お互いうまくいかないよね
文字数 2,713文字
山京学園 31|4
裾花清流 3 |3
先頭の奈緒がバッターボックスに入った。
再び1点のリードを許した裾花清流だが、誰もが、まだ充分逆転できるという自信を持っていた。
白山水穂が投げ込む。
奈緒はストライクを二つ見送った。
奈緒には相手を見る余裕がある。
そして3球目。
勝負に来た内角低めのスライダーをコンパクトにスイングすると、ボールが1、2塁間を破ってライト前ヒットになった。
9番、サード、水崎さん。
サードの
かなり前に出てプレッシャーをかけようという構えだ。
その背後では、ショートの小林
水穂が投げた。
美晴はバントの構えを解かない。
瞳がダッシュしてくる。
美晴が右腕を前に出しながらバントした。
バットを押し込んでいる上、ボールは芯を食っている。
ボールは高く飛び、瞳の真後ろに落ちた。
瞳がボールを拾ってファーストに送るがオールセーフ。内野安打になって、ノーアウト1、2塁に変わった。
二者連続のバントだ。
1塁側に転がったボールを拾ったのは水穂だった。
すばやくファーストに送ってアウトを奪う。
1アウト2、3塁。
裾花清流は逆転のチャンスを作った。
水穂の表情からどんどん覇気が消えていく。
いいようにかき回されて、メンタルが崩れかかっていた。
山京学園はファーストの色部薫をマウンドに送り、ファーストに浜野
重たそうな背中を見て、鈴はそう思った。
向こうも、思い描いていたピッチングからほど遠かったはずだ。
色部薫の投球練習が終わった。
薫は左のオーバースロー。
バッターは左打者の礼だ。
恵は右手を軽く振り、「打て」の合図を飛ばした。
ここは変にひねらず、堂々と打たせる。
セットポジションから薫が1球目を投げてくる。
ストレートがアウトコースの低めに外れ、ボール。
薫が踏み込んで2球目を投じる。
アウトコース、腰の高さにストレートが入ってきた。
快音が響いた。
礼は逆らわずレフト方向に打ち返した。
鋭いライナーがレフト線上に落ち、ファールゾーンへと転がっていく。
3塁塁審が「フェア!」と叫んだ。
まず奈緒がホームに返ってきて、美晴も2塁から速度を落とさず一気にホームイン。
5-4と裾花清流が逆転に成功、球場が歓声で揺れた。
礼は控えめにガッツポーズを見せながら、内心でホッとしていた。
もしチャンスをふいにしてしまったら……と考えると恐ろしかった。
裾花清流の女子野球部が初めて経験する、準決勝という舞台だ。
一打席一打席が重い意味を持つ。