鈴のために
文字数 3,146文字
両チームのエースがさらに1イニングずつをきっちり抑える。
裾花清流 210 0|3
東 御 101 0|2
守備を終え、ベンチに戻ってきた礼が声をかける。
チームの雰囲気はよかったが、澪の表情だけが冴えない。
ぶつぶつ文句を言いながら、奈緒が左打席に入った。
プレイがコールされる。
鈴は、ベンチから味方の攻撃を見つめている。
快音が響き、全員がグラウンドを見た。
奈緒の打球が左中間を破ってツーベースになった。
白鳥月子は慎重な投球を心がける。
しかし初回のデッドボール未遂と鮮やかなレフト前ヒットのイメージがあり、警戒が必要以上に強くなる。
初球でストライクを取ったものの、連続で際どいコースが外れてスリーボール。
しかし低めを狙ったスローカーブは下に行きすぎ、ホームベース上でワンバウンドした。湯浅姫香がしっかり受け止めるが、これでフォアボール。
ノーアウト1、2塁になった。
白鳥の初球ストレートに対し、美晴が送りバントを試みる。
内角に来たボールだが、素早く体勢を引いて1塁方向、線上に転がす。ボールは切れそうに見えたがラインは割らない。
白鳥が出てきて取り、1塁をアウトにする。
ワンナウト2、3塁。
初球、外角にストレートが外れてボール。
礼はこの球をミスリードと読んだ。次の変化球のために、緩いボールをあえて見せてきた。
礼はスローカーブに狙いを絞る。
外寄り低めに来たスローカーブを、礼が流し打ちする。
打球がサードの頭を越え、サード、ショート、レフトの真ん中に落ちる。
奈緒が打球を確認してからスタートしてホームイン、2塁から見ていた桜が一気に3塁を蹴ってホームまで返ってきた。
ここで5-2と点差が開く。
ワンナウト1塁で4番、神村青葉がバッターボックスに入った。
鳴り物の音が急に増えて、スタンドが騒がしくなる。
吹奏楽部がアフリカンシンフォニーの演奏を始める。
それに合わせて、青葉応援隊がおはじきの入ったペットボトルを振って鳴らす。
青葉がフルスイングで打球をレフトへ運ぶ。
深めに守っていたレフトの頭上を越えて、ワンバウンドでフェンスに当たる。
1塁ランナーの礼は打球を目で追って2塁、3塁を一息に蹴っていく。
ホームイン。
スコアは6-2に変わる。
青葉も2塁まで行き、1塁側スタンドが大騒ぎだ。
鈴は足の震えが治まっていくのを感じていた。
6番の優がフォアボールを選んで出塁。
ワンナウト1、2塁で赤羽夕日に打順が回る。
白鳥月子の投球に気迫がこもった。
力のあるストレートが内角低めに決まってストライク。
次のボールも同じコースに投げ込んで夕日の空振りを奪う。
スタミナの計算を考えない、全力の投球だった。
夕日のバットを持つ手に力がこもる。
白鳥がモーションに入った。
外角のチェンジアップに夕日が体勢を崩された。
打球がファーストへ飛ぶ。
ファースト土屋が捕球してセカンドへ転送、2塁フォースアウト。ベースカバーに入ったショート塩入がファーストに送り返してくる。夕日が1塁を駆け抜けるより先に、ファーストミットにボールが収まっていた。
東御女学院の守備陣が引き上げていく。
一方、ダブルプレーを食らった夕日は落ち込んだ表情でベンチに戻った。
もう一回だけ深呼吸すると、鈴はベンチを飛び出した。
まっすぐマウンドへ向かう。
場内にコールされる自分の名前を聞きながら、鈴はロージンバッグに触れる。
大丈夫。
できる。
「よしっ」と声を出してから、ホーム、悠子の方に向き直る。
悠子が胸を叩いた。
自信を持ってこい、と言ってくれている。