ピッチングで引っ張るのがエースだから
文字数 3,233文字
山京学園 310|4
裾花清流 33 |6
3回ウラ。
先頭打者の優が、色部薫の初球を打ち返す。
鮮やかなセンター返しで出塁した。
夕日が意気揚々と打席に入った。
一打席目でタイムリーを放っているだけに自信たっぷりだ。
サードの城取瞳はやや前進。
これまでに比べると、明らかに迷いが見られる。
その中で、薫が投球モーションに移った。
――夕日がバットを引いた。
ここもバスターだ。
膝元に入ってきたスライダーを夕日がはじき返した。
痛烈な打球が三遊間を襲う。
ショートの小林
ノーアウト1、2塁と好機が広がった。
鈴は白山水穂の投球にまったく合わせることができず、三振に倒れている。
それを考えて、山京学園の内野陣はバント警戒のシフトを敷いている。
恵がサインを出す。
鈴、優、夕日の三人がそれぞれヘルメットのツバに手を当て、「了解」の返事を出す。
薫がストレートを投げ込む。
打球はピッチャーの真正面に転がった。
普通のバントなら3塁アウトのタイミングだが、投球と同時にスタートを切っていた優は、すでにサードベースに滑り込んでいる。
捕った薫は1塁に送球するしかなかった。
1アウトで2、3塁。
裾花清流はここでも絶好のチャンスを作った。
ここで、山京学園の内野陣がマウンドに集まった。
これ以上点差を広げられれば厳しい。
鈴の調子が上がってきている上、まだ新海澪というエースも控えているのだ。
点差が広がれば、それが攻撃時のプレッシャーにもなる。
水穂が、ブルペンで投球練習をしている雪原
監督の言葉を聞き、風日がまっすぐマウンドへ向かう。
奈緒はベンチの恵を見る。
恵がササッとサインを出した。
奈緒は左打席に入り、センターに向かってバットを伸ばして見せた。
もともと上位打線を打てるだけの実力が、奈緒にはある。恵が自分の能力に託してくれたことを、奈緒は嬉しく思った。
風日がセットポジションから1球目を投じた。
快速球がアウトコースの低めいっぱいに決まり、ストライク。帯刀友里のミットも重い音を響かせた。
アウトコースにフォークボール。
奈緒がスイングするが、空振りで2ストライクと追い込まれた。
インコース低めのストレートを、奈緒はなんとかファールにした。
かなりの球威だ。手がしびれた。
風日は不敵な笑みを浮かべた。
クイックモーションからの4球目。
無駄のないフォームから放たれたのは、緩いチェンジアップだった。
完全にタイミングを外され、奈緒のバットが空を切る。
主審の右手が挙がった。
美晴に対し、山京学園バッテリーはストレートで攻める。
初球、2球目とストレートを続けた。
右バッターの外角いっぱいにコントロールされたボールに、美晴はなんとか合わせていく。
2球ともファール。
追い込まれはしたが、美晴は落ち着いていた。
快音が響いた――が、すぐに別の音が続いた。
ライナーがセカンド、真帆のグローブに収まっていた。
鈴が勢いよくマウンドへ向かっていく。
初回は自信なさげだった足取りが、今は頼もしくさえ見える。
恵はそこに安心感を覚えていた。