今こそあのボールを使う時!
文字数 1,925文字
山京学園 3|3
裾花清流 3|3
鈴は2イニング目のマウンドに上がった。
バッターは8番キャッチャーの
その友里を3球目のカーブでセカンドゴロに仕留める。
打順は9番の白山水穂に回った。
右打席に入った水穂は小さく構えた。
身長は低い方だ。
小さく構えると投手はストライクゾーンが狭くなったような印象を受け、投げづらくなったりもする。
山京学園は初回からガンガン振ってきた。
躊躇ないスイングに圧倒された鈴は、勢いに飲まれてしまった。
同じことを繰り返してはいけない。
試合の中で自分を立て直すことも、投手の能力の一つなのだから。
ここまでコースを散らしてきたので、あえて同じコースで勝負に行く。
しかし小林
外の球に合わせると、鋭いライナーがファーストを襲った。
打球はファーストのやや頭上。
夕日がジャンプしてファーストミットを伸ばすが、わずかに届かない。
ライト前ヒットになった。
またも三人で切れず、鈴は思わず嘆いた。
三者凡退にできれば自分もリズムに乗れずはずだと、鈴は考えていた。
相手も簡単に、思うようにはさせてくれない。
そして快音が続いた。
2番、
鈴の投じた初球のシンカーを、九条真帆が振ってくる。
すくい上げるような形で打球が上がった。
サードとショートとレフト、ちょうどその中間点あたり。半身で下がっていく美晴が完全に遅れていた。
ふらふらと落ちてくるボールに奈緒がダイビングキャッチを試みる。
――しかし、これもわずかに及ばず、ボールが芝生を叩いた。
打球が落ちる間に、2塁ランナーがホームに返っていた。
4-3と、裾花清流は再びリードを許す。
ツーアウトから連打で失点。
1回と同じ流れになってしまった。
左バッターの百瀬杏に対し、悠子は外角に構えた。
まだ公式戦では一度も使ったことがない変化球。
結果は想像もつかないが、開き直って投げるしかない。
杏がフルスイングしてきた。
キン、と音がした直後、バシッという音が起きた。
痛烈なサードライナーは美晴の正面に飛び、グローブに収まっていた。
美晴は一歩も動くことなく、ほとんど反射でグローブを出しただけ。そのくらい杏の打球には速度があった。
奈緒、礼、美晴に背中を押されて、鈴はベンチに戻った。
反対側では、山京学園の選手が守備に出ていく。