奮起する下級生たち
文字数 2,425文字
倒れたままの悠子は、小さな声で唸るだけだった。
目も閉じられたままだ。
ドクターが駆けつけてきて様子をうかがう。
すぐに担架が用意された。
悠子は係員に三人がかりで持ち上げられ、担架に乗せられた。
鈴と澪は、運ばれていく悠子についていった。
今崎史織が投げた。
右バッターの内角いっぱいに決まってストライク。
2球目。
真ん中から内角低めへカーブが入ってくる。
夕日は踏み込んだ。
肘を畳み、強いゴロ狙いのスイングを仕掛ける。
芯を食った。
速い打球が三遊間を襲う。
まこが声を出し、皐月も同時にスタートを切っていた。
打球はレフト前へ抜けていく。
皐月がホームインして3-2。裾花清流がこの試合初めてのリードを奪う。さらにツーアウト1、2塁と変わった。
キャプテン西森、4番波河が裾花清流のベンチを見た。
ここまでの二試合、試合展開に関係なく、裾花清流のエースは途中でマウンドを降りている。
これは不可解な交代と言えた。
真修館メンバーは新海澪の怪我を疑っていたが、この交代で確信を持った。
松原雅に対し、真修館バッテリーはインコースのカーブから入った。
デッドボールすれすれからストライクゾーンいっぱいに曲がる変化球だ。
雅はややのけぞるような体勢で見送ったが、ストライクになった。
史織の2球目。
雅はインコースの直球を狙ったが、一転してアウトコースにストレート。
手が出ずに見送った。
ツーストライクと追い込まれる。
これで狙いが絞りにくくなった。
それでも雅は落ち着いていた。
息を吐き、雅は構えた。
今崎史織がモーションに入る。
――その瞬間、背後のショートがサード方向に寄ったのが見えた。
外角低めにストレートが来た。
雅はそれを流し打った。
やや先端。
それでも打球が上がって、サード後方にポテンと落ちた。
まこが腕をぐるぐる回して優をホームへ突っ込ませる。
優はサードを蹴って追加点を狙った。
レフトからの返球が迫ってきたが、優の手がわずかに早かった。
「セーフ!」と主審が腕を広げ、会場が大歓声に包まれる。
9番の奈緒はレフトフライに倒れ、スリーアウトになった。
4-2と、裾花清流がリードした状態で6回ウラを迎える。
ベスト4まであと2イニング。
朝陽の公式戦最初の試合は、部の歴史がかかった重要な舞台でやってきた。
ハイタッチを交わして、朝山鈴と外浦朝陽はベンチを出た。
サンライズ・バッテリー、高校初の戦いが始まる。