エースとして(VS上田第一)
文字数 3,040文字
日曜日。
裾花清流高校のグラウンドは早朝からにぎやかだった。
練習試合の相手である上田第一高校のメンバーがやってきているのだ。部員数はこちらより多く、20人はいるだろう。
裾花清流は部室棟から近い3塁側をホームベンチとしている。
ベンチの横にあるブルペンでは新海澪が快速球を投げ込んでいた。
礼がスターティングメンバーを読み上げた。
1番セカンド一ノ瀬桜
2番サード水崎美晴
3番レフト漆原礼
4番センター神村青葉
5番キャッチャー岩見悠子
6番ライト漆原優
7番ファースト赤羽夕日
8番ピッチャー新海澪
9番ショート天城奈緒
主審のかけ声とともに両チームが飛び出した。
ホーム前で向かい合う。
やはり高校野球の選手は中学の選手より体つきがしっかりしている。
並んだだけで鈴は圧倒された。
両チームが帽子を取って頭を下げる。
「お願いします!」の声が重なった。
試合の時には必ず来てくれる放送部の部員がアナウンスした。
相手のキャプテンが最初の打席に入った。
小柄な右バッターで、いかにもセーフティーバントが得意そうに見える。
澪が振りかぶる。
しなやかなモーションからオーバースローの第1球。
2球目もストレートだ。
外角低めの球を安堂が打つが、右方向へ切れてファールになる。
外角のストレートが続く。
これも低めいっぱいの厳しいコースだが、安堂がバットを出してカットしていく。
澪の膝が柔らかく沈む。
そこから弾丸のような球が投げ込まれた。
澪が投じたのは一転して内角、膝元へのボールだった。
外への厳しいボールが続いていたせいで、安堂は急な内角に対応できなかったようだ。手が出ずに見逃し三振となった。
伸びのあるストレートに加え、キレのあるスライダー、さらに球速差の大きいチェンジアップ。
澪の投球に上田第一のバッターが翻弄される。
2番をピッチャーゴロに打ち取ると、続く3番をスライダーで空振り三振に取った。
花岡里香がホームへ移動した。
対する裾花清流は1番の一ノ瀬桜が左バッターボックスに入るところだ。
桜が打席に入り、プレーがかかる。
澪は攻撃の行方をじっと見ていた。