野球部にはアイドルがいっぱい？
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すみません、今日はお祭りの練習があるのでお休みさせていただきます。
あら、もうそんな時期？ わかった、先生に伝えておくわ。
木曜日の放課後。
練習の用意をしていたところに神村青葉がやってきて報告していった。
お祭りの練習ってなんですか？
青葉の実家は商店街の中にある神社なの。５月の終わりにはそこでお祭りがあって、あの子も獅子舞の笛を吹かないといけないのよ。
神社……ということは、青葉先輩は将来巫女さんになったりするんですか？
いえ、それはお姉さんがやるそうよ。だから青葉も野球をやっていられるの。お祭りの練習だけはちゃんと参加するっていう条件つきでね。
お父さんが先生に約束取りつけに来たもんね～。
あれはびっくりしたよな。どんだけ祭りに情熱燃やしてんだよって。
ま～それ言ったらあたしらもじゃん？ どんだけ野球に賭けてんだって話だし。
……それもそうだな。
（お祭り……獅子舞……楽しそうだなぁ）
（青葉先輩のしゃべり方が独特なのは実家の影響だったんだ。なんか納得）
そんな感じだからさ、青葉って商店街のおっさんたちからアイドル扱いされてんだよな。公式戦の時もみんな応援に来るんだぜ。
あれはすごいよね～。青葉ちゃんの時だけ応援の数が明らかに違うもん。
でも味方の応援が多いって心強いじゃないですか。
どーだろね。
あれ完全にアイドル追っかけてる中年ファンみたいなもんだからな。
バッティングの応援なのに「かわいいよー！」とか聞こえてくるものね。
（なんかやだな、それ……）
部室のドアが開いた。
お、お疲れさまでーす。
お疲れさまです。
あら、今日はホームルームが長引いた？
そういうわけじゃないんですけど……。
じゃーねー皐月ちゃん！
皐月ちゃん練習がんばってねー！
なんか外からすごい声が……。
広野さんがクラスの女子に捕まって撫で回されていたので……。
なんじゃそりゃ……。
逃げ切れませんでした……。
皐月ちゃんってふわふわしてるし撫でたくなるのわかる！
すごく疲れるんだよね……。
ふ～ん。すでにクラスのマスコットとして定着したわけか。
みんなはアイドルだと言っています。
（いやマスコット扱いだろ……）
鈴ちゃんはそういうのないの？ 鈴ちゃんもアイドルの素質あると思うんだけどな～。
な、ないですよ。私って地味なので素質なんて全然……。
そうかな？ 男子がさりげなく視線送ってるよ。
え、そうなの!? っていうかアサちゃんなんで知ってるの!?
んー、教室移動してる時とか、目に映るとすぐわかるし。
（こいつがファン１号か……）
まあ話はこのくらいにして、練習に行きましょう。
全員がグラウンドに出る。
礼せんぱ――――い！！
がんばってくださーい！！
校舎の窓から女子生徒たちが顔を出して手を振っている。
そういや一番アイドルの素質あるのって礼ちゃんだよね。
礼の追っかけ、多いものね。
確かに、あそこから礼先輩に声かけてくる人けっこういますよね！
女子ばっかだけどね。男子が集まってくればつまみ食いし放題なのに……いてっ。
優、人間には限界というものがあるのよ？
（やべ、マジギレ寸前だ……）
礼、あの子たちずっと手を振ってるわよ。反応してあげたら？
……まったく、私なんかのどこがいいのかしら。
礼が手を振り返すと歓声が上がった。
「返事きた！」「かっこいい！」「手を振るだけでイケメン！」「すべてがクール！」
……などなど。
人気ですな～。出来損ないの妹は肩身が狭いですわ～。
出来損ないとか言わない。少しは前向きになりなさい。
（実は優ちゃんにも隠れファンがいるんだよね。養ってあげたいって思ってる人たちが一定数……）
こうやって考えると、野球部はファンのついてる人が多いですね！
夏の大会で活躍した人にはすぐ新しいファンがつくよ。うちの生徒って気に入った人を追いかけ回すの好きだからね～。
そのわりにはお前、あんまりファンとかついてないような気がするんだが……。
あ～、近づいてきた子を片っ端からからかってたらみんな別の人についちゃった。
（桜は誰かにくっつかれるの嫌がるタイプだもんなぁ）
まあ誰かに気に入られたからって特典があるわけでもないけどな。基本周りが騒がしくなるだけだし。
でも、やる気につながりそうです！
鈴ちゃんはプレッシャーに感じるタイプじゃない？
あ、そうかも……。
まあ、普段はあまり気にしない方がいいわ。集中力が途切れる原因にもなるしね。
そ、そうですよね。私たちは上手くなるために練習してるんですし。
うん、いい感じにまとまったんじゃない？ そろそろ始めようよ。
そうね。じゃあ整列して、グラウンドに挨拶からね。
はーい！
こうして裾花清流女子野球部は、色んな方面からの注目を浴びつつ、今日も練習に励むのだった。
………………。
…………。
……。
青葉ちゃーん！ なかなか上手くなったじゃねーか！
青葉ちゃーん！ 目線くれー！
青葉ちゃーん！ 今度の大会も応援行くからなー！
（……本当にやりづらいですね）
一方、神社の境内で獅子舞の笛を練習している青葉は、商店街の店主たちに騒がれまくってひそかにため息をついていた。
