奪三振合戦
文字数 3,467文字
火曜日の上田県営野球場は、快晴でいいコンディションだった。
まもなく第二試合が始まろうとしている。
第一試合では、シード校の
二人は投球練習を終えて、ベンチの中で話し合っている。
ブルペンには漆原優が入っている。
今日は接戦になることも充分に考えられ、優にも出番があるかもしれない、と緋田恵が言ったのだ。
優が投球練習を終えると、礼が全員を集めた。
先発メンバーはいつもと同じだ。
礼が開桜のオーダー表を見せる。
裾花清流が後攻だ。
1(遊)日夏愛衣 3年
2(二)山中柚希 2年
3(三)清永香奈恵 3年
4(一)草壁真尋 3年
5(右)太刀川雪乃 1年
6(捕)浅上桐子 3年
7(左)館岡美鶴 3年
8(中)矢口三奈 2年
9(投)川船美咲 3年
両チームが整列し、主審のかけ声で飛び出す。
「お願いします!」と挨拶を交わし、裾花清流が守備に散った。
澪が投球練習を丁寧に終わらせる。
プレイがかかると、澪が迷いなくストレートを投げ込んだ。
初球が外いっぱいに決まった。
「ストライク!」と主審が大声を出す。
澪が外のボールゾーンへスライダーを投げる。
そこからクイッと変化し、外角低めいっぱいにボールが決まった。
主審の右手が挙がる。
先頭打者を見逃しで三球三振に切った。
澪はインコースへのストレート、同じコースへのチェンジアップを使ってここも2球で追い込んだ。
肩が軽く、制球が抜群に冴えている。
今日の勢いなら5回まではいけるかもしれない――澪はそう思う。
澪は初球、外のストレートから入る。
清永
続くインコースのストレートもファールになった。
澪はアウトコースへスライダーを投げ込む。
清永のバットが出かかったが、ギリギリで止まった。判定はボール。
澪がうなずき、強靱なヒザを活かしたフォームから全力のストレートが放たれる。
清永がスイングに来たが、バットはボールの下を通り、空振りに終わった。
三者連続三振に場内が湧き上がる。
プレイがかかる。
美咲がしなやかなフォームからストレートを投じる。
桜が見送った。ストライク。
2球目もストレート。
スイングするが当たらない。これで追い込まれた。
ここで桜は少し肘を畳んだ。
――スライダーで仕留めに来る。
それを想定した。
美咲は最後まで力押しだった。
外のストレートを2球続けたあと、インコースの胸元いっぱいにストレート。スライダーを意識していた桜は、快速球に対応しきれず中途半端なスイングで空振り三振に倒れた。
鈴と澪が話している間に礼と美咲の対戦が始まっていた。
初球は外にはずれ、2球目は入ってストライク。
3球、4球と礼がストレートをファールにする。
礼はよりいっそう神経を研ぎ澄まして投球を待つ。
美咲がモーションに入った。
ボールが指から離れる。――やや遅い。
礼はスライダーを確信して振りにいった。
肘を畳んでコンパクトにスイング――
変化は礼の予想以上だった。
なめらかな軌道で、礼のバットの下に滑り落ちていった。
両チームのエースが、初回をともに三者連続三振。
球場内は早くも異様な雰囲気に包まれ始めた。
とんでもない試合になるのではないか。
そんな予感を、どの観客も感じ始めたのだ。
マウンドに立ち寄った礼が、澪に声をかけていった。
澪はその背中を見送って、大きく深呼吸をする。