エースとキャプテン
文字数 2,381文字
山京学園 310 000|4
裾花清流 330 010|7
乱打から始まった試合も、とうとう最終回を迎えた。
山京学園は1番からの好打順だ。
投球練習を終えた新海澪は、マウンド上で深呼吸して気分を落ち着かせる。
引木監督の言葉に、山京学園ナインが勢いよく返事をする。
先頭バッターの小林歩夢が打席に入った。
悠子は内角に構えた。
初球、インコースへのストレート。
2球目も同じコースにストレートが走る。
小林歩夢が振ってきた。
やや窮屈なスイングだが、速い打球がサード横へ飛んだ。
水崎美晴が飛びついて打球を押さえる。
すぐ立ち上がって、持ち前の強肩でファーストへ送球。
夕日から桜、奈緒、美晴へと軽快なボール回し。
山京学園のベンチからも懸命な声援が飛ぶ。
大声援を背に受けて打席に入った2番・新郷未来だったが……。
九条真帆が打席に向かう。
3年間の練習の日々が思い出された。
苦しい思いの方が多かった。
それでも、試合に勝てれば嬉しかった。
監督の交代でチームの歯車は狂ったが、それでも野球が楽しいという気持ちは変わっていない。
悠子が外角に構えた。
澪が九条真帆に対して初球を投げる。
チェンジアップが外、膝の高さに決まってストライク。
1球ごとに球場は大きくざわめく。
2球目。
外角低めのスライダーに真帆が手を出す。
バットの先端に当たってファール。
バッテリーは2球で追い込んだ。
澪がモーションに入る。
遊び球はない。3球勝負。
しなやかなフォームから全力のストレートが投じられる。
強烈なピッチャー返し。
澪がグラブを出したが、土手の部分に当たって跳ね返る。
打球がはじけて、マウンドとホームのあいだに転がった。
1塁へ全力疾走する真帆。
一方、澪もマウンドを駆け下りる。
悠子の方が、澪より先に動いていた。
転がったボールを素手で掴み、投げる。
弾丸のような送球が1塁へ飛んだ。
バシッ!――という音が響いたのと、真帆が1塁へヘッドスライディングしたのはほぼ同時だった。
1塁塁審が一歩前に踏み込む。
握り拳が、勢いよく前に振り下ろされた。
狂喜する裾花清流。
一方で、九条真帆は1塁から立ち上がれていなかった。
ヒットなら打順が回ってくるはずだった百瀬杏と、帯刀友里、雪原風日が彼女を起こしに走った。
裾花清流の歓喜の輪が解ける。
山京学園のメンバーがベンチからゆっくり出てくる。
両チームが、ホームに並んだ。
勝った方にも負けた方にも、笑顔や涙があった。たくさんの感情が入り乱れていた。