背負いこむには早すぎる
文字数 2,594文字
主審の試合終了のコールに、整列した両チームが頭を下げた。
裾花清流は先頭打者の桜がフォアボールで出塁すると、美晴がすかさずバントで送り、礼のセンター前ヒットで10点差をつけてコールドゲームにしたのだった。
昼休み。
昼食を終えた鈴は、3塁側のブルペンに立っていた。
投げ込みは練習が始まってから。
ただ、踏み込みの感覚をしっかり掴んでおきたかった。
ボールは持たずに腕を振る動作を繰り返す。
なぜか成り行きで握手する鈴だった。
差し出された安堂秋穂の右手を握った時、鈴は気づいた。
手のひらがとても硬い。マメもたくさんある。
楽しく野球をやる。
それが一番いい。
けれど、どうせなら楽しく野球をやって、勝ちたい。
誰だってそう思うはずだ。
目の前の選手達はみんな3年生。夏の大会が最後の公式戦になる。
だから、練習を積んできた。
それはみんな同じ。
3年生の重ねてきた時間を、鈴は考える。
自分は、やっとスタートラインに立ったところなのだ。
鈴にはまだ時間がある。
失敗を許されるだけの時間が。