今年は攻撃力もあるぞ!

文字数 1,680文字

それではバッティング練習を始めましょう。
わ、ピッチングマシンがすごく新しいやつだよ。

やった!

中学のやつ故障寸前だったからな~。

 ピッチングマシンには、さっきエラーして怒られていた水崎(みずさき)美晴(みはる)がついた。

 バッターボックスには漆原礼が入り、他の先輩達が守備につく。

 鈴、朝陽、まこは見学だ。

いきまーす!
声がちいせぇ――――ッ!!
いっきま――――すッ!!!

 ボンッ、とピッチングマシンからボールが飛び出す。

 礼が鋭いスイングでセンターに打ち返す。

 2、3、4球と、礼は鮮やかなライナーを外野に飛ばした。

ひええ、礼先輩めちゃくちゃうまいよ!?

鈴ちゃんなんで勝てたの?

失礼な。

鈴ちゃんの実力だよ。

アサちゃんのリードがよかったからだよ。

 礼は10球連続でヒットゾーンに打ち返し、バッターボックスを出た。マシンのストレートなら打ち損なうことはない、といった風格だ。

 続いてエースの新海澪が入る。

(ポコッ、ゴスッ、ガキンッ)
(……うう、やっぱり礼みたいには打てないわ)
 澪がヒットゾーンに飛ばせたのは10球中1球だけだった。
いい加減打てるようにならないと……。

澪は投げる方を優先すればいいよ。

打つ方は私らの仕事だからさ。

でも、ピッチャーは9人目の野手って言うじゃない?

それ気にしすぎだから。

ほらほら、早くブルペン行ってウォーミングアップしといて。

 キャッチャーの岩見悠子が右打席に入った。

 初球を左中間に打ち返し、次の球はセンターオーバー、その次はライト線の長打コースに鋭く放つ。

(相方があれだけ打つんだもん。気にならないわけないじゃない)

 10球目。

 悠子のフルスイングから放たれた打球が、レフトのテニスコートのフェンスを越えていった。

さ、柵越え……!

私、練習でもあんなの打てたことないよ……。

あ、アサちゃんは守備の名手だから大丈夫だよ!

(うわー、全然フォローになってな~い)
お願いっ、しま――――す!!!
(ビクッ)
(……完全に奈緒恐怖症になってる。そろそろフォローいれないとまずそうね)

 天城(あまぎ)奈緒は左バッターだ。

 後輩をびくつかせる大声とは裏腹に器用な打撃を展開する。

 ライン上や内野手の頭を越すような打球を広角に打ち分けてみせた。

相変わらず迫力と打撃内容が合ってないっすわー。

うっさい。

桜だって似たようなバッティングするじゃん。

いやいや、あたしは最初から技巧派で通してるから。

誰かさんと違って無駄に迫力出さないし。

このヤロウ、無駄にとか言うな!

 一ノ瀬桜も左バッターである。

 彼女も奈緒と同じように器用な打撃を披露した。

 続いて二年生だ。

 ピッチングマシン担当だった水崎美晴が最初に入る。

ういーっす、こっからは漆原妹がマシン担当でーす。
なんかだるそう……。
礼先輩の妹さんもいるんだね。

 二年生が順番に打撃を行っていく。

 そこから感じられたのは、みんな器用だということだ。

 岩見悠子のようなパワーヒッターもいるが、基本的には確実な単打を打てる選手が多い。

 漆原礼の妹――漆原(ゆう)もまた、姉と同じく低い弾道でヒットを飛ばす選手だった。

1年生の皆さん、はじめまして。
 最後に打つはずの先輩が、ベンチで見ている三人のところにやってきた。
2年の神村(かみむら)青葉(あおば)と申します。今のところ4番を打たせてもらっておりますので、以後、お見知りおきを。
よろしくでーす(……言葉遣い丁寧すぎない?)

 青葉が右打席に入った。

 初球――快音。

 いきなりレフトのフェンスを越えていった。

ええ――――っ!?

口調のわりにホームランが豪快すぎる!

 青葉はさらに長打を連発する。

 しかも振り回している印象はなく、的確に芯で捉えている。

これは、4番も納得。

……だね。

正直、びっくりしてる。

守備の裾花清流ってイメージが崩れていく……。

打撃力めっちゃ高いじゃん!

その通りです。

今年は打つ方にも力を入れていますからね。

心強いです!
(一ノ瀬先輩とポジション争い……? 今年の夏、絶対レギュラー無理だ~……)
 先輩達の技量は、夏の躍進を予感させるに充分だった。
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登場人物紹介

朝山 鈴(あさやま りん)

裾花清流高校1年生。右投げ右打ち。ピッチャー。

サイドスローの投手。しなやかな肩と肘を使った柔軟な投球を得意とする。中学時代は味方の守備に足を引っ張られ、試合に勝つことができなかった。

外浦 朝陽(とのうら あさひ)

裾花清流高校1年生。右投げ右打ち。キャッチャー。

中学時代に鈴とバッテリーを組んでいて、朝山と朝陽でサンライズ・バッテリーと呼ばれていた。

結城 まこ(ゆうき まこ)

裾花清流高校1年生。右投げ左打ち。セカンド。

ピッチャーのモーションを読み取り、持ち前の俊足で盗塁を確実に決める。だいたいテンションが高い。

広野 皐月(ひろの さつき)

裾花清流高校1年生。右投げ左打ち。ショート。

打撃、守備ともに堅実なプレーを重視している。控えめであまり目立ちたがらないタイプ。

高池 凪(たかいけ なぎ)

裾花清流高校1年生。右投げ右打ち。サード。

中学最後の大会で左腕を負傷し、まだ回復しきっていない。

松原 雅(まつばら みやび)

裾花清流高校1年生。右投げ左打ち。

バットコントロール能力が高くボール球でもヒットにできる技巧派。外野ならどこでも守れる。

漆原 礼(うるしばら れい)

裾花清流高校3年生。左投げ左打ち。レフト。

野球部キャプテン。身体能力が高くセンス抜群。クールな振る舞いから、校内では男女問わず隠れファンが多い。

新海 澪(しんかい みお)

裾花清流高校3年生。右投げ右打ち。ピッチャー。

チームのエース。速球と緩いボールを使い分ける本格派右腕ながら、肩の調子に不安を抱えている。

岩見 悠子(いわみ ゆうこ)

裾花清流高校3年生。右投げ右打ち。キャッチャー。

正捕手で長距離バッターでもある。相手の様子を見ながら配球を決め、野手に守備位置の指示を出すチーム随一の頭脳派。

一ノ瀬 桜(いちのせ さくら)

裾花清流高校3年生。右投げ左打ち。セカンド。

俊足巧打、広い守備範囲を持つ攻守の要。ハイテンションで味方を盛り上げたりからかったり忙しい。

天城 奈緒(あまぎ なお)

裾花清流高校3年生。右投げ左打ち。ショート。

広大な守備範囲を持ち、一ノ瀬桜とのコンビで鉄壁の二遊間を構築している。出塁率も高い。

神村 青葉(かみむら あおば)

裾花清流高校2年生。右投げ右打ち。センター。

2年生ながら4番を任されている。商店街のアイドル的扱いを受けているのでおっさん達が試合の応援に駆けつけてくる。

赤羽 夕日(あかばね ゆうひ)

裾花清流高校2年生。右投げ右打ち。ファースト。

当たればでかいロマン砲。一方、守備は堅実で難しいバウンドもきっちり処理する。

漆原 優(うるしばら ゆう)

裾花清流高校2年生。左投げ左打ち。ライト。

キャプテン漆原礼の妹。やる気の波が激しく、いつもはぐだっとしているが試合では頭脳をフル回転させてプレーする。

水崎 美晴(みずさき みはる)

裾花清流高校2年生。右投げ右打ち。サード。

バント職人。小柄だが強肩を持ち、深い位置からでもアウトが取れる。

緋田 恵(ひだ めぐみ)27歳

裾花清流高校野球部監督。

最初に赴任した高校を県ベスト4まで連れていくなど指導力の高さを評価されている。裾花清流高校は赴任2校目で2年目。

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