第15話 法戦開始
文字数 2,363文字
時は6年前のオリハルコン歴1581年。
私 が10歳になったとき。
私は巫女としての資質があったのだけど、姉のラファティアが先に生まれ巫女資質も高かったこともあり、神殿での神事担当への要請はなかった。
男の子のような活発さを持ち合わせていたため、「剣を習いたい!」と申し出た。
そして、軍部より教育係として派遣されてきたのがシルバーだった。
年は25歳。
屈強な男性というよりもスリムな体型の男性であった。
多分女性の私への配慮もあったのだと思う。
最初に目を惹いたのは、アトランティスでは珍しい銀髪だ。
王家の血が入っているのかと聞いたが、
「めっそうもございません。私は一介の国民に過ぎません」
と答えたと記憶している。
剣の修行は、基本からしっかりと叩きこまれた。
「基本ができていないと、何をやっても技術が薄いものになり実戦になると使い物になりません。ですから気を緩めず真剣に取り組んでください」
というようにだ。
戦闘スタイルも教科書通りというものであったが、俊敏性重視のスタイルで教えてもらった。
円、弧を描くような戦闘スタイルは自らが見出したものだ。
曲芸を見て、一番無駄がなく自身のスタイルに合っていると思いつき修練を重ねた結果取得したのだ。
そのシルバーが目の前にいる。
「先日の巨人族との闘いでは、助けてくれてありがとう。シルバーがあのときに巨人を倒してくれなかったら間違いなく私は死んでいました」
「とんでもございません! あの巨人は目の前のラム様が宝箱に見えたようで執拗にラム様を狙い続けていました。ですから、私が攻撃できる隙ができたのですから、ラム様のあの戦いがなければトドメを刺すことはできませんでした。盾を持った左肘に決定的なダメージを与えてくださったお陰で安心して首を狙えたのです」
「そういってくれると嬉しいわ。ありがとう。でも命を救ってくれたのは間違いありませんから改めて御礼を言わせてください」
「ありがたき幸せに存じます」
今はシルバーからの剣の修行も卒業しており師と弟子の関係ではないが、それでも師であったのは間違いない。
私を護ってくれる信頼できる人だ。
「ラム様、王様のご法話が始まりますよ。警備は我々にお任せいただき、ラム様はお耳とどけください」
「ありがとう。初めてのご法話ですから、甘えさせていただくわ」
そう返事をすると、シルバーは去っていった。
*
ここは王宮前の広場。
総勢10万人は収容できるほど広い。
各所にスクリーンが設置され、お父様 のご法話がどの場所でも拝聴できるように考慮されていた。
しかし、実権を失い国家の象徴と化した王家のカリスマは落ちていた。
そのため、この広場には1万人ほどしか集まらなかった。
もちろん、各家庭でのスクリーンでも受信し拝聴することは可能だ。
『たった1万人しか集まらなかった。これほど王家への忠誠は落ちているのか』
と肌で分かってしまった。
そして、時間が来た。
お父様が檀上に向かって歩いてくる。
その隣には、長兄のアモン兄さまがついていた。
檀上に到着すると、お父様は早々にご法話は始められた。
「アトランティス、3千5百万人の国民の皆よ。日々忙しい中、今日という日に集まってくれて、家庭で観てくれてありがとう」
と、とても謙虚であった。
その目は慈愛に満ちていた。
気のせいかも知れないが、煌くような金髪だけではなく後光が差しているようにも見えた。
「我 は、我 が先祖、トートの神より啓示を受けることができるようになった」
と周りを見舞わす。
騒めく国民。
そうなのだ、トートが地上に生まれていたことを疑っている人さえいる時代なのだ。
きっと、
『信じられない』
『この王様は何を言っているのだ?』
『王様が狂ったのか?』
と思っているのだろう。
「良く聞いて欲しいのだ。トートの神は、現在のアトランティスを嘆き、心配しておられる」
ゆっくり話をし、国民にしっかりと聞こえるようにしている。
「確かに科学技術が向上し、このアトランティスは便利で豊かな国となった。それはとても誇らしいことである」
「だが科学万能に溺れ、怠けるようになってはいけない。また、人は天から地上に降り100年ほど行き、また天に還る。そういった存在であることを現代人は忘れかけている」
「いま生きているその肉体が貴方ではないのだ。その中に宿っている魂、心こそ貴方自身なのだということを忘れてはいけない」
「飛行船で例えるならば、飛行船が肉体、操縦者が心なのだということを理解して欲しい」
「その心はトート神に繋がっており、全ての人が実は根は同じなのだという真実を伝えたい」
「だから他人を傷つけることは、神からの目から見ると自分自身を傷つけているのだということになる」
「人には親切に、愛を持って、相手の立場に立って考え思いやりのある対応することこそ重要なのだ」
「愛というのは性愛、家族愛だけではない。どれだけ沢山の人にとっての存在の愛であるかであるのだ」
「この地上では、その器を大きくするための修行の場として100年足らず降りてきているのだということを知っていて欲しい」
会場は静まり返っている。
聞きいっているというよりは、何を言っているのか分からない。
とりあえず、王様の話なのだから黙って聞いていよう。
という感じがヒシヒシと感じられた。
なおもご法話は続き、1時間ほどで終わりを迎えた。
「今後も月に1回。法話を続けていくので国民の皆よ。是非、継続して聞いて欲しい」
「質問があるのなら、いくつか的を得ていることには答えようと思う。そういったものは王家への質問受付を実施するので遠慮なく質問して欲しい」
「それでは我がアトランティスの国民よ。本日はありがとう」
と言って、檀上から去っていった。
私は巫女としての資質があったのだけど、姉のラファティアが先に生まれ巫女資質も高かったこともあり、神殿での神事担当への要請はなかった。
男の子のような活発さを持ち合わせていたため、「剣を習いたい!」と申し出た。
そして、軍部より教育係として派遣されてきたのがシルバーだった。
年は25歳。
屈強な男性というよりもスリムな体型の男性であった。
多分女性の私への配慮もあったのだと思う。
最初に目を惹いたのは、アトランティスでは珍しい銀髪だ。
王家の血が入っているのかと聞いたが、
「めっそうもございません。私は一介の国民に過ぎません」
と答えたと記憶している。
剣の修行は、基本からしっかりと叩きこまれた。
「基本ができていないと、何をやっても技術が薄いものになり実戦になると使い物になりません。ですから気を緩めず真剣に取り組んでください」
というようにだ。
戦闘スタイルも教科書通りというものであったが、俊敏性重視のスタイルで教えてもらった。
円、弧を描くような戦闘スタイルは自らが見出したものだ。
曲芸を見て、一番無駄がなく自身のスタイルに合っていると思いつき修練を重ねた結果取得したのだ。
そのシルバーが目の前にいる。
「先日の巨人族との闘いでは、助けてくれてありがとう。シルバーがあのときに巨人を倒してくれなかったら間違いなく私は死んでいました」
「とんでもございません! あの巨人は目の前のラム様が宝箱に見えたようで執拗にラム様を狙い続けていました。ですから、私が攻撃できる隙ができたのですから、ラム様のあの戦いがなければトドメを刺すことはできませんでした。盾を持った左肘に決定的なダメージを与えてくださったお陰で安心して首を狙えたのです」
「そういってくれると嬉しいわ。ありがとう。でも命を救ってくれたのは間違いありませんから改めて御礼を言わせてください」
「ありがたき幸せに存じます」
今はシルバーからの剣の修行も卒業しており師と弟子の関係ではないが、それでも師であったのは間違いない。
私を護ってくれる信頼できる人だ。
「ラム様、王様のご法話が始まりますよ。警備は我々にお任せいただき、ラム様はお耳とどけください」
「ありがとう。初めてのご法話ですから、甘えさせていただくわ」
そう返事をすると、シルバーは去っていった。
*
ここは王宮前の広場。
総勢10万人は収容できるほど広い。
各所にスクリーンが設置され、
しかし、実権を失い国家の象徴と化した王家のカリスマは落ちていた。
そのため、この広場には1万人ほどしか集まらなかった。
もちろん、各家庭でのスクリーンでも受信し拝聴することは可能だ。
『たった1万人しか集まらなかった。これほど王家への忠誠は落ちているのか』
と肌で分かってしまった。
そして、時間が来た。
お父様が檀上に向かって歩いてくる。
その隣には、長兄のアモン兄さまがついていた。
檀上に到着すると、お父様は早々にご法話は始められた。
「アトランティス、3千5百万人の国民の皆よ。日々忙しい中、今日という日に集まってくれて、家庭で観てくれてありがとう」
と、とても謙虚であった。
その目は慈愛に満ちていた。
気のせいかも知れないが、煌くような金髪だけではなく後光が差しているようにも見えた。
「
と周りを見舞わす。
騒めく国民。
そうなのだ、トートが地上に生まれていたことを疑っている人さえいる時代なのだ。
きっと、
『信じられない』
『この王様は何を言っているのだ?』
『王様が狂ったのか?』
と思っているのだろう。
「良く聞いて欲しいのだ。トートの神は、現在のアトランティスを嘆き、心配しておられる」
ゆっくり話をし、国民にしっかりと聞こえるようにしている。
「確かに科学技術が向上し、このアトランティスは便利で豊かな国となった。それはとても誇らしいことである」
「だが科学万能に溺れ、怠けるようになってはいけない。また、人は天から地上に降り100年ほど行き、また天に還る。そういった存在であることを現代人は忘れかけている」
「いま生きているその肉体が貴方ではないのだ。その中に宿っている魂、心こそ貴方自身なのだということを忘れてはいけない」
「飛行船で例えるならば、飛行船が肉体、操縦者が心なのだということを理解して欲しい」
「その心はトート神に繋がっており、全ての人が実は根は同じなのだという真実を伝えたい」
「だから他人を傷つけることは、神からの目から見ると自分自身を傷つけているのだということになる」
「人には親切に、愛を持って、相手の立場に立って考え思いやりのある対応することこそ重要なのだ」
「愛というのは性愛、家族愛だけではない。どれだけ沢山の人にとっての存在の愛であるかであるのだ」
「この地上では、その器を大きくするための修行の場として100年足らず降りてきているのだということを知っていて欲しい」
会場は静まり返っている。
聞きいっているというよりは、何を言っているのか分からない。
とりあえず、王様の話なのだから黙って聞いていよう。
という感じがヒシヒシと感じられた。
なおもご法話は続き、1時間ほどで終わりを迎えた。
「今後も月に1回。法話を続けていくので国民の皆よ。是非、継続して聞いて欲しい」
「質問があるのなら、いくつか的を得ていることには答えようと思う。そういったものは王家への質問受付を実施するので遠慮なく質問して欲しい」
「それでは我がアトランティスの国民よ。本日はありがとう」
と言って、檀上から去っていった。