第23話 真崎の講釈

文字数 3,692文字

 真崎が突然素っ頓狂な声を上げる。竹田は其の声に大層イラついたようだった。
「るせぇよ、今日介。何を一人でそんなに(はしゃ)いでやがる」
「そうよ。竹田の二つ名が、一体なんなのよ」
 私たちが真崎の奇怪な叫びに戸惑っているにも関わらず、奴は尚も興奮が抑えきれないと云った様子で一人で話し始めた。
「い、いいや。此れが黙って居られるかってのッ。

チューズデイサンダーだぜ!?未だ謎の多い一週間の能力者の中で、

。奴が暗殺依頼(シゴト)をした後は、草木どころか建物も残らない!一年前の廃工場然り、その他の案件多々… …」
 私は真崎から眼を離し、竹田を見る。
「なんか、講釈が始まったケド。稲妻って青いの?」
「光ってるから… …白、じゃね?… …云われてみれば、青い時もあるかなぁ」
「チューズデイサンダーが一体誰なのかは誰も知らないッ。何故なら、出会った奴は残らず消し炭にされるからだ。ハンマーのように降り注ぐ無慈悲な青い稲妻は、其処に存在した全ての生命を真っ黒な消し炭へと変えてしまう。奴の眼の前に現れた奴は極悪人だろうと善人だろうと女子供だろうと、賢人だろうとお構い無し!奴の通り過ぎた後には、真っ黒に焼けただれた大地が残るのみ!」
「…あんた、そんなに見境ないの?」
 私は軽蔑するように竹田を見る。竹田はぶんぶんと首を横に振る。
「其の存在自体が謎に包まれた生ける伝説!暗殺者(アサシン)界隈ではウワサだけが独り歩きして、雷神や鬼神等の別称でも恐れられている!其の大超能力者チューズデイサンダーが、まさか、竹田さん!あんただったとはッ」
 あんただったとはッ、のところで真崎が右腕を真っすぐに伸ばして座っている竹田を指さした。そして、其の顔面は薄く高揚している。竹田は差された其の指先を真ん前から一手に引き受けた儘、アホみたいな驚きの表情を見せていた。其れから一瞬の間の後、おでこに手を当てて深い溜息をついた。
「…… …なんか、頭痛くなってきた… …」
 そんな降って湧いたような竜巻に滅茶苦茶(メチャクチャ)にヤられている竹田を見て、私は一寸(ちょっと)楽しくなってきたかもしれない。
「ブフフ… …。なんか、ヤバい信者が喋ってるよ。ホレ。なんか、云ってやった方が良いんじゃないの?チューズデイサンダー?ホレ、なんか云ってやれ。ホレ。ホレ。」
 私は項垂(うなだ)れている竹田に向かって冷やかしの言葉を投げてやる。
「やめてくれぇ…」
「ふふふ… …。あー!楽しい。てか真崎、あんた、もしかしてチューズデイサンダーの熱烈なファン?」
 私はもう少し真崎を泳がせようと思いついた。イイゾ。もっと喋れ。
(それがし)が語るのも恐れ多いが、云わば其の様な物である。」
 眼を瞑って何かを噛みしめるような表情をする真崎。
「でも、竹田の超能力(チカラ)って、そんなに凄いのかなぁ?私は、そんなに凄いとは思えないんだけど」
「お、おいッ!」
 竹田が、もう()めろ、此れ以上此奴(コイツ)を焚きつけるなと眼で訴えかけてくる。知るか。何時も偉そうにしてる仕返しだ。ブフフ。
「マキコ。お前はちっとも分かってない。竹田さんの超能力(チカラ)の凄さを」
 竹田を(おとしい)れて気分が良くなっている私に向かって、真崎がセンパイ面をして滾々(こんこん)と語り掛けるような口調で喋ってくる。其の姿が一寸(ちょっと)癪に障った。
「分かってないって何よ。私だって、生まれて此の方、超能力(チカラ)を使ってきたんだから。あんたなんかに云われなくても、超能力(チカラ)のコトくらい、ちゃんと分かってるわよ」
「いんや。お前はちっとも分かってない。そもそも、超能力(チカラ)は大きく二種類に分けられるって、其の事、理解してるか?」
「… ……に、二種類?」
「あぁ。」
 超能力(チカラ)が二種類に分けられる?一体どうゆう事だ。此奴が云ってる意味がよく分かんない。チカラの質… …ってこと?
 ムカつくが全く見当もつかなくて、思わず私は腕を組み天を仰いだ。仰いでみて、なんとなく考えた気分になったけど、気分なんかで何かが分かるワケでもないので、大人しく目線を落してみる。落とした目線が竹田とばっちり合う。竹田が瞬間的に私から眼を逸らす。
「卑怯者ッ!」
 不図横を見ると、何時の間にかヨウコを真ん中にしてトミーさんと小林の三人が、ボロボロの瓦礫に腰を掛けて此方を楽しそうに観覧していた。
「機関で習ったよー」
 黄色い歌声のようなワルツが聞こえてくる。かわいいなぁ。でも、そんな事、私は知らない。多分寝てて聞いてない。
「おめーみてーな、超能力(チカラ)が傑出してる奴ってのは、何も考えなくても才能でゴリ押しして何とかなっちまうから、理論が御座なりになっちまって不可(いけ)ねぇ。」
「悪かったわね」
「自分の超能力(チカラ)の性質ってのを確実に理解して、自分の中に

。そうする事で曖昧だった認識が確信に変わる。強い自覚が、俺たちの超能力(チカラ)をより強力なものにしていくんだ」
 真崎はここぞとばかりに、長々と講釈を垂れてくる。とても面倒臭い。
「あー、うぜぇー。機関じゃないんだよ、此処は。もっと簡潔に喋ってくんないかなぁ」
 一人悦に入るように喋っていた真崎が、ぱっと目覚めたように顔を上げた。
「あぁ、悪い。つい長くなっちまった。んじゃ、簡単に説明するぜ。超能力(チカラ)は二つに分類できるんだ。まず一つ目は発現体質(エモーショナル)。そしてもう一つが端緒体質(トリガー)
「え、えもー、しょなる。… …とりがぁー」
「そう。俺たちの超能力(チカラ)は此の二つに大別できるんだ。まず一つ目、発現体質(エモーショナル)はどういうものかと云うと、其の名の通り、身体からエネルギーを生み出す超能力(チカラ)を云う。」
「生み出す… …って云うと。つまり、私の炎とかー、ヨウコの氷とか?」
「そう。マキコの炎やヨウコの氷は、体調が好い限り、お前等の思いの儘に体内から無尽蔵に生み出す事が出来るだろう?其の才能が発現体質(エモーショナル)だ。」
「ふうん。… …此れが、発現体質(エモーショナル)ねぇ」
 私は指先に炎を灯しながら、真崎の話を聞いていた。指先についた炎が小さく揺れながらぼんやりと空気中の酸素を燃やして赤く光っている。
「で、もう一つの端緒体質(トリガー)。此れは、本人の内部にはエネルギーを生み出す才能はないが、世界の一部に触れる事で、其れを引き出す事ができる超能力(チカラ)だ。良く

って云い方をする。」
「引っ掛ける?」
「あぁ。例えば俺は… …」
 真崎が手を広げると、五体の悪霊が一斉に真崎の背後に現れた。
「死者の世界の一端に触れることで、こいつ等を現世に顕現させて操る事ができる。つまり、死者の世界に

コトが出来る超能力(チカラ)。此れが死霊使い(ネクロマンサー)だ。で、其れと同じように、其処にいるトミーさん。」
 真崎がばっと片腕を伸ばすと、五体の悪霊も真崎と全く同じ動きでトミーさんに手を伸ばした。
「彼の二つ名、水使い(ウォーターマン)って言葉が示す通り、彼は水を自由自在に操る事ができる。彼の才能も端緒体質(トリガー)だね。」
 ぽかんとしていたトミーさんの傍らに小林が近づいて、トミーさんの耳元で囁くように通訳すると、講釈の内容を理解したアメリカ人は、オオー、イヤァ!と大げさにお道化(どけ)て、大きな手でばちばちと拍手をした。
 成る程。トミーさんの超能力(チカラ)端緒体質(トリガー)なのか。あれほどまでに暴力的で大量な水を操る事が出来るけれど、あの水はトミーさんの身体から生み出された物ではない。とすると、例えば水が一切無い場所に行くと、最悪トミーさんは超能力(チカラ)が使えなくなるって事もあり得るのだろうか。
「で、だ。」
 真崎がぱちんと手の平を合わせて私たちの視線を集める。
「一週間の能力者ってのは、其の性質は全くもって不明だが、超能力(チカラ)が一週間に一度しか使えない代わりに、まるで其の抑制期間の鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように、暴力的な超能力(チカラ)を発揮する者たちの事だ。其の才能が発現体質(エモーショナル)であれ端緒体質(トリガー)であれ、超能力(チカラ)の出力は普通(なみ)超能力者(サイキッカー)では足元にも及ばない」
「あー、要点」
 また、真崎の話が長くなってきたので、私は茶々を入れる。
「… ……。こほん。… …マァ、長々と話してはみたものの。やっぱり俺はさ、マキコ。」
「はぁ」
「俺はさ、お前等みたいな発現体質(エモーショナル)が羨ましいのさ。やっぱ、超能力(チカラ)って、生み出してナンボじゃん」
「…… ……」
「で、そんな一週間の能力者の発現体質(エモーショナル)である竹田さん。チューズデイサンダーの圧倒的な超能力(チカラ)ってのは、やっぱり男のロマンなんだよね」
 私は真顔で横を向いて竹田を見てみる。竹田は、今までで見た事がないかのような、まるで梅干しがきゅうっと萎むかのような、なんとも云えない顔をしていた。
 いよいよもって竹田の体力が持たない、といった風情の奴に向かって、真崎が突然、地面に正座して竹田に正対した。突然の出来事に私も身体が仰け反る。
「… …兄貴!」
「… …は、…はい?」
 今度は竹田の口から素っ頓狂な声が出た。
「今日から、兄貴と呼ばせて頂きます。俺、これから一生懸命、兄貴について行きますので、此れからよろしくお願い致しますッ!今後ともよろしく!雷兄(ライニィ)ッ!」
大声で叫んだ真崎が、がばっと其の儘お辞儀をした。なんだか非常に面倒臭い。
そういうワケで、何がどうなったのか傍から見てても良く分からないけれど、どうやら竹田にはバタバタ(やかま)しい舎弟が一人できたようである。
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登場人物紹介

■竹田雷電(たけだ らいでん)

■31歳

■一週間の能力者の一人

■火曜日に電撃の能力を発揮する。二つ名は火曜日の稲妻(チューズデイサンダー)

■繋ぎ止める者(グラスパー)として絶姉妹を使役する。

■武器①:M213A(トカレフ213式拳銃)通常の9mm弾丸と電気石の弾丸を併用

■武器②:赤龍短刀(せきりゅうたんとう)

■絶マキコ(ぜつ まきこ)

■17歳

■炎の能力を持つ。二つ名はブチ切れ屋(ファイヤスターター)

■絶夫婦の娘(養子)であり、絶姉妹のうち姉。

■雷電と死闘を繰り広げた後、死亡。現在は式神として雷電に取り憑いている。

■武器:小苦無(しょうくない)

■絶ヨウコ(ぜつ ようこ)

■17歳

■氷の能力を持つ。潜在的には炎も操る事ができる。

■絶夫婦の娘(養子)であり、絶姉妹のうち妹。

■雷電と死闘を繰り広げた後、死亡。現在は式神として雷電に取り憑いている。

■武器:野太刀一刀雨垂れ(のだちいっとうあまだれ)

■真崎今日介(まさき きょうすけ)

■21歳

■死霊使い(ネクロマンサー)の能力を持つ。五体の悪霊を引き連れる。

■奥の手:影法師(ドッペルゲンガー)

■武器:鉤爪(バグナク)

■W.W.トミー(だぶる だぶる とみー)

■一週間の能力者の一人

■水曜日に水の能力を発揮する。二つ名は水使い(ウォーターマン)

■中学校の英語教師をしている。

■日本語が喋れない。

■武器:無し

■小林マサル(こばやし まさる)

■14歳

■トミーさんの助手。通訳や野戦医療に長けている。

■阿川建砂(あがわ けんざ)

■90歳 ※昭和26年時24歳

■宝石商として全世界を旅する。

■宝石を加工し、能力を向上させる品物を作る技術を持つ。

■山田(まうんてん でん)

■21歳

■死霊使い(ネクロマンサー)の能力を持つ。4体の悪霊を引き連れる。

■雷電を繋ぎ止める者(グラスパー)に設定し、絶姉妹を取り憑かせた。


■竹田三四郎(たけだ さんしろう)

■90歳 ※昭和26年時24歳

■雷電の祖父

■研究者として、かつて国立脳科学技術研究所に所属していた。

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■水川真葛(みずかわ まくず)

■※昭和26年時26歳

■国立脳科学技術研究所所属

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■序開初子(じょびら はつこ)

■※昭和26年時23歳

■国立脳科学技術研究所所属

■超能力(チカラ)の器としての才能を持つ。

■夫を戦争で亡くす。子供が一人いる。

■不坐伊比亜(ふざ いびあ)

■※昭和26年時24歳

■国立脳科学技術研究所所属。所長の用心棒

■研究所設立以来の類まれなる念動力(サイコキネシス)を持つ。

その他

■一週間の能力者…一週間に一度しか能力を使えない超能力者の事。其の威力は絶大。

■獣の刻印(マークス)…人を化け物(デーモン)化させる謎のクスリ。クライン76で流通。

■限界増強薬物(ブースト)…快感と能力向上が期待できるクスリ。依存性有。一般流通している。

■体質…生み出す力、発現体質(エモーショナル)と導き出す力、端緒体質(トリガー)の二種。

■繋ぎ止める者(グラスパー)…死霊使いによって設定された、式神を使役する能力を持つ者。


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