彼女のバットにはロマンが詰まってる
文字数 3,044文字
新海澪が夏の初戦のマウンドに上がった。
初球はスライダーから入ってボール。
2球目にストレートを投げると、東御女学院のトップバッター、篠原真紀がスイングしてファールにした。
3球目のストレートを篠原真紀が振ってくる。
快音。
強い打球が澪の左足へ飛ぶ。
澪がとっさにグローブを出したが、取り切れずはじいた。
打球が跳ねて1塁線の方向へ転がっていく。グローブに当たったために勢いが完全に死んでいる。
カバーに来た悠子が拾ったが、真紀はすでにファーストベースを駆け抜けていた。
澪は頷いた。
2番はキャプテンの一色一葉。左バッターだ。
澪がクイックで投げ込む。
一葉は初球から送ってきた。ピッチャーの正面にボールが転がる。澪がファーストに送ってワンナウト2塁に変わった。
橋爪遼子が右バッターボックスに入る。
小さな構えで、グリップの真ん中を握っている。
外野は前に出てきている。
ヒット一本でランナーをホームに返さないための布陣。
澪は内角低めにストレートを投げ込んだ。
バッターが見送ってストライク。
橋爪遼子がフルスイングした。
強いライナーが三遊間に飛ぶ。
しかし美晴がダイビングキャッチして抜けるのを防いだ。
ランナーを2塁に釘付けしたままツーアウトに変わる。
澪の速球が外角いっぱいに決まる。
島滝亜弥はまったく反応せずに見送った。
悠子が腕を振れとジェスチャーを送る。
澪は苦笑気味に頷いた。
意識していたつもりでも、できていないらしい。
悠子にはそうやって、何度も教えられてきた。
島滝亜弥が逆らわず右方向へ打ち返した。
打球が大きく上がり、ライト線のやや横に落ちる。
篠原真紀がホームを駆け抜ける。
笑顔でベンチに戻っていく真紀を、悠子が悔しそうに見送った。
森村淳は左打者だ。
悠子が外角に構えたのを見て、美晴と奈緒はライン寄りに守備位置を変える。
初球はストレートが外に外れてボール。
続くスライダーが外角から真ん中低めに入ってストライク。
そして3球目、チェンジアップ――
森村淳が泳がされた格好でバットに当てた。
サード正面に打球が転がる。
美晴がしっかり押さえてセカンドに送球。1塁ランナーをフォースアウトにしてチェンジとなった。
しかし2球目。
夕日はまたも甘く入ったストレートを打ち損じてファールチップにしてしまう。
夕日が構えた。腕が震えるくらい、グリップを強く握る。力んではいけないとわかっていても、勝手に力が入ってしまう。
白鳥がモーションに入る。
球速差のあるチェンジアップが投じられる。
落ちるボールを、夕日が豪快にすくい上げた。
ボスッと音がして、レフトスタンドにボールが飛び込んだ。
裾花清流ベンチが一気に盛り上がった。
夕日が全員とハイタッチして、3年生に頭を撫でられたり1年生に腕を触られたりもみくちゃにされる。
それを見た緋田恵は、流れが再び戻ってきたのを感じた。