試合後、裾花清流のメンバーは球場の外で固まっていた。
応援団への挨拶も終わり、リラックスした雰囲気に包まれている。
創部史上初のベスト4を勝ち取ったとはいえ、岩見悠子の負傷もあり、手放しで喜べるという雰囲気ではなかった。
でも、1点だよ。今日の展開だったら充分な仕事だったと思う。
そう、真修館の中軸相手にそれだけの失点なら上出来よ。
裾花清流の横を、真修館のメンバーが歩いて引き上げていく。
まだ泣いている部員もいた。
次は山京学園だと思いますけど、頑張ってくださいね。
キャプテンの西森千鶴は、それだけ言って戻っていった。
もう一人、4番の波河桃絵もやってきた。
うちのキャプテン、なんか失礼なこと言いませんでした?
うちの分までよろしくお願いします。山京学園には練習試合でもよく負けてましたから。
まあ、ほぼそのままですね。投手陣は継投を使いますけど。
色んなタイプを想定した練習をしておいた方がよさそうですね。
試合、見に行きますね。あとうちのサードがすみませんでした。
あれはプレーの中のことですし、気にしないでください。たぶんそこまで重傷ではないと思います。
だといいんですけど。……それじゃあ、またどこかで。
ごめんごめん。あとのことは任せてきたよ。あの人たちには絶対、山京学園を倒してほしいし。
真修館の部員たちはどんどんバスに乗り込んでいった。
ミオっちからホームラン打つくらいだし、大学でもやるんじゃない? じゃないともったいないよね~。
いやいや、誰もお前のこと責めてないから。青葉はしっかり仕事してると思うぞ。
そ、そうですよ! 青葉先輩は毎試合きっちり打ってるじゃないですか!
ま、たまにはそういう日があってもいいじゃん? 当たればでかいとか、あんまり言われたくないし。
うん、めっちゃよかったよ。ってことでそろそろ6番と7番入れ替えるべきじゃない?
この前、私に任せろって言ってたのはなんだったのよ。
それ投手としての話だし。下位打線の方がプレッシャーかからなくて楽なんだよね~。
はいはい、とにかく次の試合に向けて意識を切り換えていきましょう。ここまで来たら優勝して神宮に行こうじゃない。
ま、やれるだけのことはしたいよね。憎たらしいあの子の悔しがる顔も見たいでしょ。
裾花清流が歴史的勝利を挙げる一方、長野オリンピックスタジアムでも準々決勝が行われていた。
山京学園 100 012 2|6
諏訪水照 000 002 |2
山京学園のエース、雪原風日は疲れた表情も見せずマウンドに立っている。
諏訪水照のトップバッター、戸張真冬はストレートに対し懸命に食らいついてファールを重ねる。
風日の右腕からフォークボールが放たれる。
真冬はついていこうとするが、バットがわずかに届かなかった。
「ストライクスリー」のコールが響き、6-2で試合が終わった。
それでも、みんな全力を出し切ったのです。最後まで堂々としていましょう。
両チームが整列し、挨拶が終わる。
場内は温かい拍手で包まれた。
試合後、山京学園のベンチ裏。
背番号17をつけた白山水穂が、キャプテンの九条真帆に近づく。
裾花清流が真修館に勝ったらしいですよ。ラッキーじゃないですか。
別にラッキーじゃない。真修館を倒したってことはそれだけ勢いに乗るってこと。気は抜けないでしょ。
でもまあ、名前で警戒しすぎるってことはなくなるね。去年の秋もうちがコールドで勝ってるし。
まあね。帰ったら映像をチェックする。早めに対策を立てよう。
毎年ベスト4までは順当に勝ち上がる山京学園。
それだけに、選手たちにも精神的な余裕があった。
(それにしても、マジでここまで来るなんてね。うちらが勝ったら凪ちゃんどんな顔するのかな。ちょっと楽しみ)