裾花清流、一致団結！
文字数 2,697文字
……というわけで、高池さんから診断書の提出があるまでは練習を止めることをお母さんと約束しました。
翌日。裾花清流女子野球部の部室には、高池凪以外の全員が集まっていた。凪は今日、学校を休んでいる。
鈴は昨日の病院での出来事を、要約してみんなに説明したところだった。
鈴ちゃん、見かけによらず行動力あるね～。
事情はわかった。とりあえずは凪の回復待ちだな。
はあ……。
まこちゃん、どうしたの？
あたしさ、凪はただ上から目線なだけの嫌な奴なんだって思ってた。そんな事情があったなんて知らなかったよ。ちょっと申し訳ない感じ……。
ま、自分から嫌われるようなこと言ったりしてたからしゃーないよ。過去なんて言ってもらわないとわかりっこないもん。
それにしても、意外でした。
何が？
優先輩が真剣な顔でビシビシ言うの、初めて見たので。
そういやそうだよね。優ちゃんて基本ダウナー気味じゃん？
私としては、感情見せてくれて嬉しかったわ。
ちょっと～、みんなしてニヤニヤしないでよ～。
優にしてはめずらしく、ちょっと恥ずかしそうに下を向いた。
凪ちゃんに言ったじゃん、無理して潰れた子がガールズにいたって。私が中３の時でさ、比較対象の誰かさんもチームにいなかったから、けっこう本気で練習やってたんだよ。
……いたとしても、全力出してほしいところだけどね。
でもさ、その子が故障してチーム辞めたの見て、根性論でただ練習するだけじゃ意味ないなって思い始めたんだよね。監督にも直訴したくらいだからね。
私もガールズ出身だけど、中央ガールズの練習はすごく厳しいって噂を聞いたことあるわ。
ぶっちゃけるよ。私はさ、練習の量じゃなくて質が大切だと思うんだよね。あのチームの練習ってきついだけで上達してる実感があんまり感じられなかったんだよ。
――っていう内容を監督にぶちまけたのね。それでその後、ガールズの上層部も優の意見を支持する派としない派に別れて会議をしたらしいわ。
うおお、革命じゃないっすか！
すごい……。優先輩、ダウナーなのに情熱的！
（褒めてるんだよな、それ……）
まあ要するにさ、意味もなく無理をしたって成長はできないって私は悟ったわけよ。結局監督も方針を変えて新しい指導方法を勉強し始めて、チームが変わってったんだよ。そしたらみんな、前より練習中の笑顔も増えてさ、全体が明るくなったんだ。
ああ、そっか。昨日高池さんのお母さんが言ってたように――
そう、凪ちゃんだけは変化しなかった。無理してでも上手くならなきゃって姿勢は昔のままだった。だからさ、私もさすがにイラッときたんだよね。それが態度にモロに出ちゃったわけで。
チーム方針を変えさせるまでやった身なら、凪の行動を怒るのも当然だよね。
本当に、やる気のアップダウンが激しすぎるのよ。
ちなみに今日はやる気ないよ。
さあグランド出ましょうか。
うおい!? 待った、引っ張るなこの断崖絶壁～！
だからそういうことを大声で言うな！
漆原姉妹が先にグラウンドへ出て行った。
まあ礼の胸が平たいのはともかく、凪が改心したっていうなら一安心だね。
今の前置き必要だったか？
それもこれも、鈴ちゃんや朝陽ちゃんが頑張ってくれたからこそね。まずはあの子が出てきたらちゃんと話をして、もう一回、みんなでチームを作っていきましょう。
あたしも、もうちょいラフに話しかけてみるかな。
…………。
水崎さん、どうかされました？
あっ、ううんなんでもないよ。……ただ、凪ちゃんの視線から険しさがなくなるのかなって思ったらちょっと残念な気も……。
……え？
青葉、それ触れちゃダメなやつだから放っときな。
裾花清流のメンバーはそれぞれ準備を終え、グラウンドに飛び出していった。
………………。
…………。
……。
翌日。
ゴールデンウィーク初日は見事な快晴だった。
おはようございます！
おはようございまーす。あ、今日はちょっと遅かったかな……。
凪以外はもうみんな来ていて、ユニフォームに着替えていた。
おはよう、二人とも。今日は明日の練習試合に備えて実戦形式の練習をする予定よ。試合では朝陽もマスクをかぶる可能性があるから、悠子からよく教わっておいてね。
気合い入れてやります！
鈴と朝陽も着替えを終え、そろそろ部員達がグラウンドに出ようとした時のことだった。
部室のドアがゆっくりと開いた。
……おはようございます。
あ、凪ちゃん！ おはよう！
凪は左腕を三角巾で吊っていた。
調子はどう？
痛みは落ち着いてます。今日は手伝いもできませんけど……。
そんなの気にしなくていいよ！ 無事そうでよかったわ～！
凪は部室に入らず、その場で深く頭を下げた。
本当に、ご迷惑をおかけしました。もう無茶な真似は絶対にしません。だから……
少し、間があった。
だから……ここで、野球を続けさせてください。
意を決したように、凪が言った。
無茶しないって宣言したな？ 絶対に破るなよ？
はい。今度こそ、必ず守ります。
よっしゃ。早く入りなよ。
凪は頷き、部室に入る。
皐月の隣に凪の席があった。皐月の反対側にはまこが座っている。
骨折じゃなかったんだよね？
うん。もともと入ってたヒビが広がっただけ……。
えー？ そんなんで鈴ちゃんのボール打とうとか無茶すぎでしょ！
本当に反省してる……。
（う……。こいつがしょんぼりしてると調子狂うな……）
――私、みんなとグラウンドに立ちたいから、今は回復に専念する。いつか必ず追いつくからね。
凪ちゃん……。
（うん、この感じなら大丈夫そうだ）
それじゃ、グランドに行きましょう。凪は着替えられるの？
いえ、今日は制服のままで見てます……。
そう。くどいようだけど、焦らないでね。
……はい。
うんうん、ますますチームがいい感じになってきたじゃん！ 今日はアップの前に声出しから始めよーぜ！
たまにはそれもいいかもね。
裾花清流女子野球部の全員がグラウンドに出た。
１５人で、ホームベースを中心に円陣を組む。
そうだ、せっかくだし鈴にかけ声出してもらう？ 今回の功労者に。
わ、私ですか!?
賛成！
鈴ちゃんいなかったら凪ちゃんは野球辞めてたかもしれないしね。やりたまえ。
元気よくね！
じゃ、じゃあやらせていたじゃき……いたっ、いだだ……あれ？ いただきましゅ……あれ？
あはは、鈴ちゃん噛みすぎでしょ。
ちょ、ちょっと失敗しただけだよ！
（ホント、不思議な子……）
円陣は、右足を前に出して上半身は半身 の体勢だ。凪が左腕を吊っているので、肩は組まない。
（よーし、思いっきり楽しくやるぞ）
スッ、と鈴は息を吸った。
裾花清流ファイトー！ 全国のてっぺん取るぞ――――っ！！
お――――――！！
