グラグラトライアングル(VS上田第一)
文字数 3,558文字
上田第一 000|0
裾花清流 511|7
澪が安堂秋穂に対して初球を投じる。
外角のストレートを安堂が積極的に振ってきた。
やや振り遅れたが、ファーストの頭を越えてライト前にボールが落ちた。
7点差がついているためか、相手はバントを仕掛けてこない。
2番バッターも初球から振ってくる。
しかし澪のストレートは捉えきれず、追い込まれる。
キャプテンの呼びかけに、2番の藤川風音が焦ったように返す。
注意されて、彼女はバットを拳一つ分短く持った。
澪はチェンジアップで空振りを取りにいった。
風音がスイングしてファール。
さらにストレート、スライダーと球種を変えて攻めるが、3球続けてファールにされる。
アウトコースを要求していた悠子だったが、ここでインコースのストレートのサインを出した。
バッターは内側への速球に食らいついてくる。
鈍い音がして、サード前に弱い打球が転がった。
澪がマウンドから駆け下りてきて捕球、振り向きざまにファーストへ送球した。不安定な体勢からでも速い送球が届く。
1塁はアウトになった。
ワンナウト2塁で3番バッターが打席に入る。
岩見悠子は相手の構えを確認すると同時に、澪の様子も窺った。これといった変化はなさそうだ。
外角のストレートを要求すると、これまで通り力のあるボールが正確に走ってきた。
すでに医師から指示された50球が迫ってきている。
次の回からは投手交代になるだろう。
球数が気になり始めたのか、ストレートの精度がさらに増してきた。
上田第一の3番バッターはインコース低めのストレートに手が出ず見逃し三振に終わる。
4番、花岡里香が右打席に入った。
さっきより構えをやや小さくしている。
初球、澪は外角にスライダーを投げた。
右投手のスライダーは右バッターから逃げるように曲がる。里香のバットがくるりと回った。
次のボール、悠子はチェンジアップを要求する。
澪が狙い通り外角に投げ込んでくる。
里香が左足を1塁方向に踏み込みながら振り抜いた。
ライナーはファーストの上を越えてライト線上に落ちる。
漆原優が取って内野に戻す間に、2塁ランナー安堂秋穂が生還していた。
続く5番バッターに対してもスライダーから入った。
初球で空振りを奪い、2球目は外角のストレートがボールになる。
3球目でチェンジアップを投げると、バッターが強振してきた。しかし芯を外れて力のないショートフライになった。
ベンチの円陣が解ける前に快音が響いた。
先頭バッターの漆原礼がレフト線にツーベースを放ったのだ。
神村青葉が相手の5球目を捉えた。
打球が三遊間を破る。
礼が一気に3塁を蹴ってホームに返ってきた。
さらにバックホームの隙を突いて青葉が2塁を陥れる。青葉は、もし長打力がなければ1番で起用したいと緋田恵が考えていたほどのバッターだ。相手の隙は見逃さない。
岩見悠子は10球粘ったものの、最後は外角の緩い球に体を泳がされてライトフライになった。
そして6番の漆原優に打順が回る。
優は初球をいきなり叩いた。
痛烈な打球がセンター前に転がっていく。
青葉は3塁を回ったところでストップした。
外野がやや前に出てきていたためにホームに返れなかったのだ。
相手にまで呆れられる優だった。
これでワンナウト1、3塁。
松原雅が左バッターボックスに入った。
緋田恵は澪のところで誰を代打に出すか、最初から決めていた。
上級生が9人ちょうどなので、交代する選手は必然的に1年生になる。そして、この一週間の練習で、一番打撃の調子が良さそうな新入生が雅だったのだ。
戸河雪菜が初球を投じた。
外角のストレートに主審の右手が挙がった。ストライク。
雅はバットをピタリと静止させた状態で待つ。
戸河雪菜が2球目を投げてきた。
真ん中から左バッターの内側へ食い込んでくるスライダーだ。
雅は右足を外側に踏み込んで打ち返した。
すくい上げた打球がライト線へ飛んでいく。
ライトが取り切れずボールがグラウンドに落ちた。
ツーアウトなのでランナーは打球の行き先に関係なくスタートしている。3塁の青葉が悠々と、1塁ランナーの優も持ち前の俊足で一気に戻ってきた。
バッターの雅もセカンドベースまで到達する。