守るために攻めるんだ
文字数 3,706文字
裾花清流 002 002 |4
真修館 110 000 |2
最終回、7回の表。
裾花清流の攻撃は打順よく1番の桜からだった。
今崎史織のストレートに、桜が詰まらされる。
弱い打球がピッチャー前に転がった。
史織がマウンドを駆け下りて拾い、1塁に送球。
まずアウト一つ。
鈴は声援を送るが、美晴はショートゴロに倒れた。
6球でツーアウトになる。
史織は果敢にインコースを攻めていった。
初球、ストレートでストライクを奪うと、次のカーブもインコース低めにしっかり決めて、2球で追い込む。
しかし、簡単には終わらなかった。
礼がファールで食らいつく。
3、4、5球と連続でファールにすると、史織が慎重になりすぎ、2球続けて低めに外れる。カウントは2-2まで変化した。
史織はインコースにカーブを投げ込む。
礼がコンパクトなスイングで真後ろに飛ばしてファール。
礼の腕に力がこもった。
初のベスト4がそこまで迫っている。
勝利をより確実なものにするためにも、追加点は必須だった。
礼はカーブを狙っていた。
完璧に芯で捉えたが、タイミングがやや早かった。打球はライト線上へ飛んでいく。
打球が跳ねた。
塁審がフェアゾーンに手を向けた。
ライトが回り込んでくるまでに、礼は2塁を陥れていた。
ツーアウト2塁で、4番の青葉に回った。
キャッチャーの古瀬真悠がタイムをもらい、真修館の内野陣がマウンドに集まる。
グローブで口を隠して話し合いを行っている。
タイムが解かれ、内野陣が散っていく。
ホームに戻った古瀬真悠は座らなかった。
青葉からバットを受け取り、朝陽は答える。
そのバットを凪が取りに来た。
球場の歓声は一段と大きくなっている。
そんなうねりの中、史織は初球を投じた。インコースへのストレート。
2球目、低めのチェンジアップに朝陽は空振りを取られる。
ツーストライク。
朝陽は深呼吸して構えた。
中学時代は、あまり打てるバッターではなかった。鈴の援護ができず、悔しい思いをすることも多かった。
だが裾花清流に入って、鈴はもちろん、澪、優という三人の投手のボールを受ける機会に恵まれた。
ボールには目が慣れている。
あとはスイングさえついていけば、どうにかなるはずだ。
史織の3球目。
カーブがインコース低めに入ってきた。
ガッ、と重い音がした。
サード方向へ弱い打球が転がった。
朝陽は全力で走った。
ファーストの西森千鶴が構えている。そこにまだボールは来ない。
頭から飛び込んだ。
両手を伸ばして、1塁ベースに懸命に触れようとする。
サード長村怜奈からの送球がワンバウンドになった。
千鶴はそれを拾い上げたが、バランスを崩した。
内野安打の混乱に乗じて、礼がホームへ突っ込んでいた。
千鶴の反応がやや遅れる。
ホームへ送球。いいコースにいった。
そこに礼が、頭から滑り込んでくる。
礼は回り込むようにして入ってきた。
キャッチャーのタッチをかわして、五角形の先端に左手を当てる。
主審が両手を横に広げて「セーフ!」と声を上げた。
場内は大盛り上がりだ。
2球目のチェンジアップに朝陽のスイングは合っていなかった。
――これは変化球に切り換えられて、やられる。
凪はそう思っていた。
それでも、朝陽は食らいついてみせた。
バッティング練習ではなかなかいい当たりの出ない朝陽だったが、それが今回はラッキーに転じた。
これが公式戦。
何が起こるか、まったく予想できない。
追加点が史織のメンタルに影響を与えた。
優に対してのコントロールが定まらず、フォアボール。
ツーアウト満塁になった。
ここで真修館の監督が動いた。
ファーストの西森千鶴と、ピッチャーの今崎史織をチェンジさせる。
バッターは赤羽夕日だった。
千鶴の投球練習をよく見て、スイングを合わせる。
夕日が右打席に入った。
千鶴が大きなモーションから初球を投げ込む。
アウトコースいっぱいにストライク。
高めに浮いたが、球威はかなりのものだ。
2球目もストレート。
夕日が振っていくが、空振り。
思った以上に伸びてくる。
3球目は完全に高く外れた。
ここまで全部ストレートだ。
代わったばかりで、変化球に不安があるのかもしれない。後逸は確実に1点になる。それを避けるにはまっすぐを使った方が安全だ。
夕日は次もストレートに狙いを定めた。
アウトコースのストレートを夕日が捉えた。
快音が響き、鋭いライナーが右方向へ飛ぶ。
――が、ミットとボールの接触する音が続いた。
ファーストの頭上を抜けようかというライナーを、代わった史織がジャンピングキャッチして押さえたのだ。
真修館のスタンド、バックネット裏の観客から大きな拍手が巻き起こる。
ファインプレーで、真修館ベンチに熱気が戻ってきた。
2番から始まる攻撃。
チャンスは充分にある。
野手が守備に出ていく。
出塁していた三人もベンチに戻ってきて、控え選手からグローブを受け取っていた。