超攻撃型打線、炸裂!
文字数 3,947文字
山京学園 3|3
裾花清流 |0
白山水穂の3球目。
インコースに食い込んできたスライダーを桜が打ち返した。コンパクトなスイングでライト前に持っていく。
先頭バッターが出塁して、裾花清流の応援団も勢いづく。
緋田恵が礼にさりげなく話しかける。
礼は頷き、左バッターボックスに向かった。
相手の狙いが読み切れず、山京学園のキャッチャー、
少しの間があった。
水穂がストレートを投げた。
礼がすかさず送りバントの構えを取る。
城取瞳がダッシュをかけた。
礼は外角のボールに当てにいくが、バットの先端やや上に当たってファールボールになった。
大幅な打順の入れ替えにも関わらず、2番バッターにはセオリー通りの送りバント。これならばいつも2番を打っていた水崎美晴でも大差ない。
帯刀友里はますます疑惑を深めた。
再び、城取瞳が前進してプレッシャーをかけてくる。
水穂がモーションに入った。
礼がバントの構えに移る。
バントの構えを見せかけた礼が、バットを引いた。
最小限の動作でスイングしてスライダーを捉える。
打球は瞳の真横を抜けてレフト前に転がっていった。
友里はようやく裾花清流の狙いを理解した。
バントの構えを見せておき、投手のモーションに合わせて構え直し、普通にスイングするのがバスターだ。
サードのプレスを抜くのは難しいと判断した恵は、最初からこの手段を考えていた。だが、普通にバスターするだけでは読まれる。そこをどうするかが問題だったが、チームでもトップクラスの技巧派である礼ならできると信じていた。
初球のバントを、プレッシャーに押されて失敗したように見せかけた。これで山京学園は次も送りバントを狙ってくると考え、サードのプレスを継続した。
そこを、礼が速い打球で打ち抜いたのだ。
恵のサインに、青葉が頷く。
右バッターボックスに青葉が入り、プレイがかかった。
青葉のセーフティーバントは、外角のボールをうまく先端に当てて勢いを殺していた。
サード方向に弱い打球が転がる。
強打者に備え、やや下がっていた瞳が完全に意表を突かれた。
マウンドを駆け下りた水穂が素手でボールを拾い、1塁に送球。際どいタイミングだったが、判定はアウトだった。
1アウト、2、3塁に変わる。
友里は思考がまとまらず悩まされる。
悠子への2球目。
これは外のスライダー。
悠子のバットから快音が響く。
ライナー性の打球がライト線上に落ちた。塁審が「フェア!」と叫ぶ。
余裕を持って桜がホームイン。
2塁ランナーの礼も3塁を蹴っていた。
回り込んだライトから返球が飛んでくる。
礼は足から滑り込みながら、左手で撫でるようにホームベースに触れた。
主審が両手を大きく広げ、「セーフ!」とコールすると、裾花清流のスタンドは大歓声に包まれた。
バックホームの隙を突いて、悠子が2塁を陥れようとしていた。
友里が2塁へボールを送るが、スライディングした悠子の足がわずかに早かった。これまたセーフで1アウト2塁。裾花清流はまだ得点圏にランナーを維持する。
内野手全員で集まれるタイムは、1試合につき3回まで。山京学園は、まだ集まるタイミングではないと判断している。
それでも心配になったようで、セカンドの九条真帆がマウンドに行った。
水穂がサインに頷き、1球目を投げ込む。
優がバントの構えを取る。
走り出しながら、バットを握った左腕を伸ばしてちょこんとボールを当てていく。
とっさに飛び出してきたファーストの色部薫がボールを拾う。
3塁を見るが、悠子はすでに滑り込んでいる。
結局、1塁に送球してツーアウト3塁と状況を変えた。
このツーアウトは、どちらも送りバントをアウトにしたものだ。打ち取った当たりは一つもない。それもまた、水穂の精神に影響を及ぼしていた。
インコースを狙ったストレートが、やや真ん中寄りに入る。
夕日は果敢に振っていった。
芯を食った打球は鮮やかに三遊間を破った。
悠子がホームイン。
3対3の同点となり、球場を包む熱気は早くも最高潮に達しようかという勢いになった。
7番の鈴が空振り三振を喫してスリーアウトチェンジ。
しかし、守備に出ていく裾花清流ナインの表情は自信に満ちあふれていた。