた事を理解した。俺は小林君に現状を聞く。
「小林君、トミーさんはなんて?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね、先生。… …… …い、今、先生が此方に向かう途中、襲撃を受けたそうです。なんとか撃退したそうですが。其れで、先生が云うには、今すぐにでも其処を離れろと云うんです。」
「…… …此処から離れろ、だって?」
 そう小林君に返答をしたところで、俺は眼の端に移った窓に不意に意識が向く。
 其の時だった。
 道路に面した割と大きな窓が、爆発するかのように一斉に粉々に砕け散った。空中に細かにガラスの破片が飛び散り、其れとともに複数の人影が飛び込んでくるのが見えた。俺は其の光景をスローに捉えながら、すぐに小林君のシャツを掴んで此方に引き寄せテーブルの下に隠れた。そして、あろう事か其の人影は店内に侵入すると同時に銃撃を始める。其処ら中で甲高い悲鳴が沸き起こり、店内は忽ち混乱に支配された。止まない乱射が耳を突き、その度に壁やテーブルには真っ赤な鮮血が飛び散った。
 俺は小林君の肩を抑えて出来るだけ低くなるように指示する。
「良いか、小林君。絶対に顔を上げるなよ。」
「…は、はい… …」
「……竹田ッ!!」
 銃撃の中、テーブルに突っ立っていた木像が此方に向かって訴え掛ける。マキコもヨウコも腹ごしらえして準備は出来ているようだ。
「分かってるっつーの。ちょい待ってろ。」
 俺は奴等に見つからないようにトートバッグの中から護身用のトカレフを取り出して、辺りの様子を伺う。人影は全部で三人。身形は巷の半グレのようだ。大した連中には見えないが、挙動不審な所があるので正気ではないらしい。話にもならなそうな連中なので撃滅して問題なさそうだ。
 俺は二体の木像を掴みとった。
「……! ……な、なに?」
 マキコが俺の行動に少しく驚く。
「へへ。それじゃ、行くぜ。」
 俺は二体の木像を店内のはす向かいの方向へ軽く放り投げた。
「え?、え?」
 連中は皆突然投げられた物体に反応し、一斉に其方に眼を向けた。俺はそのタイミングで立ち上がり、其の中の一人に照準を合わせて拳銃の引き金を弾いた。ついでに左手の指輪のついた指をこすりつける。空中の木像から二体の制服少女が飛び出し、一散に襲い掛かった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

■竹田雷電(たけだ らいでん)

■31歳

■一週間の能力者の一人

■火曜日に電撃の能力を発揮する。二つ名は火曜日の稲妻(チューズデイサンダー)

■繋ぎ止める者(グラスパー)として絶姉妹を使役する。

■武器①:M213A(トカレフ213式拳銃)通常の9mm弾丸と電気石の弾丸を併用

■武器②:赤龍短刀(せきりゅうたんとう)

■絶マキコ(ぜつ まきこ)

■17歳

■炎の能力を持つ。二つ名はブチ切れ屋(ファイヤスターター)

■絶夫婦の娘(養子)であり、絶姉妹のうち姉。

■雷電と死闘を繰り広げた後、死亡。現在は式神として雷電に取り憑いている。

■武器:小苦無(しょうくない)

■絶ヨウコ(ぜつ ようこ)

■17歳

■氷の能力を持つ。潜在的には炎も操る事ができる。

■絶夫婦の娘(養子)であり、絶姉妹のうち妹。

■雷電と死闘を繰り広げた後、死亡。現在は式神として雷電に取り憑いている。

■武器:野太刀一刀雨垂れ(のだちいっとうあまだれ)

■真崎今日介(まさき きょうすけ)

■21歳

■死霊使い(ネクロマンサー)の能力を持つ。五体の悪霊を引き連れる。

■奥の手:影法師(ドッペルゲンガー)

■武器:鉤爪(バグナク)

■W.W.トミー(だぶる だぶる とみー)

■一週間の能力者の一人

■水曜日に水の能力を発揮する。二つ名は水使い(ウォーターマン)

■中学校の英語教師をしている。

■日本語が喋れない。

■武器:無し

■小林マサル(こばやし まさる)

■14歳

■トミーさんの助手。通訳や野戦医療に長けている。

■阿川建砂(あがわ けんざ)

■90歳 ※昭和26年時24歳

■宝石商として全世界を旅する。

■宝石を加工し、能力を向上させる品物を作る技術を持つ。

■山田(まうんてん でん)

■21歳

■死霊使い(ネクロマンサー)の能力を持つ。4体の悪霊を引き連れる。

■雷電を繋ぎ止める者(グラスパー)に設定し、絶姉妹を取り憑かせた。


■竹田三四郎(たけだ さんしろう)

■90歳 ※昭和26年時24歳

■雷電の祖父

■研究者として、かつて国立脳科学技術研究所に所属していた。

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■水川真葛(みずかわ まくず)

■※昭和26年時26歳

■国立脳科学技術研究所所属

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■序開初子(じょびら はつこ)

■※昭和26年時23歳

■国立脳科学技術研究所所属

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■夫を戦争で亡くす。子供が一人いる。

■不坐伊比亜(ふざ いびあ)

■※昭和26年時24歳

■国立脳科学技術研究所所属。所長の用心棒

■研究所設立以来の類まれなる念動力(サイコキネシス)を持つ。

その他

■一週間の能力者…一週間に一度しか能力を使えない超能力者の事。其の威力は絶大。

■獣の刻印(マークス)…人を化け物(デーモン)化させる謎のクスリ。クライン76で流通。

■限界増強薬物(ブースト)…快感と能力向上が期待できるクスリ。依存性有。一般流通している。

■体質…生み出す力、発現体質(エモーショナル)と導き出す力、端緒体質(トリガー)の二種。

■繋ぎ止める者(グラスパー)…死霊使いによって設定された、式神を使役する能力を持つ者。


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み