第56話 それぞれの断章#13
文字数 5,601文字
「… …… … …… …」
…… … …… … …どうする。今、所内には殆ど人は残って居ない。助けが来るなんてコトは恐らく皆無だ。また不坐のトキのように、俺がなんとか時間を稼ぎ、其の隙に序開を逃がすか?…… ………だが、こんな狭い空間で能力者の
俺は混乱の中、必死に打開策を探す。全身は既にぐっしょりと汗で濡れていた。其の時、男が不意に
「…… … …… …… …お前達は、何時まで、このような愚かな行為を続ける。」
「……! ……………」
男は侮蔑的な声色で、俺に向かって言葉を吐いた。
… ……どういうコトだ。此の男は俺と序開を殺す為に現れた刺客では無いのか?
然し今、男はハッキリと此の研究所を否定するかのような発言をした。
「…… … …… … ……」
「… …… … ……あ、あなたは、… ……一体、何者なのですか?… ……」
「… ……!…… …序開ッ… …」
眼に見えて怯えながらも、序開が必死で背広の男に問いかけた。俺は男の意識が序開に向かないよう、慌てて口を紡む。
「…… …あ、あんた… ……。……何故突然、俺達の前に現れた?… …… ……あんたは俺達を始末する為に現れたんじゃないのか?」
震える言葉を、なんとか絞りだすように吐き出す。俺の言葉を聞いた男は、序開に向けていた視線を再び俺に向けた。
「…… … ………。 ……始末だと?…… ………… …… …確かに、お前達のような外道のヤリクチには、正直、反吐が出る。自らの知的欲求を満たす為に、人の命を
「…… … …… …… …… …」
「… …… ……だが、私は、お前達のような殺人鬼とは違うッ。私は
最後迄
人間であり続けるぞッ」そう云った男は少しく感情的になり、手に持った
「…… …… ……わ、
「…… … ……なに?」
男が睨みつけるように序開を見た。
「…… ……… …
「… ……… …… ……」
何かを思案しているのか、暫くの間、男は押し黙ってしまう。其の間男はまるで、俺達の眼の奥を盗み見るかのように。凝っと視線を合わせていた。
「…… …… …。…… …… …ふん。…… …口ではどうとでも云えるだろう」
そう云うと男は漸く俺達から眼を離して、部屋の周囲に眼を向けた。俺達に対して何を仕掛けてくるでも無く、一向に此の男の思惑が掴めない。
「…… … …… …… … …
俺が床に視線を落としながら考えていると、唐突に男が問いかけて来た。
「…… …… …… …な、なんだ。」
「…… …… …最近、中学生くらいの男の子が、此処に収容されたりはしていないか。」
「… …… …… …男の子?」
「ああ。」
「… …… … ………此処三ヶ月程は、
「…… … …… …ちっ」
男は舌打ちをしつつ、
「…… …其の男の子を、探しているのか?」
俺は男の心情が気になり、つい口を挟んでしまう。
「… …… ……。…… …… ……お前達の仲間に、私の息子は、
「… …… …!」
「… … …… ……軍人共の仕業だ。… ……… …此の国で、最も野蛮で卑劣な奴等… ……」
人探し…… …岸と同じか。
「…… … ……
俺は咄嗟に、
「…… ……ああ。資料室には
全部読んだ
。其れに此処の分は粗方把握した。やはり「… ……… … ……」
「…… … …… …厄介なコトに、息子の居場所はかなり強力な
「…… …… …ま、待って呉れッツ。…… …あんたは一体何者だ?…… …名を教えて呉れッツ!」
自身でも予想外に大きく響いた声。其の声で、男が驚いたように俺の顔を眺めた。
「…… …… …… …」
其の瞬間、俺を見ていた男の表情が突然変化し、疑惑に支配されたような表情を見せる。
「…… … ……お前… ……… … ……
なんだ、其れは
?」「…… …え?… ………」
そして其の儘、男は序開にも顔を向ける。其の表情は明らかに困惑していた。
「…… …… …… …」
「……… …… … ………」
「…… …… …お前達、只の人間では無いな。… ………能力者か?」
「…… ……!」
「…… …」
「…… … …… …
俺は答えた後、序開の顔を見た。序開も不安げな表情を浮かべている。男が言い放った言葉は、不坐が云ったコトと同じ、詰まり『
「… …… …… ……」
「…… ………… …… … …。…… … …… ……そうか。…… ……… …… … … ………ふふ。… …… ……… …
そういう巡り合わせなのか
。…… ………… …… …マッタク、神の「…… … …… ……何?」
其の時、男の身体がゆっくりと透過し始める。俺と序開は其の非現実的な現象に、只眼を奪われていた。
「…… … …… …。…… ………」
男は俺達を
「…… ……… …… ……森山… …… …」
「……… … …… …」
「… …… ……… …私の名は、
***
『…… ……なんだって!?』
電話口で、
『……其れでッ、お前も、序開さんも、無事なんだな!?』
「ああ。…… …俺達に対して、危害を加えようとする様子は無かった。」
森山我礼に遭遇した後所内に戻った俺達は、空きの研究室を見つけて入り、阿川に電話をした。序開は
「ああ。奴は倉庫奥の小部屋に突然現れたんだ。お前に云われた通り、
『…… … ……何故、奴は研究所に現れたんだ?…… …研究所の破壊が目的では無いのか?』
「… … ……森山の息子が軍に捕らわれたらしく、其の手がかりを追って、と云うコトらしいが… ……。…… …… ……阿川、お前、何か心当たりはないか?」
『
「…… … …… ……」
『…… … …… …… …』
阿川は何かを深く考えるかのように、電話口の向こうで黙り込む。俺はゆっくりと其の長考を待った。
『…… …… …… …人質か。』
「……人質だって!?」
『… …… … ……軍と
「…… ………… …だが、だからと云って息子を人質に取る、と云うのは、少し度が過ぎていると思うが。」
『…… …軍の拠点が既に三つ、壊滅的な被害を受けていると聞く。軍ももう、なりふり構って居れなくなったんだろう。』
「…… … ………。… ……… … …… ……」
『…… …?… …どうした、竹田。』
俺は何時の間にか、受話器を握る手に力が入っているコトに気がついた。
「…… …… …俺は… …… …森山が、お前達の云うような狂暴な人間には、とても思えなくて。」
『…… … ……どういうコトだ?』
「…… …… …奴は、俺と序開に云ったんだ。自分は、
『…… …… …。…… ……… …そうか。だが、だからと云ってもう俺達にはどうにも出来ない。俺の寺の上層部も何やら最近、妙に浮足立っているようだ。何か軍と共同で画策しているのかも知れん。…… …マァ、俺のようなはみ出し者には、一切情報は入って来ないがね。』
「……… … …… ……」
俺は森山我礼の印象を語ったものの、其れは答えの出るような類の問いでは無かった。俺達は互いにうまく言葉を見つけられず、少しの間沈黙が続いた。其れから、阿川が話を切り替えるように口を開く。
『…… … ……其れで、
「……… …ああ、読んだ。」
『…… ……… …… …そうか。…… …其れが今、実際に此の国で行われている真実だ。』
「…… …… …… …」
『…… …… ……研究所で行われた施術は、最早数えきれない程の回数だ。そして、其の中で
「… ……其れで、幾人かは居るのか。今、軍で実際に活動している
『…… …いる。……現在、活動している人物は、二人だ。… …… ……一人は、お前も読んだ
「…… …… …」
『… ……… …そして、施術の成功例、と云う意味で云えば、もう一人。… ……お前も知っている男だ。… …… ……
「…… …… … ……… ……」
『… ……。… ……お前の中に様々な感情が入り混じっているのは、理解している。… …だが、前にも云ったと思うが… …… … …良いか、決して早まるんじゃないぞ。俺達のようなちっぽけな人間が、一人でどうにか出来るようなコトじゃない。…… …間違っても、早まって此の研究所をどうにかしようなんて、考えるんじゃない。相手は、お前が考えているよりも遥かに巨大だ。』
其の阿川の言葉を聞いて、俺は不意にある連想が思い浮かぶ。
「…… …… …… ……!… … …… ……まさか、森山は、一人で軍や此処のような研究施設を潰そうとしているんじゃ…… …。」
「…… …何故、そう思う」
「… ……森山は、何処か、此の研究施設に激しい憎悪を抱いていた。其れは勿論、俺達普通の人間が感じるような、一般的な感情なのかも知れないが。…… …軍を相手にするなんて、俺にはそんな大それたコトは不可能だが、森山の力を持ってすれば、或いは」
『…… … ……其れは、俺にも分からん。…… ……。…… …だが、今後のコトを少し、一緒に膝を突き合わせて話す必要があるかも知れん。…… …… …丁度良い。俺は三日後、
「…… ……分かった。序開にも伝えておく。」
『…… …… …兎も角、十分に気をつけろよ。…… …何か、
気
が良くない方に傾いているような気がする。… ……もしかしたら、お前達三人は既に監視されているかも知れん。… ……此れからは其れも念頭に入れて、慎重に行動するようにしろ。』