第4話 外道狩り④

文字数 3,711文字

 金髪ボブが僕の方を睨みつけながら口惜しそうに暴言を吐く。全く、此の少女は何処までも教育が成っていない。一体どのような劣悪な環境で育ったのだろう。奴の言動の全てが愚にもつかない。其れに比べて、もう一人の眼鏡少女の方は聡明で容姿も美しい。まぁ、今の此の面倒な状況は其の彼女の機転によって引き起こされた訳だが、其れは其れだ。
 僕は頭の良い女性が好きだ。僕の持論だが、頭脳の優秀さと容姿の端麗さは比例する。彼女だけを残して、他の下品な連中だけさっさと狩ってしまおうか。… …… ……あぁ、不可(いけ)ない。毎度の事ながら、能力(チカラ)を使うと欲望が取り留めも無く溢れ出てくる。能力(チカラ)を使った時の脳の変化なんて調べた事も無いが、もしかすると脳内では快楽物質(ドーパミン)でも異常分泌されているのかもしれない。だが兎も角、こういう時は何時も、()りたくて()りたくて仕方が無くなる。
「マキコッ」
「… ……何よッ!あんたッ、まさか、まだこの期に及んで戦うのやめろとか云うんじゃないでしょうねッ?!」
 男に向かって大声を上げた金髪ボブの両手には、何時の間にか小型の苦無(くない)が逆手に握られていた。そして、其の隣に降り立った眼鏡少女の手にも大きな刀が握られている。どうやら連中はやっと戦闘態勢になったと云うワケだ。良いだろう。此方(こちら)こそ、望むところだ。
「いいや、止めないケドさ。電球野郎の方は()る気みたいだし、良いんじゃねーかな。今更後には引けないでしょ。」
「… ……もう。そうならそうと、さっさと云ってよね。私はね、ああいうネチネチと人を弄ぶように殺しをする奴が、一番許せないのよ。」
「…… …えーっと。俺等の仕事って、なんでしたっけねぇ?… …。」
「… …イチイチ上げ足取んないでよね。絶姉妹(わたしたち)はそんな殺し(シゴト)の仕方はしないわ。アンタだって、そうでしょ?」
「まぁ、そりゃそうね。」
「なら… …」
 金髪ボブは此方を振り向いて、態勢を低くして身構え始めた。右手は胸の前、左手は腰の辺りで構えている。
「… …ちょい、待った。」
「もう、まだ何かあるの?!」
「じゃなくって、俺が云いたかったのは、あの女の子の事だよ。お前、あの子、助けたいんじゃねーの?」
「そりゃ、助けたいわよ。あんなの酷すぎる。」
「… …そっか。了解ー。其れだけ、確認したかったんだ。」
「… …… ……? …… …あんた、またなんか、企んでない?」
「むふふ。まぁ、まぁ。

って奴よ。… …じゃあとりあえず、奴の元に居る女の子を此方(こっち)に確保しようぜ。」
 金髪ボブと男が何やら話込んでいる。此の僕の獲物を助けるとか何とか、聞こえる限りはそんな事を話しているようだ。… …今しがた、僕の閃光(のうりょく)を目の当たりにしながら、平然と、まるで昨日のテレビ番組見た?とでも世間話するように。… …… …僕の能力等、まるで眼中に無いとでも云う風に。
 僕は地面に転がって呻いている女を見下ろした。自身の頭に血が上って行くのが分かる。こいつ等は確実に僕の事を馬鹿にしている。僕の戦力等、取るに足らないとでも云っているのか。
「…… …くッ、おのれ… …」
 僕は女から目線を上げて、未だ会話をしている連中を凝視した。もう一度だ。もう一度、命一杯の閃光(ストロボ)を浴びせてやる。そして今度こそ、此のサバイバルナイフで奴等を何度も何度も滅多刺しにして、引き裂いてやるのだ。だがそう思った瞬間、金髪ボブが右手を軽く動かし指先が空を切ったかと思うと、小さく発光した何かが此方に飛んでくるのが見えた。
 能力(チカラ)に集中していた僕は、其れが一瞬なんだか分からなかった。然しだんだんと近づくにつれて、其れが赤い光を発している事に気づく。なんということだろう。此れは炎だ。紛れも無く燃え盛る炎が、拳一つ分くらいの大きさで此方に向かって一散(いっさん)に飛んできている。
 咄嗟の事で動きを取る事ができなかった僕は、其れでも両手を身体の前で構えて防御の姿勢を取った。炎は無情にも構えた僕の両腕に着弾し、其の勢いで身体が少し仰け反った。
「…うぉッッ!!」
 例えるならば、此れは炎の球だ。僕は炎球の衝撃になんとか耐える事が出来たのだが、此れは炎なのである。僕の腕に着弾した炎は其の儘スーツに燃え移り、ウール生地を食いつくすようにメラメラと瞬時に広がり始めた。
「ウワッ、クソッ!!此のッ、此のッッツ」
 僕は其の場で愚かな糸人形のように両手両足をデタラメに動かして火消しに努めた。急いで消し去らないと此の儘じゃ丸焦げになってしまう。僕は一心不乱に身体を動かし、スーツのジャケットを脱ぎ捨てて急場を凌いだ。身体を取り巻いた炎は徐々に勢いを無くし、やがて消えた。なんとか、下半身にまで至る前に炎を止める事が出来たのは不幸中の幸いだった。
 僕は息を切らせながら、額の脂汗を拭った。心臓の動悸は未だ早鐘を打っている。上半身全体に少し痛みを感じるのは、おそらく軽い火傷を負ったからだろう。クソッ、此の僕がなんてザマだ。
 僕は其処でやっと我に返る事が出来た。其れから今の現状を把握する為に、急いで顔を上げ連中の方を見た。
 其処には変わらず連中が居たが、先ほどとは少し様相が変わっていた。
 金髪ボブは此方を見ながら、何時の間にか戦闘態勢を解いて腕組みをして顔を横に傾けて此方の様子を伺っていた。そして、その隣に眼鏡少女と男が居るのだが、二人の視線は地面に向けられていた。其処には、今まで此処に居たはずの獲物の女が横たわっていたのである。連中は僕が炎でのたうち回っている間に、何時の間にか女を横取りしていたのだ。
「…… …あんた、そんな炎くらいで何時まで騒いでんのよ。あんまり遅いから、ヨウコが女の子助けちゃったわよ?」
 金髪ボブが、僕に向かってウンザリしたかのように云う。其の隣では、しゃがみ込んだ男が獲物の女に向かって、何やら話しかけていた。
「… … …おーい。あんた、まだ生きてるかい?」
「……ハァ、ハァ… ……ハァ、ハァ…… …」
「… ……眼と指がやられてるけど、命に別状は無さそうだね。… …… …其れでさ、提案なんだけど、あんた、助け欲しくない?」
「…… ………ハァ、ハァ… ……ハァ、ハァ… ………」
 男の言葉を聞いて、金髪ボブが顔面に手を当てて二三度揺らした。
「やっぱり、そう云う事か… ……」
「… ……。 …… … …竹田さんって、人の気持ち、考えた事あります?」
 その後から眼鏡少女が冷静に言葉を続けた。男は少女たちのささやかな抗議に対して、二人を見上げながら抗弁する。
「るせぇよッ。こっちだって遊びでやってるワケじゃねーんだ。俺らの暗殺稼業(しょくしゅ)って特殊技能だろ?つまり、値段が張るのです。… ……最近、仕事なかったし、営業しなくちゃ食べていけないのッ」
「… …… …聞いた?ヨウコ。此のシチュエーションで、営業とか云える感性って、一体どうなの?」
「… …… …なんだか、どっちが外道なのか、分からなくなってきました… …」
「あッ!あーッ、そう。へー、お前等そんな事云うんだ。じゃあ、じゃあね。キミたちは、大好物のパフェも食べれなくなっても、良いんだね!?イチゴパフェもチョコレートパフェもその他あらゆるパフェも!あれ、ぜーんぶ、お金無いと食べれないんだよ!?あの甘くて超美味しいスイーツも、金輪際食べれなくなるんだよ!?其れでも良いの?ねぇ!」
 男の必死の言葉によって、突如、透明少女二人の背筋がぴんと伸びた。
「ぐぐぐ… ……。… ……其れは… …… …」
「… ………其れは、困り、マスね… ……」
「ふふん。だろー!?地獄の沙汰も金次第ってね。… ………という訳で、それじゃ、もう一度本題に戻るけどさ。… ……ねぇ彼女。あんたの地獄って、今此処だと思うぜ。で、其の地獄の境遇から救い出す力ってのが、俺たちにはあるんだ。どうだい?俺たちを雇わないか?其れ相応の値段さえ支払ってくれたら、あんたを救ってやる。」
「… ………ハァ、ハァ… ………ハァ、ハァ…… ……」
 驚いた。此の連中は傷だらけの女に向かって仕事の交渉をしている。やはり裏社会(あっち)の連中なだけある。発想が常軌を逸っていて、とてもじゃないがついて行けない。其れに何より… ……。
 地面に仰向けになっている獲物の女は、息も絶え絶え男の提案を聞いていたようだが、其れから何か話すように幾らか口を動かした後、二度頷いた。其れを見て男が声を弾ませて答える。
「おお、それじゃ、交渉成立って事で良いんだな!?」
 女は続いて二度、頷く。其れを契機として、男はゆっくりと立ち上がって此方を見た。
「よっしゃ。それじゃ、絶姉妹諸君。(わたくし)、竹田雷電の営業活動によって、契約は無事締結と相成りました。其れでは此れから速やかに、債務の履行と参りましょう。」
 男が胸の前で一つ手を叩く。債務の履行。其れはつまり、此の僕を倒すという事だ。
「さ、いむ?のリコウ?… …ん?」
「… ……えーっと、だから、依頼主のお願いを叶えるって事。」
「さッすが秀才。その通り」
「あー、そういう事か。オッケーッ。じゃあ、始めちゃって良いんだね。」
 そう云うとボブ少女は再び此方に向かって戦闘態勢をとった。


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