第44話 姫に忠誠を

文字数 1,963文字

 1時間後、発着場に飛行船が降りてくるのが見えた。
 降下し着陸してしばらくすると、搭乗口が開いてクルツが下船してきた。

 私は、クルツに駆け寄っていった。
 クルツが驚いている。

「ひ‥‥姫様! 何故、このようなところにおいでに」

「もちろん、クルツを迎えに来たのよ」
 とウィンクする。

「わざわざ姫様ご自身がおいでになるとは、光栄至極に存じます」
 と首を垂れた。

「大変だったわね。私は、アモン兄さまに視てもらって全部把握しているわよ」

「そうでしたか。アモン王子には、またも御恩を受けました」

「あなたは最善の策を英断した。そのお陰で戦死者が最小限で済んだ。これは事実よ」

「ありがとうございます!」
 クルツは感動していた。

「あなたは英雄よ。もっと胸を張って! 人としても武人としても立派だったわ。私もあなたに変な処罰がくだらないように頑張ってみるからね!」
 と一生懸命、励ました。

「あぁ女神様。本当にラムディア姫は女神様なのですね」
 と感動で声が震えていた。

「残念ながら女神ではないけどね」

「いえ! 私たちアチ地区の駐屯部隊にとって姫様は女神様です」

「ありがとう。もったいない言葉だけど素直に喜んでおきます」

「はい! そう信じております」
 と言うと、軍からの迎えの者が半ば強引にクルツを連行していった。

「クルツーーーくじけないでね。守ってあげるから!」

「姫様、ありがとうございます」
 と連行されながらも返事をしてくれた。
 しかし、そのあと頭を叩かれていた。

『酷いことを‥‥何とかしてあげなくては!』
 その足で、軍司令部に突撃した。



「ラムディア姫! 如何なされましたか?」
 ガハルが驚いている。

「ガハル司令。あなたはクルツを罰するおつもりですか?」
 と問い詰める。

「もちろんでございます。ろくに砦で防御戦もせず、あっさり拠点を開け渡してしまったのですから。これで我が軍が劣勢に追い込まれました。アチ地区の第1拠点を取り戻すのは並大抵ではございません。処罰しませんと軍全体に示しがつきません」
 と平然と答えた。

「私は、すべての状況を把握しています」

「それはアモン王子のお力でしょうか?」

「そうです! その結果、クルツは最善の策を英断し被害を最小限に留めたことがわかりました。ですから処罰に値しません!」
 そう食ってかかった。

『なんて姫君だ。バレスタイン宰相からは王家とは、まだ対立するなと命じられておるし困ったことになった』
 内心、ガハルは歯ぎしりしていた。
「わかりました。クルツには状況報告をさせ、西方ソコ地区の部隊長に異動させることに治めておきます。これが譲れる最大限です!」

『‥‥』
 目を真っ直ぐに向けるが、ガハルも譲らない。

「わかりました。私もそれで引きます。ガハル司令、ありがとう」
 そう言って、一旦王宮に戻った。

『あの姫君は国民にも、軍部にも人気がある。下手に敵に回すと厄介な存在になってしまった。くそぉ! 仕方がない。クルツの件は約束してしまったからには守らねばならん』

 その後、ガハルはクルツに直接会いに向かった。



 クルツが軍司令部からでてくるのを、私は待っていた。
 クルツは私を見つけると駆け寄ってきて、私の前で片膝を着いて首を垂れた。

「ラムディア姫。本当にありがとうございました。姫様のお陰で西方への異動でことが済みました。部隊長への降格ではありますが、それ以上の処罰はありませんでした」

「いいのよ。ガハル司令は私との約束を守ってくれたのね。良かったわ」

「本当にありがとうございました」

「私こそ、ごめんなさいね。左遷までは止められなかったわ」

「いえ、充分でございます。首都への出頭命令の際には独房入りを覚悟しましたのですから、ありがたいことでございます」

「そういってもらえると、私も救われるわ」

「ラムディア姫! 私は、あなたご自身に忠誠をお誓いいたします。ファーレン元司令官も同じ想いだと思っております」

「私個人に忠誠を誓わなくても良いわよ。でもお父様、アカシック王に忠誠を誓ってくれるのなら嬉しいわ」

「はい! アカシック王はもちもん、アモン王子、ラファティア姫、アーク王子にも私の忠誠を捧げます」

「ありがとう。いつソコ地区の拠点に立つの?」

「はい。1週間は実家に留まり、その後出立いたします」

「お見送りにいけるかな」

「いえ。そのようなことは無用にございます。ありがたき幸せでございます」

「ご家族と久しぶりに会えるのね。1週間だけど、あなたの英断へのご褒美だと思ってね」

「はい! 首都で姫様をお守りすることは出来ませんが、私の忠誠は一生変わりません」

『本当に人としても武人としても立派な人だわ。救えて良かった』
 心からそう思えた。

 そして、クルツと別れた。
 1週間後の出立には立ち会うことができなかったのが残念だった。
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登場人物紹介

アトランティス王家最後の第二王女で、本作の主人公

ラムディア・ラァ・アトランティック

「皆さま、どうかアトランティスの悲劇を現文明で繰り返さないようお願いします」

アカシック王

アトランティス滅亡を防ぐため降臨した救世主(メシア)

「愛とは奪うものではなく与えるものである。爽やかに吹き渡る風のように」

「創造神は人に完全なる自由を与えた。しかし自由には責任が伴うのだ」

後世、イエス・キリストとして降臨する。

アモン(第一王子)

アカシック王の後継者。

アカシック王の第一子。

性格は温厚で優しく、遠視や未来を視る能力を持つ。

重要な役割を負うことになる。

ラファティア(第一王女)

アカシック王の2番目の子で、巫女を務める。

能力が高く結界の守護者。

性格は早くに亡くなった母のように母性の高く思いやりに満ちている。

アーク(第二王子)

アカシック王の3番目の子で、近衛隊長を務める。

性格は正義感が強いが、気性が少し荒い。

曲がったことが嫌い。

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