第19話 静かなる戦

文字数 1,908文字

「あの巨人族が3ヶ月も攻めてこないとは、連敗続きでやっと降参したか」
 バレスタイン宰相は、そう思い始めていた。

「油断はなりませんぞ。先の戦では7人の死亡で済みましたが、前回は100人もの犠牲者がでております。今後、大規模に攻めてくるやも知れません」
 ガハル最高司令官は慎重だった。

「そうだな。軍部はそれぐらい警戒していないといかんな。例の光弾での牽制部隊はどうなっておる?」

「はい。あちらが攻めてこないのが幸いし熟練度が上がっております」

「警戒は怠っていないのか?」

「潜水艇で、しっかりと見張っております。科学技術では雲泥の差がありますからな。向こうから攻めてくるのに時間が掛かるのも有利に働きます」

「しかし折角、飛行船や潜水艇があるのに移動手段、観光、偵察しか使えないのも勿体ないな」

「恐れながら人でも30人程度しか乗せられませんので仕方ないです」

 そこでマシュロンが口を開く。
「前回申し上げました件に合わせて、飛行船を軍事化しようと研究しております。共に揃わないと効果がだせませんので」

「おぉ! そうか!! でかしたぞ」
 ガハルが興奮して喜んだ。

「お前もなかなか考えているのだな。先にも言ったが、予算はなんとでもしてやるから研究せよ。そして可能な限り早く実戦に使えるようにするのだぞ」

「は! かしこまりました」
 マシュロンも大喜びで御礼を述べた。



 今日は3度目のお父様のご法話の日だ。
『また国民は1万人しか集まらないのだろうか?
 今回は質問が1通あったとお聞きしているが、内容がお父様がおっしゃった”的を得ている”ものだといいな』
 と思わずにはいられなかった。

 広場に国民が集まりだした。
 そして時間の15分前には1万2千人になっていた。
『2千人、増えたわ! お父様の戦い(ご法話)に効果が現れてきた証拠ね』
 私は嬉しくなった。
 まだ増えた人数は少ない。
『でも一歩一歩進んでいけば、どこかで爆発的に増える。思えば先月だって人数は減っていなかった。王家への忠誠もまだまだ一部の国民には根深く生き続けているのよ』
 そう思った。

 そして、ご法話の時間がきた。
 お父様、アモン兄さまが檀上に現れた。

「今日も忙しい中、集まってくれてありがとう。大変嬉しく思う」
 集まった人たちを見回して嬉しそうだった。

「今日は1万2千人と、私の話を聞きに来てくれた人が増えたと聞いている。ありがとう。あなた方はアトランティスの光を支える方々だ」

「さて今回は、反省と感謝の重要性について話をしたいと思う。各家庭のスクリーンで観てくれている人も、しっかりと聞いて欲しい」

「親子が一番解り易いと思うので、例としてあげよう。家庭とは社会の一番の最小単位だ。社会とは家庭という地盤の上に成り立っている」

「何故、この父や母の元に生まれたのだろう? と考えない人はいないと思う。そして勝手に産んだと思っている人もいると思う」

「しかし、良く思い出して欲しいのだ」

「自分が父や母にしてもらったことを、まず書き出して欲しい。例えば”朝、毎日起こしてくれた”、”学校に通わせてくれている”、”お小遣いをくれた”など簡単なもので良い。書きだすと沢山あるぞ」

「そして、次に自分が子供として父や母に何をしてあげたのかを書き出して欲しい。”誕生日にプレゼントをあげた”など些細(ささい)なことで良い」

「そうすると、ほぼしたもらったことは沢山あるが、してあげたことは少ないことに気づくだろう」

「それに気づくことができれば、父や母に対して想ったことに対して反省の念が湧くと共に感謝の心も浮かぶであろう」

「これは夫婦の間でもそうだ。色々なケースがあるが、会社の上司に対しても可能だからアトランティスの民よ。是非、試して欲しい」

 意外と今回は、身近な話が題材で私もびっくりすると共に感心して聞き入っていた。
 ご法話が無事終わると、
「今日の話はこれで終わりだが、質問が一通届いていた。ありがとう。嬉しく思う」

「内容は、”私は軍人です。巨人族と戦をし何人もの巨人を殺しました。王様はお話の中で殺すなかれとおっしゃっていました。私はどう受け止めたらよろしいのでしょうか?”というものだ」

「実に良い質問であるし、軍に属する方々、警察の方々には職務を全うすることと私の話との乖離(かいり)に悩んだのだと思う。しかし、悩んでみて欲しかったのだ。真剣に受け止めて考えて欲しかったのだ。また一度に話をすると皆が混乱するであろうと思い、前回話をしなかったのだ。許して欲しい。だから今から、その問に答えよう」

 お父様には質問を出した人が分かるのだろう。
 その目は会場に1人を見ていた。
 そして、会場全体を見回すと話し始めた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アトランティス王家最後の第二王女で、本作の主人公

ラムディア・ラァ・アトランティック

「皆さま、どうかアトランティスの悲劇を現文明で繰り返さないようお願いします」

アカシック王

アトランティス滅亡を防ぐため降臨した救世主(メシア)

「愛とは奪うものではなく与えるものである。爽やかに吹き渡る風のように」

「創造神は人に完全なる自由を与えた。しかし自由には責任が伴うのだ」

後世、イエス・キリストとして降臨する。

アモン(第一王子)

アカシック王の後継者。

アカシック王の第一子。

性格は温厚で優しく、遠視や未来を視る能力を持つ。

重要な役割を負うことになる。

ラファティア(第一王女)

アカシック王の2番目の子で、巫女を務める。

能力が高く結界の守護者。

性格は早くに亡くなった母のように母性の高く思いやりに満ちている。

アーク(第二王子)

アカシック王の3番目の子で、近衛隊長を務める。

性格は正義感が強いが、気性が少し荒い。

曲がったことが嫌い。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み